PRI in Person 2019の辛口レビュー

今年のPRI年次総会は、パリ開催。
昨年のサンフランシスコを上回る1600人規模となり、日本からも80人が参加した。
9月10日火曜日から木曜日までの3日間の会議だったが、月曜日は東京は台風が直撃で飛行機が飛ばず、金曜日はパリ市交通ゼネストで空港までのアシがタクシーのみという日本人参加者には苛酷なパリ行きとなった。
(ちなみに筆者は、幸いアカデミックデー参加の為1日早く、日曜日出発だったので台風に巻き込まれず、帰りも木曜日の晩のフライトという絶妙のタイミングでスムーズに帰還できた)

パリといえばそりゃ「Paris Agreement(パリ合意)」だよねということで、キーノート・スピーチはマクロン大統領がビデオメッセージでClimate Changeへのコミットメントを表明、続いて経済金融大臣がオンサイトで登場し、フランスのSustainable Financeへの先進的な取り組みについて力強く語った。このダンディなBruno le Maire大臣に、ベストスピーカー賞をあげたい。余談だけど、大統領も大臣もフランスアクセントがほとんどない英語で大変雄弁だった。

Keynote InterviewとしてシェルのCEOが出てきて、ビジネスマンらしいトークを繰り広げた。Shellはロンドン証券取引所における最大の時価総額を誇り、テムズ川沿いビッグベンの斜向いに英国本社がそびえ立つ、オイルメジャーで、たびたび機関投資家の共同エンゲージメント(Aiming for A運動)として気候変動に関する株主提案を受けている。保有する油田採掘権は開発できないままとなる座礁資産だとされ、機関投資家は化石燃料採掘のビジネスモデルの変革を迫っている。シェルの取締役会は、こういった投資家のエンゲージメントに応えて、温暖化ガス削減の戦略、削減目標の設定を検討している。シェルCEOは、2050年までにカーボンフットプリント半減の目標のハードルが高いことを認め、中間目標として2035年に20%削減という極めて現実的な目標を目指していると説明した。また、経営のコミットメントを明らかにするため、カーボンフットプリントの削減目標達成と役員報酬を連動させるという。
これは、機関投資家のエンゲージメントにちょくちょく見かける要求だ。温暖化ガス削減の目標設定を求め、目標への進捗の報告、さらに念には念を入れて目標と報酬を連動させる、のパターン。Shellの削減目標は今どきの1.5℃が好きな気候変動活動家からみれば、全然たりな〜いということだろうが、ShellのCEOとしてはがここまで機関投資家の声に応えているというところだろう。ここまで来たのも、機関投資家の共同エンゲージメント成果といっていい。ちなみに、BPも同様のエンゲージメントを受けている。いまや再生可能エネルギー発電の最大の投資家はBPだ。気候変動に真剣な機関投資家は、まずはオイルメジャーに切り込んでいるのだ。ShellやBPはベンチマーク運用からは外せない銘柄でもある。一方、集中投資のアクティブマネージャーは、銘柄選択に自由度が高い。ジェネレーションは既にエネルギーセクターは銘柄選択から外れているといっている。ベイリーギフォードも10年前は15%くらいあったエネルギーセクターのウェイトは今や2%くらいという。彼らはShellやBPにあれこれいう時間を他の投資機会発掘に使った方がいいと考えている。

Keynoteに続くPlenary(全体会議)もBreakout sessions(分会会議)もほとんどが気候変動と金融、つまりお金の流れを変えるサステナブルファイナンスがテーマだ。

と先に進む前にー
ここでTCFDについて語っておく。
そもそも金融安定理事会の理事長でイングランド銀行総裁のカナダ人Mark Carneyは気候変動コンシャスで、金融機関も気候リスクを考慮すべき、あるいはマクロ的には金融機関の投融資でもって低炭素社会を実現すべき、「お金の流れを変える」ことが必要と訴えた。これがグリーンファイナンスの考え方だ。しかし、グローバルの金融機関にしてみれば、そりゃやぶさかでないが、そもそも融資先の気候リスクがわからないんだから、投融資に反映することはできんでしょ。そうか、なら企業にもっと本気の金融機関の使用に耐える気候リスク「財務」開示をやらせよう、そうしたら、金融機関が低炭素や脱炭素をプラス評価にしてローンポートフォリオに反映させれば、企業の低炭素化が進み、地球温暖化を2℃や1.5℃で留めることに成功する。とまあ、最後の方はちょっと御伽話入っているが、要は金融機関に気候変動に対して真剣にやらせるためには、やっぱり気候変動情報の開示にいきつく。CDP以来あまり進歩がないんだが。

というわけでTaskforce for Climate Risk Financial DisclosureをESG村の主要メンバーが立ち上げた。投資の世界では非財務情報というサブカルだったESGにとって、金融安定理事会のお墨付きで、しかも「財務情報」に格上げ(?)となったわけで、そりゃTCFDのメンバーとなったESG村人も気合の入り方が違ってた。(といっても世の常でこういうレポートの下書きはコンサルがやるが)ChairはあのMicheal Bloombergだから、TCFDにかかるお金も出してくれる。TCFDのレポートは金融安定理事会に報告されるだけでなく、G20のStatementに入るのではないかというところまでいった。(2016年の杭州G20、実際には記述はなかった)これまた、ESG投資にとっては政治的な接近もめずらしかった。

このようにTCFDのレポート策定までは、そりゃ盛り上がってました。シンガポールのPRI in Personには、TCFDのEDが出てきて、目玉となるシナリオ分析について、全企業が参照するベースラインシナリオを用意するとぶちあげていた。もうひとつ、「財務」開示なんだから法定開示のところで、日本なら有価証券報告書において開示させるんだ、というのが目玉だった。しかし、そもそも気候変動に関する予測は不確実性が高く(つまり、よくわかってない)、フィージビリティについての議論もあり、レポートドラフトがでてきたときには、シナリオ分析を要求したものの、ベースラインシナリオなど具体的なものは姿を消していた。さらにパブコメで相当のつっこみが入り、最終的にはシナリオ分析はオススメ程度になり、法定開示にもこだわらないとなった。当初の金融機関のリスク管理に耐えうる気候リスク財務開示からは、かなり後退し、TCFDベースの開示というものがどういうものなのか、いまひとつイメージがわかない漠然、いや「ハイレベル」なものになった。

が、成果もある。直接、気候「リスク」としたことで、リスクマネジメントの枠組みを使えるようになった。物理的なリスクと低炭素社会への移行リスクという気候リスクの構成を出してリスク計測の考え方の方向性を示した。それまでは、気候変動のインパクトは規制リスクやレピュテーションリスクを通じて体現化するという風にゆるく紐付けていただけだった。リスクマネジメントにおいては、過去の温暖化ガス排出量という情報ではなく、いわゆるルックフォワード、ここから将来どうなるのかという視点となり、「気候変動への対応」としてやるべきことがはっきりした。ルックフォワードのリスク管理は、そうシナリオ分析なのだが、しかし、気候変動はリスクマネジメントで扱うには、他の経済パラメーターに比べて、あまりにも不確実性が高いというのが難点だ。また、経路依存なところも悩ましい。AIや量子コンピューターでなんとかなるんだろうか。やはり、本音としては予測は難しいものとして扱う(リスク対応しようがない)のもアリだろうな。

レポート公表後のTCFDの活動は、フォローアップレポート以外は目立った動きはない。金融安定理事会の理事長はイングランド銀行総裁のMark Carneyの任期は延長されたが、TCFDが提言のバージョンアップという方向はなさそうだ。TCFDによって企業が気候リスクを開示すれば、次は銀行がローンポートフォリオを低炭素にする番だが、今のTCFD提言では、投資家や貸し手が利用できるレベルの開示は期待できないだろう。それに、TCFD自体、独立した組織として存続するか引き取り手を探さないと、これ以上の活動を続けることができない。PRIはTCFDを支持しているので、PRIが引き取るのもありだと思うが、そもそもレンダー(銀行)の方を向いたグリーンファイナンスからきているので、株式投資が主体のESG投資家にはしっくりこない、ということがある。日本ではTCFDを受け入れろと企業を誘って、オーケーしている企業数も一番多いようだが、肝心のTCFDのフレームワークが生煮えで、それをバージョンアップする可能性が今のところない、という不都合な部分は、あまり気にしていないみたいだ。どちらかといえば、企業を募るより、TCFDのバージョンアップを引き受けたらどうだろう。

なぜ、延々とTCFDのハナシを書いたかというと、これを踏まえて、改めてPRI in PersonのPlenaryやBreakout sessionをふりかえると、多少はrelevancyがわかるからである。

PlenaryやBreakoutにも出てきた、”The Inevitable policy Response”のMark Fultonは, PRI初登場と思うが、TCFDの気候リスクで出てきた気候リスクコンサルタントな人だと想像する。昨年のSan Franciscoでは、気候リスク関連コンサルらしき人が多くオーディエンスとして参加していたが、パリではPlenaryに登場した。Energy Transition Advisorsの創立パートナーだそうで、社名からして、TCFDにおけるTransition Riskのコンサルタントなわけで、エネルギーミックスを変えるために入るであろう様々な規制を予測しそのインパクトへの対応を指南する、これからするのだろう。

BreakoutではPRIの”Chief Responsible Investment Office”のNathan Fabianが、EU Taxonomyのセッションを開いたが、Public Comment締め切りの1日前なのに、”What is it, and how should it be used?”というタイトルだった。こちらは、やはりVegioErisなどグリーンボンド認証を出しているESG調査会社などから参加者が集まっていた。グリーンボンドの規格化(ISO14030、米国主催)もすすんでいるが、これらの流れは、グリーンボンドのボンド部分ではなくて、資金使途の「グリーンプロジェクト」の質を確保しようという動きだ。さしてサステナビリティに貢献しない「グリーンプロジェクト」は「グリーン」を名乗らないで、ということなのだが、現在のところEU Taxnomyはプロジェクトの種類で「グリーン」か否かを決めるというものだ。もちろん、この先には「どれくらい」グリーンなのかというインパクト計測という課題がある。サステナブルファイナンスにおいても、資金に限界がある以上最適化の問題はある。
ということで、EU TaxnomyやISO14030などの規格化の動きは、グリーンボンドを含むサステナブルファイナンスに大きく影響する。銀行の融資においても、融資そのもののローンスプレッド(グリーンボンドのボンド部分)よりは、融資プロジェクトのグリーン度合いが問われる。なので、日本はTCFDの策定にはほとんどinvolveしていないのに、出来上がったものに従うよう日本企業にすすめているみたいだが、それより、こっちのグリーン基準化にinvolveしたらどうだろう。ISOでは米国、フランス、中国、英国が入り乱れて覇権争いしているらしい。

個人的に最も興味深かったのはBreakoutの”Academic Lecture “Carbon pricing in portfolios”、オクスフォードのPloeg先生の講義だ。カーボンプライシングはエコノミストの間では、気候変動政策のディフェクトスタンダードだと思うが、実務界や政治で取り上げられることはほとんどない。なんといっても、EUの排出権取引によって一時は20ユーロ超えだった排出権は金融危機、京都議定書の終了により後ろ盾を失い、1ユーロ以下まで下落、流動性も枯渇、事実上消滅していたので、多くの排出権投資は紙くずとなってしまったのだから、日本の不動産投資同様、機関投資家の間ではタブーなわけだ。昨年までCarbon Pricing(Carbon Taxも同じ)のハナシを機関投資家の会議できくことはほとんどなかった。しかし、今年はちらちらCap&Tradeの話題がみえている。その意味では、こういうセッションがパリのPRIであったというのは、なかなか前進なのではないだろうか。

アカデミックデーのサステナブルファイナンスについての論文では、気候リスクと○○といった切り口で、”気候リスク”ものが増えた。おなじみテキサス大オースチンのLaura Starks先生は気候リスクの分解は TCFDの物理リスク、トランジションリスクではなく規制リスクとして分析していたが。データ取得可能性の問題からだと思われる。ともあれ、「KLDのESGレーティングと○○の関係」から卒業して、気候変動本丸を対象にするのはいいことだ。

昨年は、ホテルの客室清掃の女性が登壇してレイプ被害とホテル側の対応を訴え、オーディエンスの機関投資家(厳密にいえば機関投資家である運用会社等の従業員)に移民の低賃金労働者の窮状を訴えた。アジェンダには明示されておらず、戸惑った参加者も多かったのではないだろうか。今年は、本人がHuman Traffikingの被害者であり、脱出後に被害者救済のNPOを創った2人が登壇、自らの体験を語った。ビジネスにおいて職場においてそれぞれが人身売買について意識を持ってもらうだけで、状況は変わると訴えた。上場企業が直接人身売買に係ることは少ないかもしれないが、サプライチェーンではその限りではない。こういう人身売買組織もカネのやり取りはしているので、金融セクターはこういった組織のマネロンを許している。本来、機関投資家、つまり金融で働くサラリーマン達はこういう世界から一番遠い。我々金融人は、お金持ちをよりお金持ちにするのが仕事で、お金のない人に興味を持たない。とくに日本ではHuman Traffikingという言葉すら知らない人が多いかもしれないが、代表的な国際的な社会問題のひとつだ。このシリーズはFionaの仕掛けではないかと思う。彼女は意外にも社会派なのかもしれない。

ということで、ESG投資業界は、気候変動のマテリアリティを気候リスクと捉え、リスク計測、リスクマネジメントへ向かうという方向。もうひとつは、株式投資におけるESGインテグレーションから、債券、融資、すなわちグリーンファイナンスの方に関心はシフトしつつある。グリーンファイナンスにおいては資金使途「グリーンプロジェクト」の規格化(グリーンをサステナブルと言い換えても同じ)がテーマ。

んで、辛口コメントが何かといえば、PRIのメインストリーム化がより一層確認されたというところだろう。気候変動PRIとして、いろいろ取り上げはしたが、PRIとして何らかのステートメントを採択するということもなかった。Investor Agendaは引き続き掲げてはいるが、PRI in Personにおいてアピールすることはほとんどない。AgendaへのEndorseは自由で、プッシュすることすらない。機関投資家、最大のイニシアティブとして共同エンゲージメントを打ち出せれば、最大の影響力が期待できるのだが、残念ながら今のPRIはそういった方向にはない。大きくなりすぎて、アセットオーナーと運用機関を混在させたことで、寄付金ではなく会費を取るようになったことで、PRIは尖ったことはできないのだ。今年のCOP25はパリ合意の目標設定がかかっている。PRI in Personの後、それに向けて盛り上げようと、国連はNYで気候サミットを開いた。機関投資家最大のイニシアチブは、3日間も大仰に大会場に集結しながら、気候サミットの16歳の気候変動運動家ほどのメッセージも打ち出せない。How dare you?

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