ジャパンガバナンスウォッチャー

上場子会社のアスクル

グローバルESGウォッチャー改め、ジャパンガバナンスウォッチャーです。

日産、リクシルの次はアスクル(2678)だ。
アスクルの株主総会で、岩田CEOと独立取締役3名の選任が否決された。

親会社のヤフー(41.67%)と2位大株主のプラス(10.74%)が、8月2日に開催されるアスクルの株主総会に先立って、岩田CEOと独立取締役3名が選任に反対票を議決権行使で事前に投票し、その旨を公表していた。日本企業の場合、通常は親会社や安定株主の議決権行使ですでに賛成が過半数に達していて、総会はシャンシャンというのが定番なのだが、アスクルの場合は、1位2位合わせて、52.41%あるため、この議決権行使ですでに否決されることが決まっているという、いつもと真逆な情景を生み出した。

これにはアスクル側というか岩田氏が大反発(当たり前だが)。とりわけ、ヤフーが岩田CEOだけでなく、独立取締役3名に対しても任命責任があるとして反対表明をすると、否決予定の独立取締役も、緊急記者会見で、ヤフーの横暴看過するまじ、ヤフーとの業務提携を見直せ(解消という意味だろう)と意見表明するなど「親会社ヤフーの横暴」モード全開となった。

日本取締役協会(宮内会長、冨山委員長)は緊急意見「日本の上場子会社のコーポレートガバナンスの在り方(2019)」を表明、
日本コーポレート・ガバナンス・ネットワークも「支配株主を有する上場会社のコーポレート・ガバナンスに関する意見」を表明、それぞれアスクルが自社の主張「親会社ヤフーの横暴」の支援材料としてホームページでリンクを貼って紹介している。

この反応の良さは、なぜかというと、まさにアスクルのような上場子会社のガバナンスが、我が国のガバナンス改革の今年のホットテーマだったからだ。経産省はこの6月に「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針(グループガイドライン)」を、第2期コーポレート・ガバナンス・システム研究会の成果として発表している。金融庁のCGコード・SSコードの有識者会議においても次の論点として、上場子会社のガバナンスがあげられている。

ところで「グループガバナンス」って何?
以前は、従来、クロスボーダーM&Aで取得した海外子会社の管理のことを指していたような気がするが、上記のMETIのグループガイドラインには以下のような問題意識があったとしている。
「現在の我が国企業のガバナンスの議論は、本社のトップマネジメントをどうするかとい う議論に集中しているが、グループ企業のガバナンスをどうするかという問題について は議論が十分にされておらず空白地帯として残っているという指摘があった」

え、この連結決算の時代に、ガバナンスは本社単体という認識だったのか?という驚きは別にして、持株会社形態になっているグループ企業のガバナンスを考えようということになり、そうなるとクローズアップされてきたのが日本の株式市場に跋扈する「上場子会社」だ。東証によれば、支配株主がいる上場企業は630社あまりあり、上場企業のなんと2割を占めるという。

日本取締役協会も日本コーポレート・ガバナンス・ネットワークも、お怒りの点は、親会社であるヤフーが、CEOの解任だけでなく、指名責任があるとして3人の独立取締役も選任に反対したことにあり、このような親会社によって罪なき独立取締役を不再任にするという横暴がまかり通ると「上場子会社において少数株主の利益を保護するための実効的なガバナンス体制を構築することなど不可能になる。」
さらに、「上場子会社の独立取締役は少数一般株主の利益を守るために重要な役割を果たす」のであるから、親会社が数の論理で、なんの咎もない独立取締役をクビにするとあらば、ガバナンスの基本構造が成り立たなくなる。
そうだろうか?

お下品だった
確かに、上場子会社の親会社がCEOを交代させるケースは、伊藤忠デサントのときと同じだが、議決権行使で株主総会の選任議決で否決するというのは、滅多にないだろう。ヤフーからの取締役が2人いるしプラスの社長も取締役だから、事前に話し合う機会はいくらでもあった。このやり方に対して、ちょっと下品なのではないかという批判は、外人も同意するだろう。最終的な所有者であるソフトバンクGの総帥、孫さんも、この点については自分のやり方ではないとコメントされているようだが、ヤフーとプラスが株主としての権利を行使したことについて法的にもガバナンス的にも問題はない。

少数株主のこと考えてる?上場子会社のガバナンス体制について
アングロサクソンにかぶれた立場からいうと、そもそもコーポレートガバナンスとは、株式会社が所有(株主)と経営が分離したために発生するエージェンシー問題の緩和を目的としている。自己利益に走りがちな経営者(エージェント)を、正しく株主(プリンシパル)価値最大化のために働かせる仕組みがガバナンスである。所有と経営が分離していない場合には、エージェンシー問題が発生していない。つまり経営権を持つ支配株主がいるcontrolledの会社には、そもそもエージェンシー問題はなく、その意味ではガバナンスは要請されていない。

上場子会社の少数株主保護は可能なのか
支配株主とその他の少数株主がいる上場子会社では、少数株主が受け取るべき利益を支配株主がrip off (搾取する)ことが可能である。支配株主にはそのインセンティブがある。支配株主が悪いやつだからではなく、企業価値最大化を目指す株式会社の合理的行動としてrip offする。rip offする余地があるのに、していなかったら、親会社の株主がツッコんでくるだろう。経営陣のエントレンチメントではないかと。
どうやってrip offするかというと、上場子会社で出した利益は、配当やキャピタルゲインで少数株主に流出する。親会社としては、上場子会社の利益にするよりは、親会社との関係取引をうまくつかって親会社の利益に付け替えれば、全額自分のものとすることができる。CEOは当然親会社が任命しているので、そんなことはよーくわかっている。

なので、考えられる少数株主保護としては、上場子会社の関連事業取引(Related Party Transactions,RPTs)を規制する、つまりrip offの余地を無くすということが考えられる。しかし、RPTの規制はそううまく機能するかどうかはわからない。そもそも日本の親子関係の多くは、業務提携、経営戦略から発生している。RPTsこそが親子関係のメリットなのだ。RPTs規制は、このメリットを殺してしまうかもしれない。

したがって、上場子会社には解決できない支配株主とそれ以外の少数株主には解決できない利益相反があるのである。しかし、good newsもある。少数株主は、支配株主が存在していることを承知の上で、なお株式を購入している。騙されているわけではない。それに、イヤになれば、株式を売却してexitすることも可能である。選択肢は少数株主の手のひらの上にある。

注)TOPIXは問題だと思う。リスクが二重になっている。上場子会社調整TOPIXを作るべきだ。東証の上場市場改革でお願いします。

上場子会社の独立取締役の役割
独立取締役が少数株主をrepresentする、というのは、確かにアングロサクソンのガバナンスの教科書に書いてある。しかし、これには上場企業には支配株主がいない、株式が十分に分散している状況ですべての株主が少数株主である状態が前提である。この場合は、小さなつぶつぶに分かれている株主は、取締役会に経営のモニタリングを委託する。取締役会は過半数を独立取締役で占める、すなわち、多数決による取締役会の意思決定となったときに独立取締役が決定権(CEOの解任権)を持つことが、グローバル・スタンダードである。この形になってはじめて、分散している株主は、自らに成り代わって独立取締役に経営者のモニタリングが期待できるというわけだ。

支配株主がいる場合には、むしろ独立取締役は少数株主をrepresentできるのかを考える必要がある。経営権を支配株主が握っている上場子会社の場合、独立取締役に少数株主の権利を親会社のRip offから守る力があるのか?支配株主=経営者をモニタリングして、必要なら解任できるか、できないだろう。したがって、パワーを持たない上場子会社の独立取締役に、支配株主から少数株主を守れというのは、酷な気がする。では、上場子会社の独立取締役の役割は何なのか?それは、モニタリングではなく、アドバイス機能に特化することが考えられる。そのため、ICGNグローバル・ガバナンス原則では、支配株主がいる上場基準の独立取締役は、過半数ではなく1/3で良いとしている。

偶数で拮抗している取締役会
アスクルの10名の取締役候補の内、選任されたのは、岩田社長を除く内部取締役4人(ヤフーからの出向者1名を含む)と社外取締役(ヤフー1人、プラス1人)の計6名である。ということは、会社チーム3名、ヤフーチーム3名である。紅白同数で偶数の取締役会では、stand offしてしまい対立を解決できない。取締役会の喫緊の課題は、それはやはりロハコ事業だろう。アマゾンに対抗できる国産ECの夢は最近はrustyかもしれない。臨時株主総会を早急に開いてアドバイス機能が豊富な独立取締役を追加することを検討してはどうだろうか。

LIXILガバナンス物語(シーズン完結編)

6月25日のLIXILの株主総会で、クライマックスを迎えたLIXILガバナンス物語はNetflixのStranger Thingsの向こうをはれるくらいのドラマチックな展開となり、早くもシーズン2突入となった。

総会の結果は
第1号議案(会社議案)
独立社外取締役候補の内堀氏(税理士)、河原氏(ケンウッド)、キャンベル氏(コンサル)、松崎氏(コニカミノルタ)、三浦氏(リコー)の5人は賛成率50%台で選任された。
内部取締役候補の大坪氏(トステム)も賛成率50%台で選任が可決された。
一方、独立社外取締役候補の竹内氏(元財務官僚)、福原氏(ベネッセ)は、賛成率44%で否決された。

第2号議案(株主提案)
独立社外取締役候補の鬼丸氏(女性元最高裁判事)と鈴木氏(監査法人)は94%の賛成率で可決。

第3号議案(株主提案)
独立社外取締役候補の西浦氏(企業再生)は51%、濱口氏(元PFA CIO)は64%の賛成率で選任が可決、
内部取締役候補の伊奈氏、川本氏、吉田氏、瀬戸氏の4名も賛成率50%で選任が可決された。

結果、会社提案から6名が、株主提案は全勝で8名が選任され、取締役会は14名となった。
内、独立社外取締役が9名、内部取締役が5名、過半数が独立社外取締役なので取締役会は独立している。
取締役会の独立議長は松崎氏
指名委員会の独立委員長は西浦氏で、独立4,内部1
監査委員会の独立委員長は三浦氏で、独立4,内部1
報酬委員会の独立委員長は濱口氏で、独立4
の構成である

CEOは瀬戸氏
COOは大坪氏

取締役会の感想
あえて言えば、14人は多い。日本企業でも平均は10人、これくらいがガチ議論できるギリギリの人数で、これ以上だと事務局の筋書きにしたがって議論した感じにするか、カオス会議になる可能性が高い。グラスルイスは社外が多ければ多いほどいいと言っているようだが、いきなり社外取締役9人はガチ議論するミーティングが苦手な日本企業、日本人にとっては多い。独立議長を除くエグゼクティブセッションを率いる筆頭独立取締役(Lead Independent Director)の任命が必要だ。

報酬委員会を全員独立取締役にしているが、全員独立な方がいいのは監査委員会だ。鬼丸氏が入るとしたら監査委員会だろう。指名委員会は取締役会の評価や次の取締役候補の指名を行うし、CEO後継問題も扱うかもしれない。適任とは思えない。それにしても会社提案の社外取締役で経営経験スキルの業界が、ケンウッド、コニカミノルタ、リコーってなんか業種が似通ってるなあ、建材屋さんとあまり関係ない気が。そういう意味でも西浦氏以外の社外取締役は指名委員会にフィット感がイマイチ。報酬委員会や指名委員会の役割を考えたら自ずから取締役候補のクライテリアがわかってくる。これを考えるのがまさに指名委員会の仕事なんだが。

ドラマな要素1:株主が本当に取締役を選んだ
コーポレート・ガバナンスの教科書通り、まさに少数株主が選挙で取締役を選んだ世界的にみても極めてレアなケースとなった。
株主提案で取締役会全員分の取締役候補を出すということ自体が、日本以外では不可能なことであるし、その株主提案の取締役候補全員が拘束力のある議決で過半数で選任されるということが前代未聞な上、その株主提案由来取締役で取締役会の過半数を占めたというのは、ウルトラ前代未聞といっていいだろう。瀬戸氏チームはガバナンス史上ワールドレコード並の偉業達成といっていい。グローバルでみても間違いなくガバナンスの歴史に残るAGMだった。

そのため、これより「株主提案で取締役会を創る」時代に突入したかもしれない。日本においては、会社法上「株主提案で取締役会を創る」ことができることが世に知られることとなった。そう日本とは強力な株主の権利が存在する国だったのだ。米国のアクティビストもアジアのヘッジファンドのみならずロングオンリーも日本株を見直すきっかけになるかもしれない。

日本株の平成30年間の投資収益率をみれば、リスクアセットとしての期待収益率を実現していないし、日本株式の平均ROEはせいぜい10%程度しかなく、半分の企業はPBRが1以下だ。日本企業は労働者の質、技術力申し分ないが、とにかく経営者が株主価値に興味がないのが問題だ。だとすれば、株主提案で取締役会フルメンバーを送り込んで経営監督させれば日本株は輝き出すかもしれない….などとアクティビストになって妄想してしまう。

最も、日本においては昔から「株主提案で取締役会を創る」ことはできた。しかし、そんなことは滅多に起きない。日本の上場企業の半分には支配株主がいるし、創業家関連が大株主になっていることも多い。株式持ち合いや生損保など安定株主工作をしっかりやって過半数を押さえている。定款変更などに必要な2/3(Super Majority)まで押さえている企業も多い。これは鶏か卵かよくわからないが、実質的には「株主提案で取締役会を創る」ことは不可能になっている。日産ではルノーという親会社のおかげで、西川CEOはISSやグラスルイスから至極全うな理由で否定されても身分は安泰だ。

但し、LIXILのように株主が広く分散したケースでは少数株主しか存在せず、その中で合計すれば内外機関投資家で過半数を超える場合、機関投資家の集合体がキャスティングボードを握ることになる。日本のガバナンス・コードでは持合いの解消を求めているが、安定株主を失うと、LIXILケースが起きるようになる。

ドラマな要素2(ちょっとマニアックだが):我が国でレアな直接民主主義の体現
昨今、民主主義を実感することが日本社会では少なくなっているが、まさに日本でめずらしく発生した大統領選(プレジデントを選ぶ)だった。日本の国政選挙では、国民は1票を投じ、投票の多かった候補から順番に当選する。これをPlurality Votingという。一方、企業の株主総会の取締役選任は、各取締役候補について投票し、過半数をもって選任するMajority Votingが採用されている。
実は米国の株主総会ではPlurality Votingで取締役を選んでいる会社もある。定員と取締役候補数が同じならば、1票入れば当選となるため、各取締役に過半数の信任を求めるMajority Votingの方が、株主の権利が強いと考えられている。米国の機関投資家は、Majority Votingに変更するよう地道なエンゲージメントを行っている。

そして、その取締役(選挙人)が、取締役会においてCEOを選任する。各取締役は会社側の暫定CEO政権か瀬戸チームの瀬戸CEO政権か支持する先が判明しているので、その取締役に賛成票を入れるということは、CEOを選んでいることになる。つまり株主がCEOを選ぶ直接選挙が実現したのだ。こんなことはそうそうあるもんでもないだろう。

ドラマな要素3 グローバル・プロキシアドバイザー(ISSとグラスルイス)の限界とそれでも影響力の大きさが明らかに
ISSとグラスルイスの推奨は妙なものだった、そしてそ推奨通りにはならなかった。
ISSは会社議案について4人賛成、2人反対、株主提案について2人賛成、4人反対、鬼丸鈴木は賛成
グラスルイスは会社議案は6人全員賛成、株主提案について全員反対、鬼丸鈴木は賛成
どちらも瀬戸氏の選任に反対した。そして結果は瀬戸氏は取締役に選任され、CEOに就任した。

どこが妙かというと、
ISSの取締役会は独立社外8人、内部2人(大坪氏、伊奈氏)にすべきだとして、それ以外は反対。但し、瀬戸CEOつまり瀬戸氏が率いることはやぶさかではないが、取締役はダメ。しかし、内部取締役2名はなんでこの取り合わせなん?日本だけでなく米国でもCEOは取締役(Director)を兼務するのは普通のプラクティスだ。したがって、潮田氏に経営をまかせた方がいいと事実上言っているように聞こえる。
グラスルイスは独立取締役会(独立取締役が過半数)というスタンダードを超えて、独立取締役が多ければ多いほどいいという独自の基準を打ち出し、会社提案に全面賛成となった。この新たな基準は、グローバルの投資業界でもあまり聞いたことがないが。
瀬戸氏を否定する理由がグローバルでなかった。会社側がいうところの喧嘩両成敗みたいなのは日本的で、ロジックはない。瀬戸氏がやるか潮田氏(かその代理人)がやるかの択一問題だろう。

なぜ妙になったかというと、
プロキシアドバイザーは、ガバナンスの基準に沿って、議案の賛成反対の推奨を行うだけで、経営コンサルでも投資の意思決定をする投資家でもないので、取締役候補の良否の判断において、瀬戸氏の経営者としての能力や他の内部取締役候補のリーダーシップなどを評価した形にしたくない。社外取締役候補の良否は、「独立しているか」だけが判断基準で、ダイバーシティの要素もジェンダーなどのデモグラフィーは判断できるが、スキルセットや経験などの優劣を判断するのは避けたいところだろう。ISSは瀬戸氏に反対推奨をしながらも、瀬戸氏のCEOの可能性もあるという、実際にはほとんどないことを言って、潮田氏に乗っているわけではない、つまり経営者選択には中立だとヘッジをかけている。グラスルイスは、外形標準でのみで判断する。取締役候補の評価要素は「独立」のみとしている。これはある程度やむを得ないところで、プロキシアドバイザーが言えるのはここまで。これから先は、投資家が株主とし判断すべきことである。つまり、経営者の選択。今回のLIXILケースは、上で述べたように、CEO選択選挙であった。CEO選択についてはプロキシアドバイザーとしてはCEO選択については推奨を出さない形にしたい。しかし、結果的には両社とも潮田氏経営に乗った形になっていた。この辺りでプロキシアドバイザーの推奨が変な感じになったしまった。

実際に、機関投資家は
①プロキシアドバイザーを使っていて、この推奨通りに投票した
②プロキシアドバイザーを使っていて、この推奨をオーバーライドして(推奨に従わず)投票した
③そもそもプロキシアドバイザーを利用しておらず、独自の調査分析で、投票した
のケースがあると思われるが、実際にはISSとグラスルイスが冷たかった株主提案の取締役候補は全員選任されたことをみれば、海外投資家の中でも②も多く発生したのではないかと想像できる。

一方、会社提案でISSが反対推奨した2名の社外取締役候補が44%台で否決される事態となった。この2名の独立性についたはそれほど「明らか」なわけではないので、会社提案に賛成の立ち位置で①が多くいたことを示している。奇しくもISSの影響力の大きさを示した形になった。この2名の否決により、株主提案側が過半数となり、推奨していない瀬戸氏が取締役に選任され、CEOに就任するというUnintended Conseuquenceを引き起こしてしまった。

今回のLIXILの細かい事情についてグローバルのプロキシアドバイザーが追いきれていないことや、プロキシアドバイザーとして判断できることは、ガバナンスの外形標準にすぎないということが明らかになった。一方、プロキシアドバイザーの助けがないと、巨大な機関投資家が対応しきれないことも事実とすれば、日本においてもローカルのプロキシアドバイザーがあってもいいかもしれない。欧州のグローバル株式のマネージャー(運用機関)にヒアリングしたときに、グローバルで議決権行使をしていく上で、ローカルのプロキシアドバイザーを使いたいという声もあったことを付け加えておく。

そしてLIXILガバナンス物語のシーズン2は当然、株主に選ばれた取締役会と瀬戸CEOの活躍がテーマだ。

ああ日産

ゴーン氏を東京地検特捜部に渡した後、日産はガバナンス強化を図って、業績不振でもマネジメントは西川社長CEO体制のまま、主要株主であるルノーとのアライアンスはそのままで経営統合はなしで、株主総会を乗り切るつもりのようだ。

ガバナンスの強化とは、監査役会設置会社から指名委員会等設置会社に変更するというもの。指名委員会等設置会社は、監査、指名、報酬委員会、いわゆる3委員会を備える、アングロサクソン標準の取締役会を持ち、CEOの経営をモニタリングする。

取締役候補は11名、7名の社外取締役と親会社ルノーのCEOと会長、日産の社長CEOとCOOという構成だ。この候補を選んだときは日産は指名委員会を持っていないので、候補セレクションのプロセスはいつもの日本企業のやり方、つまり日産のマネジメント、西川CEOあるいは忖度した経営企画部マンが、コンサルに助けてもらいながら都合の良い人を選んだ、ということだろう。(コンサルの出来不出来という側面もある)

しかし、日産の株主構成はザ日本企業とは様子が異なる。
日産の株主構成は、日経会社情報によるとルノー43.4%、外国人18.6%、金融機関16.8%、個人16.1%、法人2.0%である。
ルノーは過半数はないが、拒否権はある。日本の会社法によると25%以上持っていると実質支配しているとみなされるらしい。日産はルノーの上場子会社なのである。
ルノー以外の株主、つまり少数株主の内機関投資家は、外人18.6%、国内機関投資家16.8%、合わせて34.4%だ。
法人、つまり事業法人の政策保有株は2.0%であり、ゴーン氏によって持ち合いは解消されている。自動車会社にありがちな株式持合いは日産にはほとんどない。ルノー以外は株主は、外人、機関投資家、個人に分散している。そして、その上場子会社の少数株主は、親会社ルノーにやられる、割を食う立場にあるが、それを承知の上で株主となっている。

最近のニュースによれば、ルノーが委員会設置会社への移行のための定款変更議案に賛成しないと言い出したようだ。ルノーの株式保有比率は43.4%なので、ルノーが棄権した場合、2/3の賛成が必要となる定款変更は可決できない。新聞記事などでは「ガバナンス強化に反対する」ルノーはけしからんみたいな論調が多いが、日産はルノーの子会社であって、ルノーに実質的にコントロールされている会社なので、ではどうやってコントロールするかといえばそりゃ取締役会をコントロールするわけで、当たり前のことをしてるにすぎない。委員会は、総会で選任されたあと取締役会で委員は選出される。社外取締役も日産の身内となれば、ルノーとしてみれば、経営統合阻止シフトが敷かれるとみたのだろう。そもそも委員会委員会を設置して、執行と経営を分離して、ガバナンスが効くのは株主が分散されていて支配株主がいない会社が前提で、日産のような子会社には通用しない。ガバナンス強化で、支配株主ルノーの影響を減じることはできない。むしろ、ルノーのコントロールがよく効くようになる方向だ。

一方、プロキシアドバイザーのISSとGlass Lewisは、西川社長CEOの取締役選任に反対推奨を出している。ゴーン氏の側近だった西川社長CEOが、ゴーン氏の不正の数々に無関係というのはムリがある。西川氏については、反対推奨は正論だ。だいたい今まで気が付かなかった、内部通報があって調べてみたらあらびっくり、としたらCEOとしての能力はないと言っているようなものだ。しかし、内外機関投資家がこぞって反対しても、ルノーが賛成すれば議案は通るだろう。ルノーとしては、交渉相手として西川氏が都合がよければ反対しないだろう。ここでも少数株主はボイスを持たない。それは「ガバナンスを強化」しても、変わらない。

では、少数株主の権利が護られる(ガバナンスが効く)状態はどういうときか、といえば、それはルノーと日産が経営統合して、持株会社にぶら下がり、日産株を持株会社の株式に交換したときだったりする。日産の少数株主は持株会社の株主となり、ルノーにリップオフされることもなくなるし、日産のマネジメントのモニタリングは持株会社の取締役会が機能する。持株会社のボードは、日産の利益はルノーの利益につけかえてといったインセンティブはない。株式の持ち合いによる業務提携といういびつなものをやめて、経営統合してしまうのが、アングロ・サクソン的スッキリ解決法なのである。

LIXILガバナンス物語(後篇)

(あらすじ)
自ら招いた瀬戸CEOを辞任させ、潮田会長は自らCEOに再登板、社外取締役で指名委員会の委員長だった山梨氏のCOO就任させたところ、外国人株主などから、ガバナンスの不全が指摘された。外国人株主や伊奈一族からの臨時株主総会招集要請があり、5月にも潮田会長CEOと山梨COOの解任を議案とする臨時株主総会が開かれることになった。問題は瀬戸CEOの解任手続きに問題があるとの認識だ。加えて、翌月にある定時株主総会で、瀬戸氏の取締役再任の株主提案を行うという。(もちろんCEOにreinstate(復帰)するためだ)

西村あさひ法律事務所が出した調査報告書は、法的な瑕疵はないとしたが、指名委員会の不全などガバナンス上の問題点は厳しく指摘している。これが本当だとすれば、今までは物分りのよかった国内機関投資家も、さすがに会社側につくのは難しい。スチュワードシップ・コードもあり、それぞれ議決権行使基準を持っている。明らかなガバナンス不全を看過できない。40%の外国人株主に国内機関投資家が乗ると過半数は超える。臨時株主総会での解任決議は可決される可能性もあるのではと思っていたが、4月にはいると、突然潮田会長CEOが取締役を辞任してしまった。(ただし、CEOは続けている)伊子会社ペルマスティリーザの損失計上で業績悪化の責任は瀬戸CEOにあるが、すでに辞めているので、潮田氏本人が任命責任をとって取締役を辞めるというのが辞任理由だったが、いわば別件辞任で臨時株主総会回避を狙ったものだろう。
結局、臨時株主総会は取り下げとなり、第一ラウンドは会社側の勝利となった。

第二ラウンドは、定時株主総会で瀬戸CEOチームが取締役会のフルメンバーをパケージで株主提案するという。このため、会社側の取締役候補と、株主提案による取締役候補がそれぞれの選任が過半数で議決されるが、このように株主提案で取締役候補を議案にできるのはおそらく先進国では日本だけだろう。米国では株主提案は拘束力のない参考議決だし、最近プロキシアクセスが定款に書かれている企業も増えたが、まだ株主から取締役候補が出されたケースはない。したがって、米国ではプロキシコンテストが必要となり、その費用は数億円〜といわれている。

取締役候補は会社側が10人、株主提案側が8人で、議案自体は①会社提案候補8人の選任、②会社株主提案共通候補2人、③株主提案候補6人の3つの議案として挙げられている。定款上の取締役会の定員は16人なので、会社提案①②可決(取締役10人)、株主提案②③可決(取締役8人)、①②③可決(取締役16人)でもOKだ。②の2人は争点にならないとして、だいたい株主はこの3つの選択肢から選ぶことになる。

招集通知には冒頭に「株主提案には反対する」とあり、①②に賛成、③に反対するよう求めている。さらに、会社提案①の社外取締役7人による「株式会社LIXILグループの経営正常化へ向けた重要メッセージ」を公表し、③に反対するように求めている。まだ足りないのか、補足説明資料と題したパワポスライド、音声付きバージョンをアップして、株主提案③の取締役候補を不適正としている。株主提案サイドもホームページ(savelixil.com)を立ち上げ、瀬戸氏からのメッセージや経緯、会社側社外取締役候補への質問状をつきつけ、逆に会社側①候補の適正に疑問点を指摘している。

(両サイド取締役候補やその主張を点検)
ことの本質は何か?誰がLIXILを率いるのか、という問題である。潮田氏なのか瀬戸氏なのか。
今回の事件で、潮田氏のリーダーシップにノーなのであれば、当然、瀬戸CEOのreinstate(復帰)が基本だろう。これは株主提案側の主張だ。
会社側は瀬戸CEOの辞任を良しとするのであれば、潮田体制でいくのがスジだ。現取締役会の選択でもある。

会社提案①8人の候補
ところが、会社側は潮田氏の影響力を排除するとして、取締役会メンバーの一新を主張し、内部1名社外取締役7名全員を新任とする議案を出している。会社側は、この独立ボードと独立議長を擁することによって透明性と適切なガバナンスが維持でき、潮田氏の影響力も排除できるとしている。しかも、唯一の内部取締役候補の大坪氏はCEO予定でないのか、これから選任される新任独立社外取締役で選考をすすめるとしている。株主提案側が最初から瀬戸CEOのreinstateを予定していることを批判している。見た目のガバナンスの外形標準を備えて、外人株主や機関投資家の支持を得たいのだろうが、これはかなり妙な話だ。

そもそも、情報が全くない新任の社外取締役が時期CEOを探すなんて、土台ムリな話だ。会社側が用意した候補者のどれが適任かなんて、わかりっこない。しかもボードは合議体だ。まだ一度も合議体として活動したことがないボードに、そんな最重要意思決定をいきなりやるのか?さらに、独立議長を予定しているというコニカミノルタ取締役会議長の松崎氏、雑誌のインタビューで議長の他に社外取締役3社兼務しており、あまり時間は割けない、兼務に支障がでないのを条件に引き受けたとしている。ICGNのガバナンス原則では社外取締役の兼務は4社までだし、議長の兼務は聞いたことがない。この程度のコミットメントで総会後の第一回取締役会でCEOを任命するのか。欧米のプロ社外取締役と違って日本の社外取締役はほとんど独立ボードの経験はないし、LIXILの経営をモニタリングしてきたわけでもない。この俄仕立てのボードがリーダーシップを選ぶのはムリな話だ。

すでに7人連名で重要メッセージを発しているが、これは、エグゼクティブセッションを開かないと出せないはずだ。社取だけでコンサルを雇うとか、そこまでしないと7人で意思決定できないだろう。会社がとりまとめてしまうと、独立社外が何人いても意味がない。実際、過去の指名委員会では潮田氏以外は全員社外取締役という陣容でも潮田氏のやりたいようにやったではないか。この「重要メッセージ作成」もその延長線上にある気がする。

なので、このNo潮田、No瀬戸、フレッシュスタートという主張はあまり現実的でない。潮田体制を隠したら株主の支持が得られるだろう、という期待なのではと疑いたくなる。今の日本企業においてほとんど独立社外取締役という取締役会をいきなりやって、文字通りの機能するとは思えない。この会社提案はアグレッシブすぎるのと表面的だ。

会社・株主提案②2人の候補
そもそも株主提案にあったリストから2人を、会社候補に入れてしまったようだが、入れることを本人達に知らせていなかったという。鬼丸氏は女性弁護士、伊藤氏は公認会計士で、日本企業が好む社外取締役の典型的なプロファイルだ。しかも、鬼丸氏は希少な女性とあって、取締役会のダイバーシティに貢献できる。ジェンダーダイバーシティは外国人株主が重視する項目だから、株主提案のこの部分だけ頂いてしまった、ということなんではないかと思う。これまた、表面的だ。

株主提案③の6人の候補
瀬戸CEOの突然辞任からLIXILの株価は低迷しており、株式市場からのメッセージは瀬戸CEOのreinstate(復帰)にあると見える。株主提案はこれに沿ったものだが、社外取締役候補となった西浦氏と元PFAの濱口氏は、日本の社外取締役としてはニュープロファイルだ。とりわけ濱口氏はごく最近まで、公的年金基金のCIOとして、機関投資家少数株主の立場から日本企業にガバナンスを求めていた。社外取締役は少数株主利益を護るために経営陣をモニタリングするのが役割なので、まさに、社外取締役の役割を痛いほどわかっている人物だ。ガバナンスの教科書からいえば。社外取締役として適任だ。

今の段階で、日本企業のボードに内部取締役がいることに問題はない。懸念は、瀬戸氏がCEOに再任されたとき、実質的なリーダーシップが握れるのか、というものだろう。業績不振が瀬戸氏のせいだとすれば、事業会社LIXILサイドの執行部隊がついてくるのか?詳しくはわからないが、LHT(Lixil Hosing Techonology)事業ラインはディープに国内トステム事業と思われる。LHTトップが取締役候補に入っている。経営会議のメンバーからの支持レターもウェブサイトに掲載されているが。

瀬戸株主提案チームでは、プロキシコンテストのようなソリシテーションは行わないといっているが、そもそも株主提案による取締役候補一括選任というのはかなりオッドなものであるという認識は必要だ。基本、欧米では経営に関するものは株主提案できない。海外投資家についていえば、パッシブ系は原則、米国の拘束力のない株主提案であってもほとんど賛成票は入れない。銘柄選択を行うアクティブでも日本企業については英語だったとしてもニュアンスや日本の常識まではわからないのでなかなか本質を見抜くことは難しいと考えている。したがってISSやGlass Lewisのレコメンに追従するところが大方と予想する。本邦機関投資家については、すべての議案についての賛成反対を公表することをスチュワードシップ・コードで求められている。反対した場合は理由の開示が推奨されている。そのため、最近では会社提案に反対票を入れたり、株主提案に賛成票を投じることのハードルは下がってきている。株主がどういった意思表明をするのか、注目だ。

LIXILガバナンス物語(前篇)(改定)

(あらすじ)
LIXILグループは、1.6兆円規模のトップライン(売上高)を持つ世界最大の住宅内装建材、住設機器メーカーである。トステムとINAXの合併を基に、サンウェーブや新日軽なども加え、さらにクロスボーダーM&Aでアメリカンスタンダード(米国)のアジア部門やグローエ(独)なども傘下にした。

ガバナンスでは、グローバル企業として日本では数少ない指名等委員会設置会社であり、監査、報酬、指名委員会を備える。株式の所有構造をみても、親会社、支配株主はおらず、有報では外国人持ち株比率は約40%、国内金融機関が約30%以上を占める。筆頭株主はLIXIL自身で7.4%、次が日本トラスティの4.58%で機関投資家の何社が大量保有報告をしているが、株主は分散しており、外国人からも支持が高い。

国内の経営統合をすすめLIXILを住設総合メーカーとして巨大化させたのは、旧トステム創業家のシカゴMBA仕込みの2代目、潮田氏だ。国内の経営統合の次は雇われプロ社長の藤森氏が海外M&Aによるグローバル化を推し進めた。潮田氏は内部NED(非執行取締役)として取締役会議長を務める一方、執行役でもある。今回、辞任した瀬戸氏は二代目雇われプロ社長だ。初代藤森氏も割と唐突に辞めたが、二代目も指名委員会からの三行半で辞任することになり、後任は潮田氏自らが会長CEOとして陣頭指揮を執ると発表された。

瀬戸CEOを”Let him go”と考えた潮田取締役会議長は、指名委員会を電話会議で開催、「瀬戸CEOが辞めたがっている」と伝え委員の同意を得た。その後、瀬戸CEOには「指名委員会の総意だ」と言って辞任を迫ったとされる。瀬戸CEOも指名委員会の総意といわれれば仕方なく、辞任に同意してしまう。

この経緯が外国人株主から、物言いがつく。瀬戸CEOの解任の手続き不全を理由に、外国人株主(マラソンやTaiyoの名前が見える)とINAX創業家の伊奈一族ら3/100以上の議決権を持って取締役2名(潮田会長CEOと山梨COO)の解任を求めて臨時株主総会を請求した。

(ガバナンス的問題:取締役会の経営監督は適切か)
LIXILの外LIXILグループは、ウォーターテクノロジー事業やハウジングテクノロジー事業など5つの事業部門で構成されているが、国内は経営統合したLIXIL株式会社内にあり、それプラス海外の各社が事業部門にぶら下がっている形だ。LIXILグループの執行役(内部取締役)の多くは国内LIXIL株式会社の取締役を兼ねており、生え抜き役員の多くはトステム出身だ。潮田会長はグループの取締役会議長兼執行役であり、代表権がなくとも実質的にグループ経営のトップだ。なので、潮田会長が、グループのプロ社長に課したアサイメントは海外グループ経営ではないかと思われる。グローエの中国子会社のトラブルにはじまる海外M&Aの問題から二人のプロ社長のマネジメントが気に入らなかったようだ。今回の瀬戸CEOの事実上の解任が経営判断として妥当なのかどうか。納得のいく理由があるのか、潮田会長は語らないので、また、後任が「代打、オレ」というのが、グッドディシジョンなのか、つまり海外グループ経営も最初から潮田会長がやっとけばよかったってことなのか、それともただの潮田氏の独善か。株主が見なければいけない点はここだろう。

(ガバナンスの不全とは:各機関の権限分掌)
ガバナンスの仕組みでは、CEOの選解任は取締役会の仕事である。
株主は総会で取締役を選任し、選任された取締役は、会社の最高意思決定機関である取締役会を構成する。
取締役会は、CEOを選んで日々の経営を任せる。CEOの経営が不適切とみればCEOを解任するのも取締役会の仕事だ。

また、取締役会は議論を多く要する決議事項については委員会をつくって権限委譲をする
法定委員会は、監査、報酬、指名委員会で、指名委員会は取締役候補を指名するのが仕事だ(選任するのは株主総会)

今回のLIXILグループでは、瀬戸CEOの辞任を指名委員会が迫ったことになっている。
指名委員会は、潮田氏と社外取締役4人で構成されている。潮田氏は指名委員会に「瀬戸CEOが取締役を辞任したがっている」と説明し、辞任を承諾させた。というか、各機関の権限分掌を考えれば、指名委員会は辞任に対して何も決めないだろう。期中の取締役は自ら辞任するか臨時株主総会で解任されるかだ。ただし、指名委員会は任期がきたとき、次の取締役候補から外すことによって取締役を入れ替えることができる。指名委員会の社外取締役は誰もそこを指摘しなかったのか?「CEOの選解任は取締役会決議事項で、指名委員会のプライマリーな仕事じゃありませんよ。」とか「取締役は株主に選任されているので辞任するもっともな理由が示せないと株主への説明責任を果たせませんよ」とか。バーバラ・ジャッジも何も言わなかったのか?

*バーバラ・ジャッジは、米国の弁護士で、ハイランキングまで上った”女性活躍”のロールモデルであり、英国貴族と結婚してソーシャリーにも登った、いわゆるゴールデンスカート(社外取締役を歴任する)だ。

「指名委員会が辞任を望んでいる」といわれた瀬戸CEOは、辞任を受け入れるしかないと思ったとされる。ここの瀬戸CEOの行動、つまり指名委員会の総意を受け入れて辞任するというのもイマイチな判断だったと思う。CEOの解任を決めるのは取締役会だ。そこで納得いかないなら、というかクビにされる理由がないと思うなら、取締役会に諮るのがスジだ。取締役会は12名で、瀬戸CEO自身は入らないので11名、このうち5人が社外取締役だ。ということは内部1名と社外取締役で過半数になる、あるいは内部取締役は全員一致のときのみ過半数を握れる。取締役会に懸けていれば、瀬戸CEOの解任はそれほど簡単ではなかっただろうと思う。なので、瀬戸CEO自ら去るように仕向けたのだろうが、瀬戸CEOはまんまとそれにハマってしまったのだ。

取締役会できっちりCEOを解任を決議しておけば、よかったのだが、このだまし討のようなやり方によって、今回のCEO解任が全うな意思決定かどうかに疑問符がついた。さらに、後任が自分というのも潮田氏の独善という印象を強くする。株主が、潮田氏の横暴と捉えて彼の取締役解任を求めて臨時株主総会の開催を要求したのは当然の動きといえよう。

ただ、やっぱり瀬戸CEOの行動も引っかかる。潮田氏の計略をかわすくらいでないと、巨大LIXILグループを率いるのはむつかしいんじゃないか、などと余計なお世話なことを考えてしまう。まあ、だからといって、何もないのにいきなり辞任しろ、というのは横暴には違いない。株式市場もあまり潮田氏には同意していないようだ。

(追記)
西村あさひ法律事務所が2019年2月に出した調査報告書には、かなり詳細な瀬戸CEO辞任の経緯が説明されており、メディアが書くのは「法的な瑕疵はない」との結論ばかりだが、実際には報告書はガバナンス上の問題点を指摘しており、改善点も提案している。この報告書を読まないまま、本記事を書いたが、それほどスジは外していなかったという印象だ。

調査報告書は、瀬戸CEOも社外取締役も瀬戸CEOは潮田会長が任命したと考えており、瀬戸CEO自身も社外取締役も潮田氏がそういうなら仕方がない、と潮田独裁政権を認めていたこを指摘している。瀬戸CEOは、潮田会長がCEOに戻るなら直ちに辞める、とも言っていたとされる。これを潮田会長はうまく使って、自分がCEO返り咲きが瀬戸辞任の理由にできると考えた。潮田会長と社外取締役で構成される指名委員会は独立性もなく、潮田会長の追認機関となっていた。社外取締役が多くてもダメだ。山梨氏は社外取締役で指名委員会の委員長でありながら、自らのCOO就任している。指名委員会で決議後の取締役会で潮田CEO、山梨COO任命決議のときに、幸田氏もジャッジ氏はすでに退出してvoteしていない。

そもそもCEOやCOOの選任は指名委員会の本来の役割ではない。指名委員会は取締役候補の指名をする委員会だ。日本企業の機関はbylawsや権限分掌をはっきり定義しているのだろうか疑問に思う。CEOやCOOの選任について取締役会から権限委譲されていることの大きさを指名委員会の社外取締役は自覚していたのだろうか?

ということで、ガバナンス上の問題は社外取締役4人と潮田会長で構成された指名委員会にあった。
そして、瀬戸CEO辞任の正当性というか、潮田氏が瀬戸CEOのどこか気に食わなかったのか、という点についてもあながち間違っていないと思う。グループ経営は事業会社経営とは違うと考える潮田会長の思う通りには瀬戸CEOが動いていなかったからだ。

後編は瀬戸CEOのre-instate(復帰)を目指す動きを追ってみます。

デサントの少数株主はアスレジャーの夢を見るか?

当ブログはグローバルの投資業界にあるESGな話題を紹介するサイトであるが、実はというか「日本企業のコーポレート・ガバナンス」もグローバルで共有されているESGテーマの一つである。欧米の機関投資家にとっては、日本企業のコーポレート・ガバナンスについては謎が多い。「文化」の問題として理解しようとする向きもある(欧州大陸系)が、アングロサクソンにとっては、Kiss Assにしか見えない。

コーポレート・ガバナンスは、日本では「企業を正しくする」か「不正防止」みたいなニュアンスで理解されているが、グローバルでは「経営者に株主の利益最大化のために働かせる」ための仕組みである。

最初に株式会社においては経営と所有が分離されているという状況があって、ほっとくと経営者は株主利益ではなく自分の利益最大化する、という性悪説あるいは経済合理的な前提があって、まあ自分のために働くのは当たり前のことなので、それをなんとか株主利益のために向かせようというのがコーポレート・ガバナンスなのである。

いやいや会社は株主のものではない。ステークホルダーのものだ、という意見は間違ってないし、日本特有のものでもないが、ティロール先生も指摘しているようにステークホルダーの利益を最大化するのは経済学的にはうまく扱えないので、株主利益最大化で株主がステークホルダーに目配りをするのが良いということになっている。なので最近は株主のスチュワードシップ責任が強調されているわけだ。そして、機関投資家は少数株主の立ち位置にいる。

このようにコーポレート・ガバナンスをエージェンシー問題の緩和にあるとすれば、上場しているが51%の株式を持つオーナー社長のいる企業では、所有と経営が分離していないので、そもそもエージェンシー問題がない。上場子会社も同様だ。独立取締役会は、少数株主をrepresent(代表)するとしても、過半数を押さえる株主=経営者を前に無力だ。社外取締役はオーナーCEOへのアドバイス機能はあるだろうが、暴走を止める力はない。独立取締役会や報酬設計といったコーポレート・ガバナンスの仕組みはほとんど意味をなさないし、少数株主の権利(株主の平等)を護ることも難しい。49%の少数株主がオーナーと同等に省みられることはないだろう。オーナー社長にとって時価総額増大は相続上悩ましいだけかもしれない。上場子会社においても親会社はからきた社長は親会社の利益を最大化する。子会社で利益を多く還元すると少数株主に漏れ出してしまうので、子会社に利益で残すよりは親会社との取引で吸収してしまった方が合理的だ。少数株主に勝ち目はない。

とはいえ、少数株主はこういったControlled Companiesとわかっていて投資しているわけで、こういった日本の銘柄で外国人持株比率も結構高かったりする。海外機関投資家の中には、日本のオーナー企業は経営スピードが早いしエージェンシー問題もないからとむしろ好むFMもいる。上場子会社の株価は割安に見えるらしい。(上記の理由から割安なのは納得がいくと思うのだが)

前置きが長くなってしまったが、
伊藤忠のデサントに対する寸止めTOBは、まさにガバナンス的にどう評価すればいいのか難解なケースで、海外投資家がアタマを悩ませる日本企業のコーポレートガバナンスの風景だ。

もっとも、伊藤忠対デサント創業家の経営権争いとして見れば、創業家社長が大株主である伊藤忠外しを試み、それを許さない伊藤忠が経営権を握るためにTOBを仕掛ける。

しかし、なぜか40%までの買い足し。支配はしないと表明。TOBの理由も、いかにもデサントのことを思ってみたいなことが書かれているが、資本主義において営利企業の行動は自己の利益追求で問題ない。そうでないとしたら、伊藤忠の株主が許さないだろう。実際に40%で事足りたようで、創業家社長以下取締役は韓国ビジネス担当の役員を除いて全員退任、社長は伊藤忠、取締役会構成は伊藤忠2社内2社外2という伊藤忠案で決着。過半数がなくても、事実上コントロールに成功している。この部分も結構謎だと思うが、取締役会構成だけをみると少数株主にも配慮しているように(社外2)なっている。
これで、少数株主の権利は護られたのだろうか。日本では過半数まで買わなくても安く経営権を握れるということなのか。40%までTOBというのは伊藤忠の節約(ケチ)ということを示しているに過ぎないのか。よくわからない。

デサントの創業家社長の独立経営 vs. 伊藤忠の経営どっちがいいの、という点について
日本の商社は衣料メーカーの仕入れから販売までの面倒をみて口銭を稼ぐ。中国での製造工程や、海外販路開拓、海外ブランドの商権、日本のメーカーの海外進出の裏方は商社だ。商社にとってデサントとの取引は、材料の仕入れやノックダウン生産、製品販売などで各部門のトップラインに貢献する。

したがって、商社株主の思惑は純粋な投資ではない。創業家社長の時代、業績は韓国ルコックがアスレジャーに乗ってバズって悪くないが、この韓国ビジネスは伊藤忠にとってはおいしくなかったのかもしれない。今後は伊藤忠はデサントの企業価値(株価)だけでなく、より伊藤忠にとってもおいしいビジネスに舵を切るだろう。独立経営派の少数株主は、TOBに応じて退出したいところだが、希望する全員に機会はない。少数株主の権利が護られないケースになる。

一方、伊藤忠の中国での実力に乗った方がさらなる飛躍ができるのかもしれない。独立路線でいくより、伊藤忠と協働してウィンウィンの方がデサントの発展のためにはいいのかもしれない。伊藤忠と対等とはいかないが、少数株主もその恩恵にあずかることができるだろう。そもそも伊藤忠が30%程度のステークで社長や役員を送り込んで支配しているという状況を承知の上でデサント株を保有している少数株主は、伊藤忠の経営はウェルカムなのかもしれない。この場合は少数株主から特に文句はないのかもしれない。しかし、伊藤忠が関係取引を通じて利益を回収するとわかっていてるなら、デサントの少数株主になるよりは、伊藤忠の株主になった方がいいのではないか、とも考えられる。

結論からいうと、デサントの少数株主に使用前にも使用後にも魅力はないと思うのだが、デサントの外国人持株比率は20%くらいある。海外投資家やアクティビストはどう捉えているのか聞いてみたいと思う。

運用機関の上場とコーポレートガバナンス

昨年末にマザーズ上場予定だったレオス・キャピタルワークスが上場を取りやめた。上場取り止めの理由を「コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性について投資家保護の観点から深堀りすべき事項が発生した」と説明している。要請はみずほ証券からあったとのことだが、具体的にどのプロセスが問題となったのかは不明だ。(日経ビジネスオンラインの記事)

本ブログのテーマは、みずほ証券が問題にした、コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が何であるかではなく、
運用機関(インベストメント・マネージャー)が上場することに、ガバナンス上の問題がないか?
である。

上場運用機関は、グローバルでは米国のレッグメイソンとか英国のヘッジファンドのマン・グループなどが有名だ。日本ではスパークスがジャスダック上場しているが、大手のアセマネはメガバンクや保険会社の子会社なので運用機関自身が上場しているケースは少ない。(間接的に上場しているともいえるが)日興アセットのIPOプランは以前はよく聞いたが、最近は三井住友信託銀行の子会社という、多角化運用機関が運用機関子会社を持っているという不思議な形態で収まっているようだ。

前職の投資コンサルでは年金向けの運用機関の推奨を行うため、運用機関のリサーチ、評価ということをやっていた。だいたい運用機関の評価は、運用能力をみるのだが、運用機関のビジネスマネジメントも評価要素にある。日本では一般企業に関しては「東証一部上場」こそが信頼の証のように考えられているが、こと運用機関においては、「上場」はあまり歓迎されていない。ヘッジファンドのようにそもそも株式会社でない場合も多い。PEやVCに至っては運用者はほぼ個人に近い。

運用機関は、年金や個人顧客のお金を預かって運用し、運用報酬を得ている。もっぱら年金や個人の投資家顧客の利益のみのために働くという受託者責任(Fiduciary Duty、金融庁はちょっと別の意味で使ってるので混同しないでね)がある。Solo Purposeというやつだ。顧客である投資家に最大限の投資リターンを返すことが運用機関の唯一のミッションだ。海外の運用機関は、ピッチング(営業)では必ずココ強調してくる。運用機関はシングルビジネスなのだ。

ところが、上場企業は株主価値最大化が使命となる。上場運用機関の場合、顧客利益と株主利益のどっちを最大化するのか、という利益相反が発生する。

例えば、中小型株式アクティブのファンドの中には小型効果や超過利益の機会を得てパフォーマンスが良いものがあるが、当然中小型を相手にする以上キャパシティの問題がある。あまりAUM (運用資産残高)が大きくなると運用に支障がでてくるのだ。「顧客本位」のファンドは、耐えられる最大AUMを設定しており、キャパシティに近づくとクローズといって新規資金を受け入れなくなる。ところが、上場運用機関は、株主利益のことを考えなければならない。運用機関の利益は運用報酬で、運用報酬はAUMベース料率だから、AUM拡大こそが株主利益につながる。なのでクローズなどせず、がんがん営業してAUM拡大して利益最大化せよ、ということになる。そうなると、投資家に最大限の投資リターンを返すというミッションはtaint(損なわれる)する。

そもそも、「上場」運用機関でなくても、運用機関というエージェントが、投資家というプリンシパルのいう通りに動くかというエージェンシー問題がアセットマネジメントには存在している。運用機関の利益はスケールメリットがあるので、AUMが大きくなるとビジネスは安定する。投資リターン最適化かAUM最大化かのコンフリクトは、「上場」と関係なく存在する。某国内運用機関は、「目標はAUMをいかに増やすか」だと言い切っていたが、グローバルのエース運用機関のなかには、もう長い間ハードクローズで新規顧客をとっていないところもある。

コーポレートガバナンスは、企業マネジメント(エージェント)と株主(プリンシパル)間のエージェンシー問題の解決を目指している。運用機関の場合は、運用機関のマネジメントと顧客間のエージェンシー問題の緩和を目指すことになる。そして、企業の場合と同様、このエージェンシー問題をすっきり解決する方法はないのが現状だ。パフォーマンスベースの運用報酬はアクティブ運用やヘッジファンドで採用されているが、panacea(万能薬)ではない。他にもCEOがどれくらい自己資金をファンドに入れているかはヘッジファンドではチェックポイントになっている。中にはマネジメントと従業員で所有している運用機関もある。

株式を公開することが、このエージェンシー問題の緩和に役立つのであれば、運用機関の上場は正当化できるが、上記のように、株主というプリンシパルは、運用機関のAUM最大化側に立つことになるので、エージェンシー問題を悪化させてしまう。そのため、運用機関の上場は、ガバナンス上問題があると考えられるのである。

日産とコーポレートガバナンス

日産のゴーン社長の逮捕は、メディアではワイドショー扱いの事件となっている。メディアに流れている容疑は、有価証券報告書の虚偽記載。ゴーン社長の高給は有名だが、実は有報上(5年で約50億円)の2倍くらい(5年で約100億円)だったらしい。他にも容疑ではないようだが、世界各地の豪邸自宅やトロフィー妻とのセレブな生活のコストを会社負担にしていたのではないかなどワイドショーが注目しそうな、西川社長のいうところの「私物化」事案らしきものもメディアを賑わしている。

しかし、それが東京地検特捜部にプライベートジェットに踏み込まれ、ガチ逮捕される刑事事件なのか?という違和感から、冤罪説や陰謀説、今後の展開予想までSNSで発言したい人々の格好のネタとなっている。

そこに参戦するほど当ブログにプレゼンスがあるわけではないが、日産のコーポレートガバナンスについては中途半端な議論が多いように思うので、グローバルESGウォッチャーとしては、ガバナンスの問題として整理をしておこうと思う。

1.有価証券報告書虚偽記載は投資家保護の観点から大罪
投資家を欺くことは、この資本主義社会において株式会社の最大の大罪なのである。なぜかというと、投資家=市民(とか国民)だから。ちょっと前は「資本家」とか「財閥」とかが株式を所有していたが、今では「年金」という機関投資家が株主、つまり企業の所有者だ。年金は公務員やサラリーマンの後払い給料で、老後の生活のため、現役時代に労使でコツコツ積んでいるが、その資金プールの運用収益も年金給付の一部として期待されている。そして、その運用収益を主に株式投資から得ている。したがって、株式会社が株主価値最大化すること、つまり株式投資の投資収益がきちんとやってくることが、年金の給付を維持していく上で不可欠なのである。このように、世界の投資家の正体は「年金」で、年金の資産の所有者は年金加入者と受給者である個々の市民なのだ。我々庶民は、「年金」を通じて、当然日産の株式を保有していて、それに将来の年金給付を託している。有価証券報告書は投資家向け法定開示であり、投資家に株式会社の正しい情報を伝えるものだ。だから、虚偽記載によって国民株主を欺くような行為は許されない。
まあ、細かいところは置いておいてざっくり言うとこういうことで、資本市場の規制はすべからく「投資家保護」のために行われているのである。

2.私利私欲追求CEOは、米国ではCEOのあるあるとして認識されている
なぜなら、どうも株式会社の経営者は株主価値最大化(投資家からみればトータルリターン)はせずに、己の利益最大化に走っているようで、豪華すぎる本社ビルや、積年の夢を果たすための無謀な投資、報酬最大化のための業績前倒し、プライベートジェットや豪華別荘など会社のカネで贅沢三昧、辞めたときにはゴールデンパラシュート、まあ、あるわあるわ、あの手この手の経営者のやりたい放題、それなりの仕組みを考えないと、CEOはインエビタブリーに自己利益追求に走る(経済学的にはエージェンシー問題という)に違いない。というのが、コーポレートガバナンスが要請される前提なのだが、
ゴーンCEOも、まさに米国のガバナンスの教科書に書いてある典型的な私利私欲追求CEOだったのか?ゴーン氏はブラジル人でアングロサクソン経営者ではなさそうなのだが。ちなみに日本人CEOはなぜだかそれほど暴走しないと思われている。

3.投資家(株主)が求めるガバナンスの仕組みは1)独立取締役会、2)株価連動報酬3)少数株主の権利保護
「年金」という機関投資家が株主として求めるガバナンスの仕組みは、社外取締役が過半数の独立取締役会による取り締まり(モニタリング)、長期株価連動報酬を主軸とした経営者報酬による正しいインセンティブ付け(額じゃないのよ)、そして、「年金」はメジャーな少数株主なので、少数株主が割りをくうということのないよう求めていかなければならない。(スチュワードシップ責任)

そして、日産にはどれもない。
日興リサーチセンターでは時価総額上位100社のガバナンスについて、グローバル基準と日本基準でスコアを付けているが、日産はグローバル基準で90位、日本基準で94位と非常に低い。とりわけ報酬に関してはグローバル基準も日本基準もスコアはゼロである。取締役会には報酬委員会もない。日本のコーポレートガバナンス・コードが策定されて以来、本音はともかくとしてガバナンスを意識する企業は増えているが、日産は、ほとんど意識していないかやる気のない企業グループに属している。ゴーンCEOの私利私欲追求を防ぐ仕組みは全くなかった、といえよう。西川社長がガバナンスを強化したいといっているのもこの点だろう。

しかし、日産のガバナンスにはもっと根本的な問題があると考える。
ゴーンCEOがルノーのトップも兼務した段階で、ルノーの株主価値最大化がアサイメントとなり、正々堂々と日産のリソースを使って、ルノーの株主価値最大化してきたわけだ。そもそもゴーンCEOはこっそり私利私欲を追求する前に、表向きにも日産の少数株主に割りを喰わせる使命があったわけで、機関投資家が少数株主として日産の株式を保有するのは合理的といえない。そりゃ、ルノー株で保有するのが正しい。ゴーンCEOも日産では私物化したけどルノーでは同じことをやっていないだろう。なんたってルノーの筆頭株主はフランス政府なのだ。ステイシズム(国家主義)で有名な国で政府に楯突くなんて危険すぎる。

インデックス運用は機械的に日産を保有しているのだろうが、スチュワードシップ上こういった株主価値最大化テーゼが最初からない企業の株式保有が正当化できるのか、議論の余地があると考える。これは、日産だけでなく、日本に多くある上場子会社にある問題だ。しかし、不思議なことに「少数株主の権利」に相当うるさいはずの外人も日産や日本に多くある上場子会社を結構保有している。世の中はソフトバンクという巨大子会社IPOのCMが流れている。

今のところ、わかっていて保有していたからか、日産の少数株主からの怒りはあまり報道されていない。運用を委託している「年金」からの文句も聞かれない。まあ、誰も文句言ってないのでゴーンCEOの悪事がイマイチピンとこないということもある。一応、この記事は「年金」の受益者である一般市民からの文句としておこう。日産や上場子会社は保有しないか、換算して親会社株で持つなどの対応をした方がよいと考える。