タバコ不投資が再流行

米国の不投資運動の2000年代のブームはタバコだった。当時の大学の学生運動の盛り上がりは、今の石炭不投資に似ていると指摘した人がいる。ネガティブスクリーニングするSRIファンドのために、インデックス会社もダウジョーンズexたばこを計算しているくらいで、米国のSRIミューチュアルファンドの世界では、最もポピュラーなネガティブスクリーニングだった。

しかし、年金が取り組めるかという点は、タバコが良いか悪いかよりも前にエリサ上このネガティブスクリーニングが許されるかという議論があり、パフォーマンス追求のテーゼの前には、ユニバースを縮めるスクリーニングは正当化するのは苦しい。DOLはパフォーマンスが同等ならばやって良しといっている。しかし、投資パフォーマンスに確約はないので、同等を見極めるのは難しい。カルパースやカルスターズがたばこを不投資とするのは、カリフォルニア州政府から求められ、理事会がOKしているからで、投資チームからの要請ではない。

当時の欧州では、ネガティブスクリーニングはあまり一般的なESG投資のやり方ではなく、英国の年金基金ではネガティブスクリーニングは受託者責任上否定的である。とくにタバコに関しては、「法律で禁止されているわけでもない」と無関心だった。ネガティブスクリーニングの雄であるノルウェーの年金ファンド(SFW)だけはタバコ不投資としていた。日本のJTも不投資対象となっている。

こういう欧米のESG投資家のタバコへの態度の違いは、社会の様相を反映していると考えていた。米国はスモーキングフリー社会を目指しているし、欧州はタバコに寛容だ。前職の外資系コンサル会社のマネジメントも米国人は吸わないが、英国人や豪州人はスモーカーが多かった。

タバコ不投資運動からはや十数年が経ち、ネガティブスクリーニングの評価としてカルパースの投資チームは$3bioの機会損失だったとし、たばこ不投資の再考を理事会に求めた。2000年以降、経済成長著しい新興国への輸出をバネにたばこ産業のパフォーマンスが超良好だったためだ。「ネガティブスクリーニングは高くつく」ということを奇しくも示したケーススタディとなった。

しかし、カルパースの理事会は、たばこ不投資を継続し、さらに強化することを決定する。さらに、最近では欧州の年金基金もネガティブスクリーニングにタバコを加えている。フランスの公的準備年金基金のFRRにヒアリングに行ったときも、タバコをスクリーニングアウトしたときき、「フランス人は結構タバコ好きと思うが、大丈夫なの?」と聞いたところ、「そうよ、この裏庭でもモクモクやられるから、窓をあけると煙が入ってくる」といいつつ、「タバコのヘルスリスクは看過できない」もちろんFRRもフランス政府の意向がモロに反映するので、フランスもスモーキングフリーに向かうということなのだろう。NN Investmentsやロベコなどオランダの運用会社も次々とタバコのネガティブスクリーニングを表明しており、欧州大陸に広がっているようだ。

ここには、インパクト投資(投資で社会を変える)モードが入っており、
気まずいパフォーマンス議論に関しては、これからのタバコ産業の悲観的将来予想を緩い理由にしているようだが
ネガティブスクリーニングで、その産業が消滅したりしないし
リターン予想でどこかのセクターを選んだり選ばなかったりするのは、アクティブ運用が普通にやっていることなので
ユニバースから外す理由にはならない
結局のところ、ネガティブスクリーニングはメッセージ性以外あまり効用はないような気がするのだが
欧州大陸は、「清く正しく良い投資」志向を強めているような気がする。

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