社長が「ESG」と言っている間は、まだまだ

日経新聞の2018年5月2日(日)ウェブ記事
「ESGは「攻め」に効く 花王やTOTO、本気宣言」
(日経ESG 相馬隆弘)
日経2018年4月号の記事を再構成

花王の和田道隆社長は今年2月、決算説明会の場で中期経営計画の達成に向けてESG(環境・社会・ガバナンス)活動を本格化すると宣言した。・・・さらなる成長へ向けたエンジンとしてESG活動を位置付けた。
花王の宣言に象徴されるように、ESGを経営戦略の中枢に据える企業が増えている。

中経のコンテクストでESGが語られるのは、統合報告の到達点であり、ESG投資家が惹きつけられるのは間違いない。
ここでいうESGは、「気候変動」といった具体的なESGイシューのことを指しており、「ESG」という単語ではない。中経に「ESG活動」なる単語が登場したことではない。(為念

記事によれば、エンジンとして「ESG活動」を位置付けたとあるが、この「ESG活動」って意味不明だ

ESGという造語は、環境 or 社会 or ガバナンス に着目する投資という意味で作られているので、「ESG活動」といった合体型の活動なるものは存在しないので、What are ESG activities exactly? となってしまう。
普通に考えても、E&S(環境、社会)とG(ガバナンス)は一緒にならない。
E&Sはステークホルダー関係であり、Gは株主と経営者関係を指しているからだ

なので、E&S(環境、社会)の何を中経の中枢に据えるのか、具体的に語ってもらいたい。ESGといわれても何のイメージも湧かない。

記事にもあるように、グローバル企業には、サステナビリティを戦略の中枢に据える企業があり、ESG投資家の熱烈な支持を受けている。ユニリーバは世界ESGランキング最高の企業であり、なんといっても昨年くらいまでESGエンゲージメントのメインテーマであったパームオイルでの神対応でもはやレジェンドだ。

グローバル食品メーカーもわかりやすい例だろう。
ネスレやダノンも、食品業界がいつまでもオレンジ色のスナック菓子で食欲を刺激して売上拡大という路線では立ちいかないと考えている。先進国から雨あられのようにジャンクフードが降り注ぎ、エマージング諸国はどこも肥満に悩んでいる。ネスレはキットカットを小さくし、カロリーを表示している。ダノンはジャンクフードのラインはすべて売却してヨーグルトを軸にヘルシーラインに絞り込んでいる。また、リスク面でも食品業界は原料の生産現場が度々問題になっている。商品作物のプランテーションは、地元の農業を破壊したり、児童労働の温床になったりと問題が多いが、こういったサプライチェーンのエンドまで今ではチョコメーカーの責任である。

ただし、ESGは成功のマジックワードではない。GEの突然の社長退陣のニュースに驚いたが、GEに16年君臨したカリスマ経営者のイメルト社長は、早くから「環境」をGEの事業戦略の中枢に据えていた。GEのホームページには環境経営が謳われて、なかなか感動的な内容だったので、ESG投資セミナーでもちょくちょく紹介していた。イメルト社長は、再生可能エネルギーを見据えてオバマ政権下のパリ協定を進めたが、現トランプ政権で政界とのパイプも切れてしまったとも言われている。結局のところ、GEの株価の低迷によって経営陣の刷新となったようだ。

もちろんマテリアルなESGイシューに気づいていない企業の経営は問題だが、気づいた(本気宣言)企業では、「ESG」の何がマテリアルで、何がリスクで、何が投資機会となるのか、社長には「ESG活動」の中身を語ってもらいたい。

株主優待や社会貢献とESG投資は無関係

日経新聞の2018年5月6日(日)朝刊記事
「株主優待にESGの波、上場企業、「寄付」導入が2割増」
日本的慣行が「進化」
(阿部真也、渡辺夏奈)

はっきり言っておくが、

「ESG投資」の波が株主優待にも及んでいる。寄付の選択肢を加える例が目立つ。日本的慣行とされる株主優待を利用して、世界的な関心事であるESG投資に対応する動きと言えそうだ。

ということは全くない。

社会貢献型の導入は、機関投資家の選択肢とする意味合いもある。

いや、そのような意味合いはまったくない。

なぜならば、
ESG投資とは、投資判断の意思決定プロセスにおいてESG要因を考慮する投資だからだ。ESG投資と株主優待は無関係だし、株主である貴方の社会貢献とも無関係だ。

ガバナンスの観点から、機関投資家にとって株主優待は無用だ。そもそも企業の所有者は株主なので、企業のお金は株主のお金だ。自分のお金で、自分を優待するって変だろう。経営者が企業は自分のモノだと勘違いしているか、株主優待を株のオマケだと勘違いする個人投資家に株主のコストを使って訴求しているわけだ。

それに機関投資家は顧客の資金を預かって投資しているので、株式投資から得られるものはすべて顧客あるいは受益者の資産なので、株主優待もその一部で、ファンドマネージャーが勝手に株主優待のお米を家に持って帰ったりしたら不正だ。翻っていえば、株主優待で社会貢献するのも、投資パフォーマンス最大化の努力の一部としての投資判断でなければならない。

ESG投資に熱心な機関投資家株主でなくても、およそ機関投資家株主は投資先企業に株主優待そのものをやめるように言ってるはずだ。
もっとも他にもっと言わないといけないことがあって、株主優待まで手が回ってないかもしれないが、聞かれたら「止めてくれ」というのが正しいお答えだ。

出羽神も出しておくと、欧米には、いくつか自社製品の株主価格販売があるだけで、クオカードやお米券や、非売品フィギュアなどを配っている企業はない。
日本企業がやたら株主優待するのは、株主のコストのもと個人投資家獲得という安定株主工作を行っている、というのが本当のところでは?個人投資家が安定株主かどうかはまた議論のあるところだけど、サイレントな投資家であることは間違いない。個人投資家にはスチュワードシップ責任もないし、外部モニタリングはやらない経営陣にとって都合のよい株主さんだと考えられているからだろう。
とすれば、株主優待は日本企業のガバナンスの欠如の現れであり、ESG課題のひとつだから、ESG投資の波が押し寄せれば、株主優待が減少するという風になるだろう

社会貢献について「有識者」(MPA for Nonprofit Management)としてコメントしておくと
社会貢献=寄付は、企業を通じて行うものでは本来ない、支援したいと思ったら直接手渡すべきだ。公益に資することを存在意義にするNPOが、企業から寄付金を受け取ることと広く個人から支援を受けるということは、まったく意味が異なる。
なぜなら、寄付という行為は、エンゲージメント同様、意思表明でもあるからだ。

企業の社会貢献が、真に他利的であれば、それは営利企業としての企業価値増大目標に反する。通常、企業の社会貢献のモチベーションは自らの営利的なものであるはずと考えられている(それで構わない。)
一方、個人の寄付は、パブリックからの支持のバロメーターであると考えられており、資金調達の一定の割合が寄付で賄われているかどうか(パブリックサポートテスト)はNPO認定の基準となる。

株主優待で社会貢献の訳のわからなさは、ふるさと納税と同じレベルだ。
日本人も自ら考え行動する市民として、寄付やボランティアによって公益に貢献するということをそろそろやってもいいのではないかと思う。つまり、当該株式投資によって現金配当あるいはキャピタルゲインで得られた投資収益の一部を、つまり自分のお金から、自らがサポートしたいと思う活動に寄付し、その活動をモニタリングするということだ。

DOL(米国労働省)、ESG投資に塩対応?

DOLはESG投資に関するFAB(Field Assistance Bulletin) 2018を発表した。
ESG投資に関するFABは2015年、2016年にも出ているが、これらの補足として出されたものだが、
オバマ政権時に出たFAB2016とは、かなりトーンが異なるものとなっているとのこと
そこで、当該FABを読みに行ってみた。
https://www.dol.gov/agencies/ebsa/employers-and-advisers/guidance/field-assistance-bulletins/2018-01

最初にESG投資とDOLの関係だが、DOLは企業年金制度を所管しており、ご存知の通りERISA(エリサ法)は年金基金の受託者責任を定めている。ESG投資がERISA上の受託者責任に触れないかどうかについては、DOLが見解を出す。

米国でSRIが盛んになった90年代後半に、社会的な目的を持つ投資が年金基金の受託者責任(もっぱら受益者の便益のみを資産運用の目的とすること)に違反するのではないかという議論があった。(今もある)

SRIが、つまりESG要因を考慮することが年金基金の投資においてERISA上の受託者責任違反にならないことを示したのがいわゆるDOLのカルバートレター(1998)であり、「投資パフォーマンスが遜色ない(return compelling)のであれば、SRIは問題ない」との見解を示し、米国の企業年金基金のESG投資の道を開いた(とされる。)

ERISAがカバーするのは米国の企業年金基金だけであるが、DOLの解釈が広く世間で語られるESG投資の受託者責任問題の事実上の指針となっている。日本においてもGPIFがまだ年福だったころの理事が「ERISA違反だから企業年金基金はSRIはダメ」と年金情報に書いていた。もちろんERISAは日本の企業年金基金はカバーしてない。
ということで、DOLのESG投資に関するFABに注目する必要があるのである。

2016年のFABでは、かなり踏み込んだとの評価があったが、基本的にDOLの立ち位置は、Return Compellingから変わっていないと思う。
資産運用の受託者責任は受益者あるいは顧客のベストインタレストのために働くことだ。このベストインタレストは経済的なインタレストであって世直しの満足度といった善行(Doing goodとかGreater good)の価値は含まれていない、というのがDOLの見解である。

したがって、ESGを考慮することは、それが資産運用のパフォーマンスに寄与するときのみ正当化される。
カルバートレターではReturn compellingとされた。遜色ないというのは、同等以上というニュアンスで、より有利と思われるときはESG投資を選んでもいいととれる。世直しの分パフォーマンスそっちのけというのはダメよ、ということだ。

FAB2016では、同等ならESG投資を選べと取れる表現があった。少しでも良くなる可能性があるのならば、ESG投資をやらない手はないだろうと、幾分修辞的な表現ながら、ESG投資を主流(マジョリティ)と認定した、とESG業界では評価された。(私は幾分、意訳が入っているような気がしたが)

それでもって今回のFAB2018では、
ESGを考慮するのは厳に経済的なインタレストに資するときのみ、と明確化している。FAB2016と違って解釈の余地はない。ここでちょっと注意しておかなければならないのは、米国の企業年金の主流は401Kプラン、つまり確定拠出年金(DC)であることだ。DCにおいては加入者個人が資産配分やファンドを選ぶ。その際、個人の価値観を反映させた選択をするのは個人の自由である。DOLが言っているのは、ESGテーマ投資をラインナップに加えるのはよいが、その際既存のESGでないテーマ投資を外したりせず、それも選択肢として残せというものだ。ESG投資業界が望むESG入ってるものだけにしようというESGデフォルトにダメ出し。それに、ESGだったら何でもいいというわけにはいかないと言いたげだ。
さらに、議決権行使や株主提案、エンゲージメントは、受益者の経済的なインタレスト、つまり投資パフォーマンスに寄与する、しかもコスト勘案後で、というのがやっていい条件だとしている。年金基金や運用機関が受益者のコストのもと社会目的、Greater Goodのためにエンゲージメントすることは、濫用にあたる。あくまでも、ESG課題だろうが財務課題だろうが、企業価値に影響するものでなければならないとしている。

このDOL見解では
DBがスクリーニング投資をやるのは、基本的にクロだろう。
ESG準拠、いわゆるポジティブスクリーニングも現在のESGファクター?のレベルでは、グレーだろう。
一方、ESGのマテリアリティに確信のあるアクティブ運用(ESGインテグレーション)の立ち位置とは矛盾しない。
DCにおいて個人がESG投資を選べるように選択肢を置くのは問題ないが、ESG投資のみにして、ESG投資でない投資への選択肢がないのはダメ。
受託者責任投資家の議決権行使やエンゲージメントなど株主行動が必要というのはエイボンレター以来変わっていないが、企業価値向上や投資パフォーマンスと関係ない社会的目標達成(社会に注意喚起するとか認知をすすめるためも含まれる)のために使うのはダメ。さらにコスベネを言われると、パッシブのエンゲージメントは苦しい。企業分析していないのに、企業価値向上のエンゲージメントを探し当てられるのか不明だし、そのためにパッシブ銘柄のソーティングをするならそのコストは誰が負担するの、ということになる。だいたいエンゲージメントの効果を測るのはかなり難しいし、エンゲージメントはコストがかかる(人件費。)したがって、エンゲージメントに関するDOL見解はかなり厳しい。

ただ、実際にはFiduciaries(受託者責任のある機関投資家)のスクリーニングは広く行われているし、多くの公的年金基金が社会や環境の課題解決を主目的とするインパクト投資のプログラムに取り組んでいる。最近の運用機関のエンゲージメントチームはどんどん大きくなっている。

創業会長のセクハラ辞任はガバナンス強化で乗り越えろ(米国)

アカデミー賞の常連ハリウッドの超大物プロデューサー、ハーベイ ワインスタインのセクハラ事件はハリウッドの頂点に立つレジェンドが、その立場を利用して女優やモデルの女性に関係を迫るというパワセクハラだ。実際にセックスに応じなかった女優を干したりもしていたらしく、ハーベイに好かれるというのはハリウッドでの成功の条件で、それは長年の公然の秘密だった。

しかし、時代はジェンダーパリティに向けてアクセルを踏んでいる。最後の砦は、トップ、支配層だ。ここは今だに男が圧倒する。支配層への女性進出は、男女平等が進む先進国の最後の課題なのだ。これが、最近のセクハラ告発の多発の背景にあると私は考えている。女性を搾取する支配層のワル達は、女性が支配層へ進出すること、すなわち”女性活躍”を好まないだろう。パワセクハラトップこそ女性が支配層に入れない阻害要因に違いない。

当然、ビジネス界にもありそうな話である、と思ったら案の定とばかりに出てきたのが、ウィンリゾート(Wynn Resorts)の創業者会長のCEOスティーブ ウィン氏。ウィンリゾートはラスベガスのカジノ(日本では総合型リゾートというらしい)でNASDAQ上場、S&P500銘柄でもある大企業だから、当然、機関投資家株主にとって他人事ではない。
ラスベガスのカジノ経営のレジェンド、スティーブウィンはその立場を利用して、長年に亘ってイヤと言えない女性従業員と性関係を持っていたというもので、本人は否定するものの、次々と詳細なセクハラの実態が露出、ウィンリゾートの株は8%も下げた。

スティーブ ウィンは会長CEOを辞任、持っていた37億ドル相当のウィンリゾート株を売却したとされその影響もあってか株価は2月は低迷した。また、ボストン郊外に建設中のカジノの許認可にも影響するかもしれないという。ウィンはかつてミラージュは敵対的買収で失ったことから全財産のほとんどをウィンリゾートの株で持っていたとされるが、今度はセクハラで会社を失った。ちなみにウィンリゾートの売り上げはマカオからやってくるようだ。日本のカジノ運営にも興味があったとされる。

現在は、社長だったマシューマドックスがCEOとなり、企業カルチャーを変革するとして、既存の取締役2名に代わって、新たに社外取締役候補3名を指名したが、全員女性だった。これにより昨年のISSの評価が最低点だった当社の取締役会は、人員を増やしダイバーシティを獲得する。新しい取締役は、元クリントン政権時のスポークスマン、コーポレートガバナンス専門家、ウォルトディズニーのIRヘッドだそうだ。この改革には、今や個人の筆頭株主となったスティーブの元妻エレン ウィンも関わっている。彼女も新取締役候補に会い、彼女自身も指名することを検討するという。大株主としての役回りを積極的に果たそうとしているようだ。新CEOはボストンの建設中のカジノも売却方針のようだが、エレンはそういった検討は取締役会が刷新されてからと釘を刺している。これが功を奏してかどうかはわからないが、株価も持ち直してきている。

スチュワードシップの観点からは
株主のウィンリゾートに対するエンゲージメントも必要だが、経営者のパワセクハラ(経営者の自己の利益最大化)というガバナンス問題としてみたとき、ウィンリゾートだけにとどまらない問題として考えないといけないだろう。今まで放任されてきたパワセクハラ経営者は上場企業に彼1人というわけではないだろう。セクハラの過去は示談だろうが時効だろうが、いくら有能だとしても経営者としてとどまることは難しいというのが新しいルールだとすれば、マネジメント継続性のリスクでもあり、ダメージコントロールが必要なレピュテーションリスクでもある。今や株主が気にすべき企業の男性問題なのだ。

ネガティブスクリーニング、ネバーダイ(米国編)

ネガティブスクリーニングはESG投資のもっとも伝統ある基本的な実践方法で、グローバルESG投資の半分くらいはこれと思っておいて間違いない

90年代米国のSRIといえばネガティブスクリーニングのことを指していた(まだ、ESGなどという言葉もなかった)
元々営利企業は悪い奴が多い。儲けるためには何だってする。世の中に不幸を撒き散らして利益を上げる悪徳企業、労働者から搾取して儲けにする企業、まがい物を作って消費者を騙して儲ける企業、こんな企業の株式に投資したくない。そんな株から利益を得るなんて、後ろ指差されそうだ。というのがスクリーニング投資の原点だ。
朝気持ちよく寝覚めるために、と言う人もいる。英語ではSRIをGood sideの投資、メインストリームをBad sideの投資なんていう。

米国にはネガティブスクリーニングの伝統がある。
最初のSRI投資信託をローンチさせたのはメソジスト教会関係者だったが、いまでは広く公的年金基金や個人の401KプランにもSRIの選択肢が用意されている。ネガティブスクリーニングされるのはタバコ、ギャンブル、アルコール、武器製造、動物実験、動物愛護、労働者保護など多岐にわたるが、社会運動としてのダイベストメントが盛り上がったイシューとしては、90年代の南アフリカアパルトヘイト、2000年代のタバコ、そして現在の化石燃料や石炭がある。

アパルトヘイトについては、その廃止にダイベストメントキャンペーンの成果という評価がある。これは経済制裁同様、資金源を断つことで「圧力」がかけられると考えられている。2000年代もイランやミャンマー、スーダンといった国の軍閥政府とビジネスをする企業を不投資としてきた。半分くらいの州に公的年金基金のイランやスーダンの不投資が議会で決議されている。当然、米国の外交政策とのアライメントがあり(最近ミャンマーは外れたようだ)、資産運用を民間の純粋な経済活動という捉え方をすると(日本ではそうだと思うが)この政治的なダイベストメントは違和感があるかもしれない。私は、とりわけ公的年金基金のESG投資は政治的な要素があるという風に理解している。巨大機関投資家は先進国が、国際社会への影響力を発揮するツールの1つだ。

最近の化石燃料や石炭不投資については、温暖化を懸念する大学の学生や教授達が大学のエンダウメントに不投資を求める請願を出している。米国の大学のエンダウメントはハーバード1兆円ファンドを筆頭に年金基金並みの資産運用をしているところが多い。昔を知る人は、ちょうどタバコの不投資もこんな感じで始まったと言っていた。エンダウメントの中には、石炭不投資を決めるところも出てきている。公的年金でもカルフォルニア州政府も公務員年金基金に石炭不投資を指示している。実際に実行した投資家はAUMベースでみればそれほど多くはないと思われるが、アドバルーンとしては多いに盛り上がっている。そのニュース性や社会への浸透が不投資の効果だという言う人もいる。本当に、石炭のダーティイメージは定着している。ニューヨークでは炉端焼きの店はチャコールは使えないそうだ。そりゃ木炭でしょ。Coalね、いけないのは。石炭は採掘関連企業が対象だったが、最近では石炭発電も対象になっている。電力会社や発電設備のあるメーカー、新規石炭火力プラントを立てる企業も入る可能性がある。

プロキシアクセスを求めたNY市年金基金のボード・アカウンタビリティ・プロジェクト

4月4日付の日経新聞の「フェイスブック機関投資家、会長の辞任求める」という記事に出てきたニューヨーク市年金基金(NYC Pension FUnd)は米国企業に積極的にエンゲージメントする公的年金だ。NYC年金ファンドは、NYCの各公務員年金の資産を一括して運用する基金でスコット ストリンガー財務長官が管理している。AUMはUS$175Billion(18.5約兆円)とState並みの大きさがあり、ESG投資にも熱心な年金基金だ。

2014年にはボード・アカウンタビリティ・プロジェクトと銘打って、米国の主要企業にプロキシアクセスを求める株主提案を行い、多くの大企業がプロキシアクセスを認める定款変更を行った。現在ではS&P500企業の6割にプロキシアクセスが入っているという。

一般的にプロキシアクセスとは、株主の権利強化によるガバナンス強化策のことである。
プロキシとは日本でいえば株主総会招集通知のことを指し、そこには取締役の候補が載っており株主総会で株主が取締役として選任する。取締役は株主に成り代わって経営監督を行う。というのがガバナンスシステムだが、実際には取締役候補は株主が決めたのではなく、取締役会にある指名委員会が決め、ときには経営陣も関与する。株主が自らに成り代わって監視してくれる代表を取締役として指名しているというのはイリュージョンにすぎない。本来の姿通りの取締役がいてもいいじゃないか、株主が取締役候補を送り込む形を実現しようというのがプロキシアクセスだ。

米国においては、3%以上3年以上保有している主要株主は、25%を超えない範囲で独自の取締役候補をあげる(招集通知に載せる)ことができるという株主の権利を指している。

日本では株主提案で取締役選任を提案できるが、米国では株主提案は経営に関することは認められていないので、取締役選任を議題にすることはできない。ん?プロキシアクセスを求める株主提案はできたのか?

話は長くなるのだが、金融危機がおこり、オバマ政権によりウォールストリート規制(ドッドフランク法)が成立、法律の中でSECにガバナンス強化の規制を入れることが認められたのだが、SECの新しい規制はラウンドテーブル(米国の経団連)に抵抗され、最高裁で否定されてしまいSEC規制は日の目を見ないことになってしまった。なんでこうなるのかは、また話が長くなるのだが、米国はフェデラリズムといういわゆる合衆国制なので50のStates(国)の政府と連邦政府が並び立つフェデラリズムを採用しているため会社法は各国が持っているため、全企業に規制するのはSECの上場規制しかないのである。
話を戻すとSECは上場規制改正は断念したのだが、上で株主提案は経営に関することは認められないと書いたが、実務的には企業側が不適切な株主提案を受け取ったときは、個別議案についてSECのNAL(Non Action Letter)をもらうことをして株主提案を招集通知に載せないということをしていたので、SECはある日プロキシアクセスを求める株主提案にNALを出さなかったのだ。これにより、機関投資家はプロキシアクセスの株主提案が可能になったことを知り、NYCのボードアカウンタビリティプロジェクトに繋がるのである。

さすが大規模公的年金基金とあって実に75社に株主提案を行い、2/3において過半数の賛成を得るという画期的すぎる結果となった。(株主提案オタクでも数をこなすのは大変だそうだ)株主提案自体は参考議決であり拘束力はないが、主にS&P500企業といった大企業を中心に、プロキシアクセスを認める定款変更が行われた。因みに、実際に株主の推す取締役候補が載った例はない(伝家の宝刀は抜かれていない)

加えてプロキシアクセスはアクティビストが仕掛けるプロキシコンテストとは違うので注意しよう。

動物愛護とビーガン

米国カリフォルニア州のYou Tube本社で起きたYouTuberの逆ギレ発砲事件の容疑者のプロファイルには動物愛護者とビーガンという説明があったという。
ううむ、と思ったのは私だけではないだろう。というのは動物愛護やビーガンって、ESG業界でもお馴染みのテーマだからだ。
米国の株主提案では、Animal Humaineは毎年定番ネタだ。今春日本にも三井物産が持ち込むBeyond Meatはシリコンバレーやタイソン(食肉メーカー)も出資する本格的な植物性の模造肉でビーガン御用達だ。

動物愛護というと日本ではESG担当者でもほとんど本気にする人はいないが、米国では株主提案の定番だ。Animal Humaneより最近ではAnimal Welfareという書き方をするが、生き物を工場で生産するブラックな「畜産」に反対していると考えるとわかりやすい。
そこで、You TubeでAnimal Factory Farmingなどのキーワードを叩くと、ブラックな「畜産」に反対する動物愛護動画がたくさんでてくる。鳥かごにすし詰めにされるブロイラーや、身動きできない檻で一生を過ごす牛など、生き物を工場で生産するグロテスクを、やめるべきだと主張している。とすれば、結局のところビーガンになるしかない、となる。
こういった、倫理的に現代の畜産に反対する動物愛護派の人たちもいるが(全員がビーガンかどうかは不明)
ESG投資家たちがConcernするのはそれだけではない。
Factory Farmingが使いすぎる穀類、水、出しすぎる温暖化ガス、環境破壊、使いすぎの抗生物質や鳥インフルエンザがもたらすヘルスリスクなど、畜産はサステナブルでなさすぎるのだという。さらに、人口100億時代のタンパク質枯渇、畜産による動物性プロテインでは不効率すぎる。そこで植物性タンパク質(人造肉)のスタートアップに注目が集まっているのだ。(昆虫に注目する人もいるが)

このFactory FarmingのESGリスクを投資家に認識させようというイニシアティブが、FAIRR(Farm Animal Investment Risk and Return)で、Jeremy Coller氏が創ったものだ。Coller氏はPEのマネージャーで、あまり関係ないが、あのGPIFの水野CIOのexボスでもある。FAIRRとShareActionが組んで、プロテイン枯渇に備えようというエンゲージメントのキャンペーンも行っている。ビジネスでもシリコンバレーのスタートアップもサステナブルフードやオーガニックフードが賑わっている。テック企業を売ったお金でチョコレート屋を始めるとか、牛肉としか思えない完全なベジミートなどもある。このように食品と農業はサステナブルビジネスのセクターでもあるのだ。

CECP CEO投資家フォーラム(米国発のイニシアチブ)

CECP (The CEO Force for Good) は、あのポールニューマンが創ったというCEOの団体で、そのCECPが主催しているCEO投資家フォーラムは、投資家が求める長期的価値創造(Long-term value creation)を可能にするためCEOを応援するイニシアチブである。

CECPのリサーチディレクターのBrian Tomlinsonは、メディアでもイニシアチブについて発信し始めているが、これの前はPRIで各国のRoadmap Reportsを書いていた。Japan Roadmap Reportで一緒した縁でこのイニシアチブの情報を送ってきてくれたので紹介する。

CECPの投資家委員会は、新しくSIIアドバイザリーボード(Strategic Investor Initiative Advisory Board)をつくって、
投資家が求める長期的な価値創造プランについてガイダンスをまとめた。
それが
CEO Investor Forum: Investor Letter to Presenting Comapnies

レターの内容はいたってシンプルで
長期的な投資家は、四半期の業績ガイダンスより、長期的な成長、戦略、リスクについて企業を深く理解したいと考えている。通常、長期的な投資家のホライゾンは3~7年、あるいはそれ以上であり、CEOに語ってもらいたいのは
将来の成長計画、長期的な戦略、財務やESGリスクとリスクに対する戦略とリソース配分である。
長期的な投資家は投資先企業を深く理解し、納得のいく議決権行使やエンゲージメントをしたいと考えている

長期的な価値創造プランがCEOから示されたとき、投資家は以下の質問を投げかける。
1.ここ3~7年先に貴社のビジネスに影響する主要なリスクとメガトレンド
2.財務の課題と資本配分戦略
3.企業理念、企業の社会における役割を従業員との共有
4.将来の人的資本の需要とそのマネジメント
5.株主やステークホルダーとの関係
6.長期的なゴールへと導く取締役構成とは
7.高性能でダイバーシティのある取締役会の設計と構築

ということで先のブラックロックのフィンク社長のオープンレターと主張を共有しており
「長期的投資家」が気にするのは長期的な企業の経営戦略であり、ステークホルダー経営であり、有能な取締役会との主張だ。
アドバイザリーボードには
ブラックロックやバンガード、ステートストリート、ニューバーガーバーマンなど運用機関の他CalSTRSやHermesEOSも見えている。

注目すべきは、ステークホルダー経営を求めているところと、取締役会重視。
改定ICGNガバナンス原則や今度改定される英国のガバナンスコードとも共通する点だ。米国でも投資家は取締役会重視になってきているし、ステークホルダー経営や人的資本(従業員)経営も押さえておきたいところ。

CEO投資家フォーラムは過去2回開催され、延べ14社のCEOが投資家を前に長期的な価値創造プランについて述べた。
3回目はこの4/19にSFで行われ、PG&EやWells FargoのCEOがプレゼンテーションする予定だ。

フェイスブックにエンゲージメントしてる?

状況を説明しておくと

フェイスブックが、研究目的に提供したユーザーのデータがケンブリッジ・アナリティカというデータ分析による選挙のコンサル会社に売却され実際の選挙コンサルに使われていたとされる。その数5000万人とかなんとか。なんでそんなにすごいのというのは、本人の情報といっしょにお友達のもごっそりくっついてたらしい。

フェイスブックなどSNSを使ってロシアもトランプ大統領誕生をサポートしたとされるが、こちらはどちらかというとフェイクニュース系、このケンブリッジ・アナリティカは、米国大統領選ではトランプ陣営へ、英国の住民投票ではブリグジットに付いてデータマイニングやらビッグデータ分析で戦略を指南、結果的に両方とも勝利したので注目されているのだ。(もちろん、アナリティカがどれくらい寄与したのかは議論のあるところのようだが)

ミレニアル世代の社長であるマイク・ザッカーバーグは、環境にも配慮しており、ステークホルダーへの配慮もあるフェイスブックはESG的には優等生だった。クラスシェアを導入しているシリコンバレー企業だけど、機関投資家株主とのコミュニケーションも良好で、たとえば取締役会がボーイズクラブだとの批判では、女性社外取締役の他に、あのシェリル・サンドバーグCOOも取締役にして、ボードのジェンダーダイバーシティを図るなど、対応している。おそらく、ESGスコアもそこそこ高いのではないかと思われる。

しかし、今回の対応はちょっと後手に回った感があって、株価は下がるし、ザッカーバーグ社長は米国議会に証人喚問されるとあって、フェイスブックへの逆風とメディアも書き立てている。そうすると、必ずでてくるESG投資家がパニッシュしている(罰している)という話。ESG投資家が売り浴びせて、株価が下がっているんだ(3月28日付日経新聞参照)
いや、ちょっと待って、それは違うんだ。

問題発覚前のESG投資的な状況はどうかというと
グローバル株式や米国株式を対象とするESGファンドは、フェイスブックは保有しているだろう
トップホールディングスに入るところも多いだろう。ESG投資とて「投資」なので投資のセオリーに基づいてポートフォリオを構築している。なので、普通にフェイスブックを持っているところは多く、株価下落は足元のパフォーマンスに響いてるだろう

しかし、ESG投資家は長期保有なので、トレーダーのように目先の株価下落で損切りしたりしないし、
ESGコンプライアント(遵守)の投資家も、ESGスコアが下がって投資不可になっても売却についてはファンドマネージャーには数ヶ月の余裕を認めている。ESGファンドとて「ファンド」なので、普通に株価がザブンザブンしているときに売り急いで余計な取引コストにならないよう配慮している。さらに、基本、この世界はセルサイドと違ってマーケットタイミングは取らないのが原則だ。

ので、豪のファンドがフェイスブック不投資を決めたからといって、それがフェイスブックの株価を下落させたわけではない。(売ったかどうかもわからないし、売ったとしてもデイのマーケットインパクトなんて観察不能と思う)
セルサイドのデイの取引で上がった下がったの理由付けにESGイシューを使うのは不適切だ。ESG投資家はそういうトレーディングをしているわけではないし、最近流行のパッシブ運用はそもそも銘柄選択しないので、インデックス銘柄をじっと持っているだけなので、そういう日々の株価の説明には使えない。
なので、せめて、ESG投資家の不人気を予想して、フェイスブックの株を低い価格でも売却する市場参加者や、低い価格で購入する市場参加者がいたという表現にしてもらいたいもんだ。(だって、売った分だけ買った人もいるわけだから。低い価格で合意したと。)

と市場の動きはさておき、
この問題は、ESGイシュー的には「サイバーセキュリティとプライバシー」の問題で、数年前からESGイシューとして認識されている。
実際にこの問題が今回どれくらいマテリアルなものになるのか、機関投資家株主としてはそれを分析した上で
必要であればアクティブ、パッシブ共にフェイスブックにエンゲージメントすることは検討するだろう

アクティブなら売却もアリだが、フェイスブックともなるとToo big, not hold.ではないかと思うので
それに、問題が問題ならば、フェイスブックのみならずSNSの他の銘柄、プラットフォーム銘柄のイシューでもある可能性がある
「サイバーセキュリティとプライバシー」問題は、今までは大きなエンゲージメントテーマにはなってこなかった感がある
ひとつには、分かりにくいというのがあるのではないかと思う。
フェイスブックのビジネスモデルが、そういったユーザーデータを売る、あるいはデータを利用したマーケティングで儲けているわけだから、生半可な倫理観だけで紐解くのは難しい気がする。
といいながら、漫然とフェイスブックを眺める私は、以前からどうしてフェイスブックはこんなに儲かるんだろう?と思っていた。こうやって利用する見返りにフェイスブックに個人情報をお渡ししているわけで、私自身は大した情報でもないと思っているけど、これも集まれば相当の価値を生むってことなんだろうか。アナリティカに聞いてみたいもんだ。(これ投資に利用できないかな)
すくなくとも規制はこの業界には逆風になりそうだ。そもそも、そういうの止めたら?(#delete facebook)というのもあるけど、これは不投資運動と同じくどれくらい逆風なのかはよくわからない。

最近のESGスマートベータインデックス

最近、スマートベータインデックスが流行しているが、
ESGをくっつけて、てんこ盛りのESGスマートベータインデックスがResponsible Investorに紹介されていた。

FTSE Russellの
FTSE All-World Ex CW Climate Balanced Factor Index
というやつだ

解説すると、
FTSE All-World Indexつまりグローバル先進国株式+エマージング市場株式の約3000銘柄をユニバースとし
CWとはControversial Weaponsのことで、Ex CWは、問題兵器(製造)を除くで、問題兵器とはクラスター爆弾、対人地雷、化学兵器および生物兵器。こういった兵器製造などの企業を除外し
アノマリーがあるとみられている4ファクター(バリュー、低ボラティリティ、小型、クオリティ)で時価総額ウェイトのウェイト付けを変更し、
気候変動でもう一回ウェイトを変更する、化石燃料つまり石油ガスなどのセクターのウェイトを下げ、温暖化ガス排出量でもウェイトを下げ、グリーンビジネスのウェイトを上げた
インデックスということで

スマートベータでファクター投資もでき、問題兵器のネガティブスクリーニングもでき、化石燃料を罰して長期的な炭素リスクへの対応も実現できるという
オールインワンジェルみたいにこれ一つでESG投資が完成しそうなインデックスだ

さらに、実際にLGIM (Legal & General Investment Management)が、これにトラックするインデックスファンドをHSBCの年金基金のために組成しており、HSBCの年金基金のDBとDCで採用されており、DCではデフォルトファンドになっているという。
ファンドの保有銘柄は2000+銘柄で、このファンドにはLGIMのClimate Impact Pledgeというエンゲージメントも付いている。
(LGIMは積極的なエンゲージメントを行うパッシブ運用機関として有名だ)
AUMは6,700億円くらい

FTSEのバックテストでは、過去15年間でFTSE All-World Indexをアウトパフォームするとしているが、
LGIMはファンドの過去のパフォーマンスを提示するにはデータが十分でないと言っている。

コンサルのレーティングも取れているみたいなコメントもあり
エンゲージメントではLGIMはCarillion affairに注目しているそうだ。構造的なガバナンスの問題と企業と監査人のぬるい関係を指摘している。

ちなみにCarillionは、英国2番目の公共事業中心の建設大手で、多額の負債から資金繰りに窮し、この1月に会社精算を申請した。