社長が「ESG」と言っている間は、まだまだ

日経新聞の2018年5月2日(日)ウェブ記事
「ESGは「攻め」に効く 花王やTOTO、本気宣言」
(日経ESG 相馬隆弘)
日経2018年4月号の記事を再構成

花王の和田道隆社長は今年2月、決算説明会の場で中期経営計画の達成に向けてESG(環境・社会・ガバナンス)活動を本格化すると宣言した。・・・さらなる成長へ向けたエンジンとしてESG活動を位置付けた。
花王の宣言に象徴されるように、ESGを経営戦略の中枢に据える企業が増えている。

中経のコンテクストでESGが語られるのは、統合報告の到達点であり、ESG投資家が惹きつけられるのは間違いない。
ここでいうESGは、「気候変動」といった具体的なESGイシューのことを指しており、「ESG」という単語ではない。中経に「ESG活動」なる単語が登場したことではない。(為念

記事によれば、エンジンとして「ESG活動」を位置付けたとあるが、この「ESG活動」って意味不明だ

ESGという造語は、環境 or 社会 or ガバナンス に着目する投資という意味で作られているので、「ESG活動」といった合体型の活動なるものは存在しないので、What are ESG activities exactly? となってしまう。
普通に考えても、E&S(環境、社会)とG(ガバナンス)は一緒にならない。
E&Sはステークホルダー関係であり、Gは株主と経営者関係を指しているからだ

なので、E&S(環境、社会)の何を中経の中枢に据えるのか、具体的に語ってもらいたい。ESGといわれても何のイメージも湧かない。

記事にもあるように、グローバル企業には、サステナビリティを戦略の中枢に据える企業があり、ESG投資家の熱烈な支持を受けている。ユニリーバは世界ESGランキング最高の企業であり、なんといっても昨年くらいまでESGエンゲージメントのメインテーマであったパームオイルでの神対応でもはやレジェンドだ。

グローバル食品メーカーもわかりやすい例だろう。
ネスレやダノンも、食品業界がいつまでもオレンジ色のスナック菓子で食欲を刺激して売上拡大という路線では立ちいかないと考えている。先進国から雨あられのようにジャンクフードが降り注ぎ、エマージング諸国はどこも肥満に悩んでいる。ネスレはキットカットを小さくし、カロリーを表示している。ダノンはジャンクフードのラインはすべて売却してヨーグルトを軸にヘルシーラインに絞り込んでいる。また、リスク面でも食品業界は原料の生産現場が度々問題になっている。商品作物のプランテーションは、地元の農業を破壊したり、児童労働の温床になったりと問題が多いが、こういったサプライチェーンのエンドまで今ではチョコメーカーの責任である。

ただし、ESGは成功のマジックワードではない。GEの突然の社長退陣のニュースに驚いたが、GEに16年君臨したカリスマ経営者のイメルト社長は、早くから「環境」をGEの事業戦略の中枢に据えていた。GEのホームページには環境経営が謳われて、なかなか感動的な内容だったので、ESG投資セミナーでもちょくちょく紹介していた。イメルト社長は、再生可能エネルギーを見据えてオバマ政権下のパリ協定を進めたが、現トランプ政権で政界とのパイプも切れてしまったとも言われている。結局のところ、GEの株価の低迷によって経営陣の刷新となったようだ。

もちろんマテリアルなESGイシューに気づいていない企業の経営は問題だが、気づいた(本気宣言)企業では、「ESG」の何がマテリアルで、何がリスクで、何が投資機会となるのか、社長には「ESG活動」の中身を語ってもらいたい。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする