パンデミック(新型コロナウイルス)に近かったESG課題

パンデミック(感染症蔓延)という人類が長らく戦ってきた社会問題がESG課題の中に含まれていたか、について思い出している。前回は、パンデミックがシステミック・リスクとしてかろうじて認識されていたという話だった。もうひとつ、近かったリスクとして、抗生剤乱用問題がある。

Factory FarmingとかIntensive Livestock ProductionでYutube検索すると
工場で生産される、身動きのとれないケージで出荷を待つ牛や豚、ぎゅうぎゅう詰めの鶏などの悲惨な動画がいくつも上がってくる。
これらは、Animal Welfare(動物愛護)の観点から、グロい工場方式畜産を告発している。

投資の世界で、Factory FarmingをESG課題として活動しているのが、FAIRRだ。
FAIRR(Farm Animal Investment Risk and Return)は、2015年コラーキャピタルのCEOのJeremy Collerが始めた投資家のイニシアチブで、Food(食品)セクター、中でもFactory FarmingあるいはAnimal Protein ProductionセクターのESGリスクを取り上げる。

Animal Protein Productionとは、畜産、酪農、養殖漁業で、2018年より公表しているColler FAIRR Protein Producer Indexを構成するESGリスクは
1. Greenhouse gas emissions (温暖化ガス排出)
2. Deforestation and biodiversity loss(森林破壊と生物多様性喪失)
3. Water scarcity and use(水資源と水利用)
4. Antibiotics(抗生物質)
5. Waste and pollution(廃棄物と公害)
6. Working conditions(労働環境)
7. Food safety(食品安全性)
8. Animal welfare(動物愛護)
9. Sustainable proteins(持続可能なタンパク源)

4. Antibiotics(抗生物質)のリスクとは
畜産や養殖漁業では、混雑した飼育環境での感染症を防止のため、抗生物質を多用しているといわれている。抗生剤はヒト用と共有しているものも多く、抗生物質の乱用によって抗生物質に耐性のある細菌を生み出すといわれている。

FAIRRを通じてESG投資家達は、畜産や養殖漁業において、抗生剤の使用を控えることを求めているが、サプライチェーンの最終地であるマクドナルドなど外食産業に対して、抗生剤使用を削減した肉魚の仕入れをするようにエンゲージメントを展開してきた。これについては、多くのメジャーな企業が、抗生剤使用の削減を約束している。

この他にも、適切に処理されず廃棄された抗生剤が、ゴミ置き場で耐性細菌を生み出すかもしれず、ゴミ処理者が感染するリスクも指摘されている。こちらはESG課題としては廃棄物処理(Waste Management)の分野だ。

多くの細菌が耐性を得てしまうと、人類が得た細菌感染に対する抗生剤という治療薬(薬というよりこれも細菌なのだが)を失ってしまうかもしれない。感染症で多くの人が命を落とす時代に戻ってしまうかもしれないというのだ。実際に、街の耳鼻科でも、耐性細菌の感染はまま発見されている。細菌は、ウイルスほど感染力は強くないが、じわりじわりと薬の効かない感染症が増えていくという点では、スローパンデミックのようだ。

しかし、ESG投資家が発見していた「抗生物質の使いすぎ問題」は、新型コロナウイルスによるパンデミックというシステミック・リスクを引き起こした直接的な原因ではなかった。

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