世銀のパンデミック債はESG投資か (その1)

パンデミック緊急ファシリティ(Pandemic Emergency Financing Facility、PEF)
2014、2015年にギニアやリベリア、シエラレオネでアウトブレイクしたエボラ出血熱のとき、国際支援に苦心したことから2017年に作られたパンデミック時に途上国や国際機関に資金支援をするスキームである。キャッシュ枠と保険枠があり、キャッシュ枠はドイツが、保険枠は日本とドイツがスポンサーである。2018年のコンゴ民主共和国(DRC)でおきたエボラ出血熱ではキャッシュ枠が発動、初めてUSD12mio(13億円)を拠出した。このときは、保険枠は発動しなかった。

世銀のパンデミック債
保険枠の保険料は日本とドイツが負担しているが、保険自体はCAT債にのせて投資家に販売されている。CAT債の購入者が、保険料をクーポンとして受け取り、イザ保険枠の拠出となったときは、CAT債の元本が保険金に充てられる。あの世銀(IBRD)が出したCAT債は、世銀の資金支援のあたらしいカタチとして仙台のG20財務大臣会議の成果でもあった。

CAT債の概要
発行体:IBRD(AAA/Aaa)
発行日:7/7/2017
償還日:7/15/2020(3年+)
発行金額:Class A USD225mio, Class B:USD95mio
クーポン:Class A 6mL+650, Class B 6mL+1,110
トリガー(パンデミックと認定される条件):パラメトリック

発行額は合わせてUSD320mio(今の為替で340億円くらい)と世銀債としては小規模な私募債で、シニア(Class A)とメザニン(Class B)の2トランシェからなり、世銀のプレスリリースによると、この世銀初のパンデミック債には200%の応募があり、大半はCATボンド専業のファンドが買ったが、年金基金や大学基金、また彼らの資金を運用するアセットマネージャーも購入したという。

シニア(Class A)は、カバーするパンデミックがインフルエンザとコロナウイルスで少なく、パンデミックとなっても元本は最大16.67%(1/6)しか毀損しない。
メザニン(Class B)は、フィロウイルス(エボラなど)、コロナウイルス、ラッサ熱、リフトバレー熱、クリミアーコンゴ出血熱と多くの感染症をカバーし、パンデミックとなったときは元本は100%毀損する。

このパンデミックリスクを引き受ける代わりに、ハイクーポンが設定されている。発行体IBRDでこのクーポンというのもなかなか見られない取り合わせだ。(IBRDの発行コストは超々低いので、仕組債つくってもこんなハイクーポンはひねり出せない)

新型コロナウイルスでPEF保険枠発動
保険枠の発動は、すなわちパンデミック債のトリガーが引かれると、保険枠が発動する。パンデミック債券は償還となり、保険の支払い、すなわち支援対象の途上国への資金援助額分、元本が毀損した状態で償還される。最大支払いとなった場合は、シニアは5/6で償還され、メザニンは全損となる。

何をもってパンデミックと認定するかは、Terms & Conditionに決められている。世銀によると、
パンデミックトリガーはパラメトリックに決められており、WHOのデータを基に、死者の数、12週間経過、一定以上の感染率が揃うとトリガーが引かれる。

コロナウイルス対象のトリガーの詳細
アウトブレイクのサイズが、累積感染者数が250人以上、各国の死者数が250以上、アウトブレイクスタートから12週間が経過、
感染拡大のスピードが、感染者数/累積感染者数>20%
20人以上の死者が出た国が1カ国以上
感染者数グロースレート(増加の加速度)がプラス(AIR Worldwide社が計算する)

最後のグロースレートについて、3/31にプラスとなり、トリガーの発動が確認された。AIR Worldwide社は、WHOのデータを基に計算し、確認されたのは4/13でレポートデートは4/16だそうだ。ファシリティの保険枠の最大USD195.84mio(209億円)が拠出され、最貧国中対象となる64カ国にUSD1mio~15mio(1億円〜16億円)割当られる。またWHOなどの国際機関やNGOも配布対象となっている。

支援額をみて、金額が思ったより小さいなと思われた方はいるだろうか。アベノマスクでも466億円、10万円給付金で13兆円だし。とはいえ、国際開発協会(IDA)適格の最貧国が対象で、Per Capita GNIがUSD1,175(13万円)を超えていない国だそうだから、この金額で正しいのかもしれない。一方で、全額で200億円くらいなら、日本がアベノマスクの半分の予算で支援してあげれば済むじゃないか、ともいえそうだ。それに、国際支援はこれだけではないのかもしれないし、このあたりは、国際援助の相場がわからないので、なんとも評価できない。国際支援のプロに聞いてみたい。

ちなみに、ここまでに日本とドイツが負担し、CAT債ホルダーにクーポンとして支払われたプレミアム(保険料)の総計は、USD107.2mio、CAT債ホルダーが負担するのはUSD195.84mioということで、スポンサー国は都合USD88.64mio節約できたことになる? まあ、単純に引くのは、ちょっと待ってね、この議論にはTime Valueが加味されていないし、ストラクチャリングに関係するかなり多くのカウンターパートの手数料もある。まあ、そこまで手間暇かけて、これかよっ感がかなり強いとだけは言っておこう。

ここまでが、世銀のパンデミック緊急ファシリティについて。
はあ、本題まで行き着かなかった。To be continued.

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