気候変動関連のメモ(2020年1月)

ブログを更新できない間に第2次気候変動ブーム(勝手なネーミングだけど)が到来したようだ。
日本のメディアを追っかけても何かモヤモヤとよくわからない感は強いと思うので、ワイドーショーコメンテーターのような解説を少ししておこうと思う。

スウェーデンの16歳の少女、グレタ・トゥーンベリってなんで突然有名になったの?
気候変動業界の拠り所となっているパリ合意は、いよいよ2020年から約束期間がスタートする予定だが、肝心のパリ合意6条の実施要項が決まっていない。6条とは京都メカニズムのような、直接CO2削減ではない、つまり「実質」ゼロの「実質」部分のカウント方法を指す。いつも正しい欧州諸国は直接CO2排出をきっちり削減していく王道を主張しており、6条のいわゆる柔軟措置、森林で吸収とか炭素クレジット貯金とか、向こうの国で減らした分もカウントするとか、そういうことには後ろ向きである。一方、パリ合意から削減に組み入れられた新興国や途上国、化石燃料周りで食っている資源国にとっては、間接的な削減に関心がある。まあどこの国も自国にフェイバーなルールブックを志向するのは当然のことだ。

さらに、パリ合意ではできれば1.5℃を目指すと書かれていたが、どうやら最近、2100年時点の平均気温上昇という最終目標は2℃から1.5℃へとハードルがあがったようで、1.5℃ディフェクトスタンダード化がすすんでいる。そうなると現状の各国の2030年目標じゃ全然足りな〜いということで、目標引き上げ要請も出さないといけない。今でもNDC(各国の自主目標)全部達成しても全体目標の2050年のピークアウトもおぼつかないらしい(まあ理由は明白ではあるが→世界の温室効果ガス排出国別円グラフを眺めてみよう)

というわけで、国連としては、2020年まで最後のCOPである、2019年のCOP25でなんとしても成果を出したい。そこで、COP25開催直前にNYで気候変動行動サミットを開いた。国連は過去にも2007年、2014年と要所に気候変動サミットを開催しているが、今回は「行動(アクション)」の文字を入れて、COP25の合意に強い期待を示した。

この盛り上げイベントである気候変動行動サミットの目玉として登場し、大いに気合をいれてくれたのが若き気候変動アクティビストのグレタだ。他にも気候変動アクティビストは多くいるが、グレタが素晴らしいのはピュアなTrue Believerであるところだ。16歳の少女は、真剣に自分達が生きる時代の温暖化Turmoilを恐れている。ミレニアル世代は、サステナビリティに関心が高く、クライアントとしてESG投資のキードライバーであると考えられている。国連はミレニアルどころかもっと若いゼット世代に気候変動アクティビズムの担い手として着目したようだ。ティーンエイジャーのアクティビズムについては、演出したオトナがいるだろうとか、まあいろいろ批判はあるだろうけど、グレタのインパクトは国連も驚くほどだったんじゃないかな。大成功。日本でも折しも台風や災害も多くみんな温暖化の影響ではないかと、ヒシヒシ感じていたときだったから、気候変動の切迫感がスンナリ受け入れられたのかもしれない。(第1次気候変動ブームの2007年も結構暑い夏だったよね)

ちょっと注意しておくべき点は、子ども(マイナー)の主張は、大人のそれとは違うということだ。子どもの人権とは、健やかに生きる権利で大人にそれを求めることができる。She has a right to ask to make her feel better.なんたって子どもは護られなければならない。このあたりは、民主主義では基本了解済事項なので、これを踏まえて大人は発言した方がいい。グレタが「ちゃんとやってよ」と大人にいうのは、子どもの人権上しごく当然なことなわけで、そもそも最初からグレタ批判に勝ち目はない。なので、この点からすると、トランプ大統領の茶化しより、進次郎大臣の「大人を批判してもはじまらない」コメントの方が痛いと思う。

COP25の結果に国連総長はがっかり
大人気のグレタはヨットでCOP25にも駆けつけ、睨みをきかせたし、環境大臣が人気の高い小泉進次郎氏ということもあって日本のメディアもかつてないほどCOPのカバーをした。メディアが、いつもの通りちょっと残念なのは、COP25(UNFCCCという条約下の第25回締約国会議)という正式な国際会議と、その開催期間中に合わせて様々な団体が開くサイドイベントが区別されていないことだ。前者は気候変動政策が決まる国際政治の場であり、後者は気候変動アドボカシーである。

COP25の一番の目標は、2020年から実施されるパリ合意のルールブックの合意だ。何やら、進次郎環境大臣が石炭火力発電からの撤退を表明することが期待されており、それを表明しなかったことや、それに関してサイドイベントで「化石賞」が贈られたことが、日本ではやたら報道されていたが、そこじゃないんだよな。

テレビ朝日の報道ステーションのコメンテーターが、「進次郎大臣は、ここはがんばって、石炭火力撤退についてもっと踏み込んだ発言をすべきだった」といっていたが、そもそも、日本の温暖化政策やエネルギーミックスは閣議決定されている安倍内閣の政策なので、条約下の国際会議の場で日本政府をrepresentしている環境大臣が、勝手に踏み込んで政策変更を約束するのは違うだろう。それより、この石炭火力をベース電源とするエネルギー計画の妥当性、日本のNDC(自主削減目標)との整合性について、日本のおかれている状況も踏まえて語ってもよかったんじゃないかしら。説明できれば素晴らしいと思うし、進次郎大臣の脱石炭の個人的見解を強調するよりもベターではないかと。

2030年時点のベース電源に石炭火力を据えているくらいだから、日本は「化石賞」の常連だ。進次郎大臣が原因ではないよ。これはサイドイベントでNPO/NGOがやっている気候変動アドボカシーだから、フォーマルなCOP25の話し合いとは関係ないことなのね。先進国では日本とドイツが石炭火力の比率が高い。経済成長が著しいアジア諸国、それに中国も石炭発電比率を下げようと頑張っているが、それでも石炭がベース電源であることに変わりはない。昨年のCOP24はポーランドのカトヴィツェで開催されたが、ここは石炭の街で、石炭採掘企業がスポンサーになっていた。気候変動アドボカシーでは脱石炭が脱化石燃料のプロキシとして支持されているけど、パリ合意に脱石炭というのはない。

肝心のCOP25は、グレタさんの眼差しも怖かったのか、2日間延長して、なんとか合意を目指したが、合意には至らず、結局、会議ステートメントを出して終了した。この状況をCNNなど海外メディアはCompromisedと表現した。これは婉曲的に「失敗」という意味なんだけど、進次郎大臣は、「日本が(僕が)個別交渉でリーダーシップを発揮し、議長国のチリから感謝された」と胸を張っていた。うーん、失敗にリーダーシップを発揮されてもなあ。英語にしたら痛い感がすぐにわかるんだけど。この状況に、グレーテス国連事務総長は「がっかりだ」と失望を隠さなかった。

とはいえ、2020年はスタートした。COPの残された課題は
①「パリ合意6条(炭素吸収や炭素クレジットの枠組)の実施要項
②1.5℃対応でNDC見直し
③Green Climate Fund(途上国支援資金)

③はパリ合意の根幹のうちの1つだけど、日本で報じられることはほとんどない。途上国は当然これに最も興味がある。Green Climate Fundの一番の資金提供予定者だった米国は正式に脱退を表明し、手続きに入ると宣言した。ちなみに、2021年3月新大統領の就任の翌日が脱退日となっている。なので、万が一トランプ大統領が再選されなかった場合は、急遽脱退取り止めとなる可能性も残されている。

次回は、機関投資家はどう動いているのか、について

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