受託者責任(フィディシュアリ・デューティ)

ESG投資には、受託者責任(Fiduciary Duty)について避けられない議論がある。

受託者責任(Fiduciary Duty)とは

一般的には、他者の信認を受けて裁量権を行使する者が負う責任と義務をいう、企業年金では、管理運営にかかわる者(受託者)がその任務の遂行上、当然果たすべきものとされている責任と義務のことをいう。

企業年金連合会ホームページより

受託者責任(Fiduciary Duty)といえば、米国の企業年金を規定するエリサでしょう

≪エリサ法 404条 和訳≫
受託者の義務(Fiduciary Duties)
404条 受託者が義務を果たすのは、専ら加入者及び受益者の利益のためだけであり、 (A)次の2つの目的のためだけである。[忠実義務]
(i)加入者及び受給者に給付を行う。
(ii)制度を管理するために適正な費用を支出する。
(B)同様の能力を持ち、そのような問題に精通している慎重な人間が、同じ特質と
同じ目的を持つ資産の管理において、直面している状況の下で用いるであろう、 注意(care)、技術(skill)、慎重さ(prudence)及び勤勉(diligence)を もって行う。[慎重な専門家の注意義務(プルーデントマンルール)]
(C)多大な損失の危険を最小限にとどめるべく、そうすることが明らかに慎重でな い場合を除き、投資を分散する。
(D)本法の規定に合致している限り、制度を規定する文書や契約に従う。

受託者責任等について
厚生労働省年金局 平成26年12月1日より

年金基金は加入者や受給者の利益のためだけに職務を遂行する。つまり年金基金の運用はパフォーマンス追求であり、リスク勘案後の投資リターンの最大化でなければならない。社会的責任投資(Socially Responsible Investment)は社会問題解決と投資リターンの2兎を追う投資なので、この唯一の目的(加入者や受給者の利益のためだけ)に反するのではないか、という議論がまずある。さらに、投資リターンを犠牲にして(あまり儲からないが)社会的責任を果たすというのもフィディシュアリブリーチ(受託者責任違反)にあたるのではないかという議論を、「受託者責任問題」という。

これについては、1998年のカルバートレターでDOL見解が出ている。投資リターンに遜色なければ、社会的なコーズを考慮しても構わない、つまり年金基金のSRIはOKというものだった。
Problem solved.

とはいかなかった。「投資リターンに遜色なければ」というのは曲者だ。なんらかのスクリーニングを入れてユニバースを縮めると、分散効果で不利になる。当時のSRIはネガティブ、ポジティブいずれにせよスクリーニングファンドだったので、もやもや感が残るものとなった。

2006年に公表されたわれらがPRI (責任投資原則)においては、PRI策定にあたって、PRIが機関投資家、つまり年金基金というFiduciaryの投資家を対象としていたため、この受託者責任問題はなんとしてもクリアすることが必要だった。そこでフレッシュフィールズ法律事務所が、各国の受託者責任問題を議論し、「ESGを考慮することは、長期的な投資リターンに貢献するので、受託者責任違反にならない」
それどころか、「財務だけで投資判断するより、より多くの情報、財務+ESGを使うことは受託者責任上の要請である」とまで言い、年金基金の責任投資にゴーサインを出した。(PRIではSRIではなくResponsible Investment(RI)という)

ここでも、投資判断にESGを組み入れる(ESGインテグレーション)ことなので、やはりスクリーニングは厳しい。厳密にいえば、PRIにおけるRIにスクリーニングは入っていない。

英国の大学関係の職域年金であるUSSにインタビューしたとき、英国ではネガティブスクリーニングは、受託者責任違反になる可能性が高いとのリーガル見解が出ているため、スクリーニングは一切行わないといっていた。ただし、USSの株式ポートフォリオはインハウスのアクティブ運用で、グローバル株式でたった500銘柄しか保有していない。もちろんエネルギーセクターやタバコセクターに魅力がないため保有していない可能性は高いが、あくまでもアクティブの銘柄選択の結果である。

それから10年、PRIの署名機関は増えたが、受託者責任問題が消えたわけではなかった。
2015年にPRIは、“Fiduciary Duty in the 21st Century”(21世紀の受託者責任)というレポートをまとめ、
「ESG投資を年金基金に積極的に推進する法規制を定めた国はひとつもない」
とロビー活動に力を入れている。

スクリーニング(ESG準拠もの)は、厳密には受託者責任で引っかかる。
PRIにおいて受託者責任をクリアしたのはESGインテグレーションだけだったのに、ESG投資の半分以上を占めるスクリーニングを否定できなかったので、受託者責任問題も残ったということなのだろう。

SNSでもご購読できます。

コメントを残す

*

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください