英国コーポレートガバナンス・コード改定

英国のコーポレートガバナンス・コードは、今のFRCが所管する体制になった2010年より2年ごとに改定されるており、現在は2016年バージョンである。2018年の改定については、政府がグリーンペーパーを出してさらなるコーポレートガバナンスの深化を求めており、これにともなって、2010年に今の形になってから初めての大幅なオーバーホールとなる。

スケジュールは
昨年12月にFRCが改定のドラフトを発表、今年の2月一杯までコメントを受け付けた。ここから、コメントと関係各所と揉んで最終的に夏に最終バージョンが発行となり、来年つまり2019年1月からの会計年度から適用となる。

まず書式の変更。現在は、18の主要原則(Main Principles)、27の副原則(Supporting Principles)、55の細則(Provisions)から成っているが、改定コードでは、17の主要原則、41の細則となり、副原則は廃止された。また、原則や細則の並べ直しや、ガイダンスへの移行などもあり、かなりすっきり感がある。

中身の変更は多岐に渡るが、変更の中心テーマは
1)従業員(Workforce)をはじめとした、顧客、サプライチェーンといったステークホルダーへの目配り
2)企業文化、ダイバーシティ(とりわけジェンダー)重視
3)報酬委員会と指名委員会の強化

1)のステークホルダー配慮の強化というのは、ここで出てくる?感があるかもしれないが、想像するに、
英国政府のGreen Paperが準備されていた頃は、ステークホルダー・モデルを標榜する国の多いEUに合わせる意識もあったのかもしれない。先般改定されたICGNのガバナンス原則でもステークホルダーへの目配りというフレーズが目につく。もちろん、今時シェアホルダーモデルを標榜する経済学者もステークホルダーを無視して良いなんていう人はいないので、やぶさかではないが、ここで強調されるのは
Companies Act 2016 のSection 172を巡る議論から出てきているようなのだ。
このSection 172とはなんぞやというと

172 Duty to promote the success of the company
A director of a company must act in the way he considers, in good faith, would be most likely to promote the success of the company for the benefit of its members as a whole, and in doing so have regard (amongst other matters) to –
(a) the likely consequence of any decision in the long term,
(b) the interests of the company’s employees,
(c) the need to foster the company’s business relationships with suppliers, customers and others,
(d) the impact of the company’s operations on the community and the environment,
(e) the desirability of the company maintaining a reputation for high standards of business conduct, and
(f) the need to act fairly as between members of the company.
以下省略
というようにステークホルダー経営がボードの責務として炸裂しているのだ。172の解釈についてはcontraversialという表現もあることから、議論がありそうだが、ボードはこの172への対応を報告する必要があるとすれば、レポーティングにESG情報開示が強化されそうな感じはする。

もうひとつは格差問題への対処だ。格差問題、民間企業の取締役会の課題に加わったということだろう。
メイ首相が、従業員代表をボードに加えるという提案をしたというニュースが流れたのを覚えていらっしゃるだろうか、あれが、これだったわけで、FRCのドラフトでは、従業員代表はマストではなく、もうすこし柔軟なものになっている。
実は90年代以前にもこの従業員代表は浮上したことがあるそうだ。そのときは財界側が潰したということなのだが、今回も
従業員代表をボードに加える
従業員によるアドバイザリーグループをつくる
社外取締役に従業員を代表する役割をアサインする
などの方法で、という表現になっている。
しかし、従業員はemployeesではなくworkforceという表現となっている。これは正社員だけに限定されず、職場にいる人パートタイムや派遣、コントラクターなども含まれるより広いカバレッジと理解されている

ということで、英国CGコード改定は、英国政府からの提案が反映しているということでした。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする