パンデミック(新型コロナウイルス)の背景にあるESG問題

パンデミックは、システミック・リスクとして認識されていたが、その先の議論はあまりなかった(と思う)
ニアミスなバクテリアの話はあった。Factory Farming (工場方式畜産)やFish Farming(養殖漁業)の抗生物質の乱用が、抗生剤耐性細菌を生み、その感染が拡大するエピデミックが懸念されていた。これは実際にエンゲージメントされていたし、外食産業は抗生剤フリーとまではいかなくても削減した食材の仕入れを約束しており、サプライチェーンをケアしている。

ウイルスによるパンデミックを事前にリスクとして捉えていたかというと、それはあまりなかったといっていいだろう。投資家が、広すぎるESG問題を事前にリスクとしてカバーするのは難しいのだ。

過去、ESG問題のreadiness(備え)力は低く、悲惨な事故や自然破壊が起きて初めて、ESG問題に気がつくことが多い。バングラディッシュの縫製工場、ラナプラザ・ビルが倒壊して、ブランドファッションのサプライチェーンの過酷な労働環境が明らかになったり、メキシコ湾でBPの海底油田掘削施設「ディープウォーター・ホライズン」の掘削パイプが折れて、絶望的な原油流出にみわれて、海底油田の海洋汚染リスクの大きさが認識されたといった具合だ。

だから、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大において、過去のreadinessの無さを嘆くより、このパンデミックのLesson learnedは何かを考えた方がいいのかもしれない。

今回注目するのは、最近メディアでボイスアップしている、霊長類学者ジェーン・グドール博士だ。博士は、森林破壊生物多様性の喪失というE(環境)問題がパンデミックの原因だと指摘している。

霊長類研究のスーパースターで自然保護運動のアイコン、グドール博士についてはナショジオにあたってもらうとして、
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20130108/336202/?P=1

新型コロナウイルスは、武漢の野生動物の肉(Bush meat)を取引する市場で、野生動物から人間に感染ったと考えられている。過去、人間界の新しい病気の半分は、野生動物からやってきたウイルスが原因なのだ。そして、野生動物界には未知のウイルスが巨万といるらしい。野生動物と接点があれば、そこから様々な病原ウイルスが人間界に憑依する危険性がほぼ無限大にあるということなのだ。

手付かずだった森が、loggingやminingで開発され、道路が通り、人口が増え村が発展すると、今まで人間と出会うことのなかった野生動物と接触する機会が増える。原生のままの熱帯雨林では、野生動物の個体や種は、それなりに間隔があり、それがウイルスに対して自然のバリヤーになっている。開発により野生生物の生息環境が悪化し、混み合うようになると、自然のバリヤーを失い、ウイルスが渡り歩くようになる。ウイルスに対して脆弱になった野生生物界が、開発によって人間のすぐ近くまで来ている。そして、人間界、つまり都市部には人間界に適応したコウモリ、ネズミ、鳥そしてペットなど多くの生き物が多く生息している。野生生物界から来た未知のウイルスがこういった生き物を経由して人間に飛び移るリスクは高くなっている。

森林破壊生物多様性の喪失が、新型コロナウイルスのようなパンデミックの原因だとして、環境保護、国立公園や野生動物のサンクチュアリをつくって、野生生物の純粋な自然エリアを保つことが必ずしも解決策にはならないと、グドール博士は続ける。国土の8割がアフリカの森林で覆われているガボンの村では、捕まえたサルを食用として売っているし、今はおおっぴらにはできないだろうが、類人猿も食べてきた。村で暮らす人にとってコウモリなど野生動物は貴重な食糧である。ガボンのMayibout2という村でおきたエボラ出血熱のアウトブレイクでは、近くの森でみつけたチンパンジーの死体を運んで、解体を手伝った子ども達が最初にチンパンジーからエボラウイルス感染したといわれている。裕福とはいえないアフリカの村の人々にとって、野生動物の肉は貴重なタンパク源だし、マーケットで生きたままの野生動物を売買するのは、冷蔵庫のない世界では必要なことだという。野生動物の肉食を止めるには、貧困の解決が必要だ、グドール博士は強調する。

ここまでの話は、3/18付のガーディアン紙の記事を参考にしている。
https://www.theguardian.com/environment/2020/mar/18/tip-of-the-iceberg-is-our-destruction-of-nature-responsible-for-covid-19-aoe

野生動物の肉食は、ただ貧困から行われているというのは、西欧的な見方かもしれない。2007年の国連で採択された「先住民族の権利に関する宣言(Declaration on the rights of Indegenous Peoples)」では、先住民族の権利として狩猟文化や伝統的な食生活も尊重すべきだとする。野生生物界、すなわち純粋な自然の中にブレンドインしている民族の狩猟行為はそもそも野生動物の持つ病原ウイルスのリスクにはさらされてきた。ただし、これらは風土病として、その集落で収まり、パンデミックにはならなかった。しかし、最近では、純粋な自然界は開発にさらされ、アマゾンの熱帯雨林などに住む非接触部族とはいえ国立公園内に住んでいることも多いし、採掘業者が出入りしている。アマゾンのヤマノミ族にも新型コロナウイルスはすでに到達している。狭まった野生生物界での狩猟行為の未知のウイルス感染リスクは高まっているだろう。パンデミックのリスクとして狩猟文化を放棄させるべきだろうか。先住民族の権利とのバランスを取るのは難しい。

狩猟採集を放棄し、定住農耕牧畜へ移行した方がいいのだろうか。境界がもはやあいまいな野生生物界をあきらめて人間界に来た方が安全だろうか。しかし、人間界の畜産も安全でなさそうだ。鳥インフルエンザや牛の口蹄疫など家畜の伝染病パンデミックは度々起こっており、鳥インフルエンザはいつ変異してヒトに感染するウイルスとなるかもしれない。ここにも、パンデミックの入り口が開いている。Factory Farming(工場型畜産)の問題を提起しているFAIRRも、Facrotry Farmingのリスクに、パンデミックを当然足すだろう。最終的には動物由来のタンパク質を諦めるという話になれば、最近米国で大流行のAlternative Meatとか植物由来のフェイクミート、ソイ・ミルクやアーモンド・ミルクなど植物由来のミルク、いわゆるサステナブル・フード(プロテイン)が、パンデミック回避の道として、注目されるかもしれない。もちろんアマゾンがダイズ畑になっているのがイカンという人もいるのだが。

新型コロナウイルスのパンデミックに繋がるサステナビリティ(環境と社会)イシューは
森林破壊、生物多様性
先住民族の権利
サステナブル・フード(プロテイン)

などがありそうだが、そうシンプルな話ではない。
まさにSustainable Development(持続可能な経済成長)が難題であることを示している。

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