日産とコーポレートガバナンス

日産のゴーン社長の逮捕は、メディアではワイドショー扱いの事件となっている。メディアに流れている容疑は、有価証券報告書の虚偽記載。ゴーン社長の高給は有名だが、実は有報上(5年で約50億円)の2倍くらい(5年で約100億円)だったらしい。他にも容疑ではないようだが、世界各地の豪邸自宅やトロフィー妻とのセレブな生活のコストを会社負担にしていたのではないかなどワイドショーが注目しそうな、西川社長のいうところの「私物化」事案らしきものもメディアを賑わしている。

しかし、それが東京地検特捜部にプライベートジェットに踏み込まれ、ガチ逮捕される刑事事件なのか?という違和感から、冤罪説や陰謀説、今後の展開予想までSNSで発言したい人々の格好のネタとなっている。

そこに参戦するほど当ブログにプレゼンスがあるわけではないが、日産のコーポレートガバナンスについては中途半端な議論が多いように思うので、グローバルESGウォッチャーとしては、ガバナンスの問題として整理をしておこうと思う。

1.有価証券報告書虚偽記載は投資家保護の観点から大罪
投資家を欺くことは、この資本主義社会において株式会社の最大の大罪なのである。なぜかというと、投資家=市民(とか国民)だから。ちょっと前は「資本家」とか「財閥」とかが株式を所有していたが、今では「年金」という機関投資家が株主、つまり企業の所有者だ。年金は公務員やサラリーマンの後払い給料で、老後の生活のため、現役時代に労使でコツコツ積んでいるが、その資金プールの運用収益も年金給付の一部として期待されている。そして、その運用収益を主に株式投資から得ている。したがって、株式会社が株主価値最大化すること、つまり株式投資の投資収益がきちんとやってくることが、年金の給付を維持していく上で不可欠なのである。このように、世界の投資家の正体は「年金」で、年金の資産の所有者は年金加入者と受給者である個々の市民なのだ。我々庶民は、「年金」を通じて、当然日産の株式を保有していて、それに将来の年金給付を託している。有価証券報告書は投資家向け法定開示であり、投資家に株式会社の正しい情報を伝えるものだ。だから、虚偽記載によって国民株主を欺くような行為は許されない。
まあ、細かいところは置いておいてざっくり言うとこういうことで、資本市場の規制はすべからく「投資家保護」のために行われているのである。

2.私利私欲追求CEOは、米国ではCEOのあるあるとして認識されている
なぜなら、どうも株式会社の経営者は株主価値最大化(投資家からみればトータルリターン)はせずに、己の利益最大化に走っているようで、豪華すぎる本社ビルや、積年の夢を果たすための無謀な投資、報酬最大化のための業績前倒し、プライベートジェットや豪華別荘など会社のカネで贅沢三昧、辞めたときにはゴールデンパラシュート、まあ、あるわあるわ、あの手この手の経営者のやりたい放題、それなりの仕組みを考えないと、CEOはインエビタブリーに自己利益追求に走る(経済学的にはエージェンシー問題という)に違いない。というのが、コーポレートガバナンスが要請される前提なのだが、
ゴーンCEOも、まさに米国のガバナンスの教科書に書いてある典型的な私利私欲追求CEOだったのか?ゴーン氏はブラジル人でアングロサクソン経営者ではなさそうなのだが。ちなみに日本人CEOはなぜだかそれほど暴走しないと思われている。

3.投資家(株主)が求めるガバナンスの仕組みは1)独立取締役会、2)株価連動報酬3)少数株主の権利保護
「年金」という機関投資家が株主として求めるガバナンスの仕組みは、社外取締役が過半数の独立取締役会による取り締まり(モニタリング)、長期株価連動報酬を主軸とした経営者報酬による正しいインセンティブ付け(額じゃないのよ)、そして、「年金」はメジャーな少数株主なので、少数株主が割りをくうということのないよう求めていかなければならない。(スチュワードシップ責任)

そして、日産にはどれもない。
日興リサーチセンターでは時価総額上位100社のガバナンスについて、グローバル基準と日本基準でスコアを付けているが、日産はグローバル基準で90位、日本基準で94位と非常に低い。とりわけ報酬に関してはグローバル基準も日本基準もスコアはゼロである。取締役会には報酬委員会もない。日本のコーポレートガバナンス・コードが策定されて以来、本音はともかくとしてガバナンスを意識する企業は増えているが、日産は、ほとんど意識していないかやる気のない企業グループに属している。ゴーンCEOの私利私欲追求を防ぐ仕組みは全くなかった、といえよう。西川社長がガバナンスを強化したいといっているのもこの点だろう。

しかし、日産のガバナンスにはもっと根本的な問題があると考える。
ゴーンCEOがルノーのトップも兼務した段階で、ルノーの株主価値最大化がアサイメントとなり、正々堂々と日産のリソースを使って、ルノーの株主価値最大化してきたわけだ。そもそもゴーンCEOはこっそり私利私欲を追求する前に、表向きにも日産の少数株主に割りを喰わせる使命があったわけで、機関投資家が少数株主として日産の株式を保有するのは合理的といえない。そりゃ、ルノー株で保有するのが正しい。ゴーンCEOも日産では私物化したけどルノーでは同じことをやっていないだろう。なんたってルノーの筆頭株主はフランス政府なのだ。ステイシズム(国家主義)で有名な国で政府に楯突くなんて危険すぎる。

インデックス運用は機械的に日産を保有しているのだろうが、スチュワードシップ上こういった株主価値最大化テーゼが最初からない企業の株式保有が正当化できるのか、議論の余地があると考える。これは、日産だけでなく、日本に多くある上場子会社にある問題だ。しかし、不思議なことに「少数株主の権利」に相当うるさいはずの外人も日産や日本に多くある上場子会社を結構保有している。世の中はソフトバンクという巨大子会社IPOのCMが流れている。

今のところ、わかっていて保有していたからか、日産の少数株主からの怒りはあまり報道されていない。運用を委託している「年金」からの文句も聞かれない。まあ、誰も文句言ってないのでゴーンCEOの悪事がイマイチピンとこないということもある。一応、この記事は「年金」の受益者である一般市民からの文句としておこう。日産や上場子会社は保有しないか、換算して親会社株で持つなどの対応をした方がよいと考える。

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