RI Asia Tokyo 2019の辛口レビュー

RI Asia は、Responsible Investor(以下、RI)というウェブメディアが主催するアジアで開かれる国際カンファレンスで、2013年から東京で開催されている。昨年までは東証が会場を提供し無料で開催されていたが、今年からミッドタウンのカンファレンスホールに移って一部有料となった。にもかかわらず、RI Asia Tokyo 2019では参加者は前年より劇的に増え盛況だった。RIによれば、22ヵ国、286団体から649名が参加したとのこと。運用機関が1/4を占めもっとも多かったが、彼らはこの会議のスポンサーか参加料を払って参加している。東証時代には、無料でも運用機関はほとんどいなかったので、様変わりの様相を呈している。スポンサーブースも、ESGを扱うインデックスやデータプロバイダーくらいしかなかったのが、フランクリンテンプルトンやらレッグメイソンといったメインストリームの外資運用機関も参入して、賑やかになり、「欧米並み」になった感じだ。

ESG投資のカンファレンス初体験の方も多かったと思われるが、2日間キーノートスピーチやパネルディスカッションをいろいろ拝聴し、ランチやコーヒーブレークで空いている極小のハイテーブルを探したりして疲れたけど、テイクアウェイ(情報)はいったい何なのか、よくわからなかったという方々のために、批判的なカンファレンスレビューをメモっておこう。

全般的に
前述のように、東京でのカンファレンスが、欧米並みの外形となりオールドSRI村の住人としては感慨深いものがあった。
日本にはコアなESG投資家がいない。公的年金基金や大学、財団、宗教団体といったESGまっしぐらなアセットオーナーや、そういったAOから委託を受けたり、ESG投資信託でガンガンESGに走るESG専用運用機関といったチャンクが存在しない。それが、日本でESG投資が盛り上がらない当たり前の原因だった。

日本の公的年金の資金はGPIFに集中しており、いわば日本の年金資産は単一の資産配分で運用されているという中で、アベノミクスの下、そのGPIFがPRIに署名し、ESG投資に乗り出したのであるから、日本の公的年金は一気にESGに染まった、というのが日本のESG投資情景である。

GPIFはESG投資家としては薄すぎる
いつもの英語が流暢すぎる水野CIOではなく、高橋理事長がキーノートスピーチに登場した。初めて拝見したが、とても世界一の巨額資産を委託運用する(つまり世界の運用機関が傅く)GPIFのトップとは思えない素朴な語り口で、この高橋理事長のお人柄発見が、このカンファレンスの最大のテイクアウェイだろう。

GPIFがESG投資に向かう理由として、短期的な部分で投資に影響を及ぼすとしたところは、他の公的年金基金ではみられないESG投資の正当化のロジックだ。

公的年金基金は受託者責任を負うので、ESG投資を実践する理由は常に「Long-term Value Creation」でないといけないという決まり事がある。社会的な目的(Social causes)とか倫理的な目的(Ethical reason)はこと受託者責任のある機関投資家はESG投資の正当性には使えない。一方、年金基金は投資ホライゾンが長いので、長期的なパフォーマンスのためにESG要因を組み入れるというのが一般的な公的年金のESG投資方針である。財務要因よりはESG要因は長期的にみたとき投資に影響する。

高橋理事長は、GPIFが100年という超長期設計されている年金制度と整合的に資産運用されていると説明し、そのホライゾンからみれば、ESG要因はかなり手前のところで影響がでるものだと理解していると説明した。これは、上記のように、一般的な公的年金基金のESG投資の位置付けと真逆である。

実際に、GPIFのESG投資というのは、140兆円の運用資産の半分を株式投資に振り分ける中で、そのうち1.2兆円をESG関連テーマで作成したインデックスで運用するというものだった。業種別にESGスコアが平均以上の銘柄を機械的に選んでベンチマーク運用するというもので、これでアウトパフォームを目指すというよりは、「ESGで平均点を取る」という意識を企業にもってもらうと全体的にESGスコアが上がって、それは良いことらしい。市場全体のESGスコアが良くなるということが、何につながるのか、企業価値向上なのか市場の効率性向上なのか、GPIFのいうロジックは、投資理論的にはよくわからない。そもそもESGスコアは業種内相対評価なので、「全体的にESGスコアが上がる」というのは変なのである(偏差値が全体的に上がるというのが変なのと同じ)

結局、ESG投資家アセットオーナーのマントラ「Long-term Value Creation」をGPIFは唱えなかった。JSIFのESG投資残高ではGPIFは「ESGインテグレーション」に分類されているそうだ。(正しくはESGスクリーニングである)

Society 5.0 for SDGsの違和感
Society 5.0って、AIだのIoTやロボットだのテクノロジーで社会問題を解決しよっていう科学技術基本計画のキャッチコピーなんだけど、SDGsっていうと、国連の開発目標だから、最貧国にある人間性を否定するような貧困、奴隷労働、人身売買、搾取、内戦、飢餓のオーバーカムというイメージがあって、きわめてヒューマニティ(人間的)の回復という課題に対して、テクノロジーや機械で解決するという、海外が日本に対して抱いているイメージをそのまま体現している感じだ。アメリカのドラマに登場する世界を救う国際チームにいるステレオタイプな日本人は、大抵、会話する相手も見ないでガジェットばかり覗き込んで、なんでも計算している。(イタリア人は仕事もせず女を口説いているが)

日本人に必要なのは、女性や外国人を差別しない、多様性を受け入れる「寛容性」や、日本以外の国での暮らしへの「想像力」や、SDGsへの「共感性」がまず必要であり、排他性、非寛容、無関心は、テックでは変えられない。逆に、進みすぎる技術によって、人々の生活を不幸に変容させてしまう可能性もある。中国の監視社会や米国の選挙介入やら大衆は為政者でもない個人に操作され、いわゆる全員繋がっているが誰も制御できない状態(Web2.0)に漠然とした不安を感じている(民主主義の危機)といった方向に、筆者のアタマの中は進み、経団連スピーチから乖離してしまったのだった。
(注)筆者のアタマは、かなり米国かぶれである

さらに初っ端のパネルディスカッションは「SDGsはESGに結びつく?」では、AXAのMattが1人吠えていたが、MS&ADも証券業協会も日本人は「SDGsこれから勉強しまーす」みたいな話で終始してしまい、そもそも「先進的な取り組みを紹介する」という建付けになっていなかった。しかも、SDGs=ネクスト社会貢献、ESG投資はSRIみたいな論調が多かった。AXAのMattのために言っておくと、彼とモデレーターの対談にした方がよかったと思う。

いまだにDichotomyといっている伊藤邦雄教授
社会目的のために投資リターンを犠牲にしているといわれたのはSRIの時代で、PRIは投資リターンのためにESG要因も考慮すると明言している。伊藤先生のアタマでは、いまだにESG=社会貢献らしく、ROE追及しながら、ESG(社会貢献)もね、両方バランス良くなんて話をしている。伊藤先生は会計学で企業経営の観点からみているのだけど、機関投資家にとっては、ESG要因も入れて株式投資をするということなんで、ESGやってるからROE低くてもいいわ、なんていう話は毛頭ない。投資家にとって、財務だろうがESGだろうが、企業価値(株価)が上がらないとはじまらない。(もっというと投資のトータルリターンだが。)投資理論とESGとの整合性が担保されていないと、実弾を投げ込めない。アカデミクスへの期待は、投資理論とESGとの整合性をあきらかにしてもらいたいというものだ。この点についてキーノートで述べたのはダブリン大学のAndreas Hoepnerだ。ESGリスクをボラティリティで計測せず、ダウンサイドリスクとして計測することを提案していた。日本でもファイナンス分野の先生の参入を期待したいところだ。

ちなみに、その直後の、パネルディスカッション「ESGが投資リターンを向上させる根拠とは」は、タイトルはよかったが、中身はタイトルと関係なかった。

ブレークアウトセッション:グリーンボンド
ブレークアウトセッションは3つの分会に分かれてパネルディスカッションを行うもので、筆者はグリーンボンドのラインに参加した。自然資源では海洋資源が取り上げられたし、気候変動のセッションもあった。これは日本でのカンファレンスとしては野心的な試みと評価できる。通常は、日本のオーディエンスは環境問題にあまり興味を示さないからだ。ここではグリーンボンドのセッションの周辺情報を紹介する。

グリーンボンド最初のセッションのモデレーターは高田氏
高田氏は財務官僚でOECDに出向して、そこでグリーンファイナンスの上級政策分析官だった方で、現在は財務省に戻って(たぶん全然関係ないポジションについている)いるが、その時の縁でボランタリーにグリーンファイナンスにかかわっている人だ。当然ながら、OECDに出向するまでは、グリーンファイナンスに関わっていたわけではない。優秀な日本の官僚は、バックグラウンドがなくてもすぐさまキャッチアップする。財務省の広報紙に彼が寄稿していた「グリーンファインナンスの最前線」を是非読んでほしい。まあ、これもまたとても日本的な情景といえよう。

次のセッションのモデレーターは藤井先生
上智大学の藤井先生は環境金融の草分けで、ISO14030のグリーンボンド規格化に専門委員として関わっている唯一の日本人だ。EUでもガイドラインやらタクソノミーやらやっているが、ISO規格化でも英米中が入り乱れている。この経緯は藤井先生のブログに詳しい。
冒頭、「グリーンボンドはプロジェクトボンドなわけですが」とクギを指していた。

最後のセッションは日本人のみでグリーンボンドを発行した発行体が登場
日本郵船は、エコ船とか排ガス規制装置に利用するからグリーンボンドだ
学生支援機構が発行する財投債は学生支援だからソーシャルボンドだ
DBJは、DBJグリーン認証の不動産融資だからグリーンボンドだ
で、グリーンボンド認証に乗り出したR&Iがモデレーター
ということで、日本のグリーンボンド情景を代表するセッションとなっていて、先のセッションとの対比が印象的だ。

今のところグリーンボンド認証はコンサルやらESG調査会社が出している。何を認証しているかというと、グリーンボンドの調達資金を投入するグリーンプロジェクトの「グリーン」の部分だ。だから藤井先生はプロジェクトボンドだと宣言しているわけだけど、発行体のモチベーションとして「需要が強いので発行条件が有利になる」かもというのがあるといっている。が、そうすると債券の発行条件に影響するとあれば、債券市場になんの知見もエキスパティーズもない、要はプロス読めない(読まないで認証する)コンサルやらESG調査会社ではまずいだろう、と思うわけで、格付機関の登場となるわけだ。R&Iはグリーン認証を通じて、知見をため、最終的に使途目的グリーンのその企業の格付への影響を見極めたいと考えているらしい。さらに、プロスを読まない人々には気にならないかもしれないが、日本で発行される債券はプロジェクトボンド(レベニューボンド)ではない、という不都合もある。

最後に
グリーンボンドやグリーンファイナンスで問題になっているのは、「グリーンウォッシュ」だが、
「SDGsウォッシュ」
「ESGウォッシュ」
なんかも囁かれはじめるのではとちょっと思ってしまったのであった。

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