ESG評価はダッシュボード・アプローチで

2020年2・3月号の経済セミナーは貧困特集だが、スティグリッツ先生が巻頭インタビューの中で、国の豊かさを測るような指標についてはダッシュボード・アプローチが優れていると指摘している。

GDP以外に国の豊かさを測る指標として、4〜6つくらいの指標のダッシュボードがいいという。スティグリッツ教授は、OECDのBetter Life Indexを参考にしなさいといっている。OECDのBetter Life Indexは、11の指標のダッシュボードで構成されており、11枚の花弁で示されており、単純平均値がグラフの高さになっている。

ダッシュボードに対して、スティグリッツ先生がダメ出ししているのは、コンポジット・インデックスである。コンポジット・インデックスの代表は、セン先生の人間開発指数(Human Development Index, HDI)だ。平均余命、教育、所得を指数化し、平均したもので0〜1の値をとる。ちなみに2019年のHDI *トップはノルウェー(0.953)で、日本(0.909)は19位。
                          *不平等調整済みHDI

スティグリッツ先生の指摘は、各指数はそれぞれ計測しているものがあるが、それを足し合わせてしまうと、意味をもたない数字になってしまうという点だ。車の運転の例え話では、走行スピードとガソリンの残量を知る必要があるが、走行スピードとガソリンの残量を指数化し、ウェイト付けして加算しても、その数字には意味がなく解釈しようがない。持続可能性と成長性をウェイト付して足しても、成長の持続可能性が測れるわけではない。

もうピンとくるでしょう、あれです。そうESGスコアです。本稿のキーセンテンスは、
「ESGスコアが意味がなく解釈しようがないコンポジット・インデックスだ。」
気候変動や環境マネジメントなど環境に関する企業の情報開示をみて、環境スコアを付けるのは構わないし、環境スコアでサステナビリティ(何のサステナビリティなのかという問題はさておき)が計測できるというのはいい。が、環境スコアと社会スコアとガバナンススコアを足し上げるという段階で、解釈できなくなる。

ESGスコアにしてしまう問題は、EとSとGの交換レートがついてしまうというのもある。公害垂れ流しで環境スコアダメダメな分、ピカピカのガバナンスの形を整えておけば埋め合わせできるというのは変な話だ。

それぞれの環境項目、炭素負荷やエネルギー効率性のデータは有用なセクターや個別企業の情報なのは間違いない。社会項目でも従業員に関する情報は、先進国でもホワイトカラーの生産性が特別低いとされる日本企業の原因を探る上で有用に違いない。気候変動からサプライチェーンまで、個々のESGイシューのマテリアリティ(企業価値への影響)に異論はない。

ただし、これらを混ぜてESGスコアにしてしまったら、それらの情報は失われてしまう。ESGスコアのレシピをみると、そのウェイト付けや正規化や結構突っ込みどころが多いのだが、それもコンポジットインデックスにすることから生じている。

スティグリッツ先生のご指摘通り、それぞれのESGイシューについての評価は、混ぜ合わせずバラのままダッシュボード方式に置いておくことのがいいのではないか。投資家はセクターや個別企業のESG分析をすすめる上で、バラのESG評価データ、つまり個々の具体的なESGイシューに関しての分析をするめるべきだと思う。そろそろ、「ESGやってる」いう総論から脱却して、個々のESGイシューを理解する各論にすすんだらどうだろう。

ESGスコアが高いというのに情報はないが、個々のESGイシューに関するデータや評価には何らかの情報があるかもしれない。データとして揃うものが少ないし、汎で効くような夢のファクターではないかもしれないが、ファクターとして株価に効いているものが探せるとクオンツ戦略のマネージャーが教えてくれた。「会計ルールの変更頻度」や「女性取締役の有無」といったGのデータが、限定した市場ではあったが、そこそこ効いていたときがあったという。

米国のコンサル会社のOcean Tomo社によると、時価総額に占める無形資産の割合は、S&P500で8割を超えているそうだ。TrueValue社は、ESGはその8割の無形資産の一部に違いないという。ESGダッシュボードを眺めていると企業価値の源泉がみつかるかもしれない。

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