ボードのジェンダーダイバーシティ(女性取締役のこと)グローバル編

いわゆる「女性活躍」の問題は、グローバルイシューの1つである。当然SDGsにも入っている。
女性の社会経済的地位向上は、日本も批准している国際条約であり、政府が取り組みを約束している政策課題だ。
しかし、未だに北欧諸国でも男女のパリティは達成されていない。先進国では教育、労働参加はすでに遜色ないが、リーダーシップつまり政治、経済の支配層で女性は大きく劣後する。なので、ここが女性運動にとっては最後の壁、男尊女卑を維持したい、いや伝統を重んじる保守社会の最後の砦なのである。

最近では、男女平等という民主主義の達成として女性リーダーを増やせという議論よりは、むしろ女性リーダーをエコノミックケース(経済的メリット)として扱う傾向がある。(リーダーシップのみならず教育やヘルスケアといった他方面でも同様だ。)企業であれば女性取締役を増やしたら、企業の成績が良くなるといったハナシだ。ラディカルなフェミニズムに嫌悪感を持つ人は多い。世の中にミソジニー(女嫌い)が蔓延しているなか、女性運動も当然の権利としてハードに戦うより、女性活用の経済合理性を主張した方が、受け入れやすい。この女性役員の効能は、実務家や研究者の研究の対象となり、多くのリサーチが出され、最近ではその経済合理性が、機関投資家ではコンセンサスとなったようである。

受託者責任のある機関投資家がESGを考慮した投資をするときも、インベストメントケースでなければならない。
女性取締役が取締役会の機能を向上させ、企業価値にプラスとなれば、ジェンダーダイバーシティはエンゲージメントのアジェンダとなる。女性取締役は企業パフォーマンスに貢献するというマッキンゼーのWomen matterレポートやクレディスイスのCS3000シリーズのおかげで女性取締役の効能は、かなり機関投資家にも浸透した。

機関投資家にとって投資先企業の取締役会(ボード)が最大の関心事であり、有能な取締役会が長期的な株主価値の守護神であると信じている。ダイバーシティグループは、高IQ白人男性チームに勝ったというクラスルーム実験もあり、今や取締役会のダイバーシティは機関投資家のエンゲージメントのトップアジェンダとなっている。そのダイバーシティのなかでも「ジェンダー」の企業価値への貢献はもはや見紛うことがないと、女性取締役の選任を求める声が大きくなっている。

女性取締役を増やす方法として、ヨーロッパ大陸ではクオータ制が導入されている。上場企業の取締役会の一定の比率(3割〜4割)の女性取締役の選任を義務付けるというもの。ノルウェーの成功から他国も追随したのだが、実際にクオータ制の遵守状況は良好で女性取締役比率は一気に上昇した。

一方、企業の自主努力で伸ばすのは米英だが、英国にはダイバ省はあるしデイビスレポートによる行政からの後押しも、女性取締役が増えなければクオータの導入という脅しもある。機関投資家のエンゲージメントも貢献し目標の25%(FTSE100)を達成した。ちなみに、FTSE100に女性取締役ゼロ企業はない。米国は完全にメリットベースのみというスタンスだが、最近は機関投資家のエンゲージメントや議決権行使にも女性取締役が取り上げられている。トップ企業に対して女性がゼロというのはさすがにどうか、というものだが、実際には女性取締役が1人というのが大半なのが現実だ。ここ10年の女性の増加率をみていると、オーガニックグロース(自然体)ではパリティまでは40年以上かかるとも言われており、なんらかのプッシュが必要というのも、エンゲージメントの動機になっている。

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