温暖化ガス削減と日本のエネルギー政策

日本経済新聞 朝刊
2018年6月18日
エネルギー日本の選択(1) 思考停止が招く危機
原発「国策民営」の限界

日本のエネルギー政策が滞っている。原子力、再生可能エネルギー、火力とそれぞれが大きな課題に直面しているが、政府は近く閣議決定するエネルギー基本計画(総合・経済面きょうのことば)でも十分な具体案を打ち出せない。

COP21パリ会議において、2℃までの気温上昇で合意したということは、少なくとも先進国では、いずれ二酸化炭素(温暖化ガス)は排出できなくなるということを意味している。
企業もいずれ、スコープ1、2を開示しているだけでは許されなくなる。いつまでにどこまで減らすのか、減らしたのか、そして最終的にその目標は排出ゼロというわけだ。
企業が排出する温暖化ガスのほとんどは電気に乗ってやってくる。大事なのは発電ソースが何か?ということだ。
電気自動車も火力発電由来の電気で走ったら、温暖化ガス削減にはほとんど貢献しない。内燃機の効率はすばらしく上がっているので、火力発電ではるばる送電していたら温暖化ガス排出面で負ける可能性もある。コストを勘案するとさらに勝てないかもしれない。だから、エネルギー基本計画は、日本企業の温暖化ガス排出削減における競争力、さらには日本社会の低炭素社会への移行のすべてを握る。

そして、この記事が嘆いているように、電源構成において原子力発電を議論することが欠かせない。経産省はベース電源として原子力を位置付けているが、将来時点においてもベース電源として確保したいならば、既存の原発維持だけでなく新設もしなければならない。しかし、現実をみると既存の原発を稼働させることすらままならない。さらに、使用済み核燃料の問題、最近の地震の多発をみれば、今以上の原発稼働はかなり難しい。既存の原子炉は稼働しないままいずれ廃炉となる。にもかかわらず、エネルギー基本計画は原子力をベース電源として位置付けている。
一方、「原発無し」の計画もまた、気候変動という観点からは厳しいものになる。原発反対では電源確保に問題がないという議論多いが、温暖化ガス排出の削減という観点からは、問題がありそうだ。日本社会は相当のコスト負担を覚悟しなければならないだろう。ただし、茨の道でも道はあるということかもしれない。

欧州のESG準拠の投資家は、気候変動に関して原子力発電を化石燃料発電よりはクリーンと位置付けている。彼らは、化石燃料とりわけ石炭発電を消滅させることに燃えている。一方、ESGインテグレーションの観点からは、原子力発電はビジネスリスクを抱えるし、化石燃料や石炭は座礁資産(減価が必要な資産)とみている。そして、日本企業固有の気候変動におけるリスクは、国が非現実的なエネルギー基本計画しか持っていないということだ。

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