SDGsについて話してくれという依頼にはやんわり断っている。
「たぶん10分くらいで終わりますが」
嘘だ。SDGsには17のゴール(大項目)があり、それぞれのゴールにターゲット(小項目)があって全部で169もある。全部解説しようとしたらもちろん1時間くらいでは足りない。1貧困、2飢餓、3医療、4教育、5女性…人類が克服すべき課題が網羅されている。貧困と飢餓が別立てになっているのは、開発学的には興味深い点かもしれない。開発のエキスパートでも、この全ゴールに明るい人はそういるとは思えないくらいSDGsは総花的だ。それぞれのゴールに対応する国連機関や政府機関、NPO/NGOがあるくらいだから、各ゴールごとに専門家に登壇してもらう必要がある。そして、最後にこれからは企業もSDGsを理解している必要があります、とか、どの番号が企業の事業に関係があるか考えてみましょうとか言えば、SDGsセミナーは終了するだろう。
しかし。ESG投資はあくまでも投資だ。投資家の立場から、SDGsの何に投資できるのか?つまり何がインベスタブルなのか?ということに答えないといけないと思うわけで、
SDGsのどこが食べられるのか?
株式投資で考えれば、セクター選択、銘柄選択にどう反映させるのか?
投資先企業の企業経営から言えば何がマテリアル(企業価値に関係する)なのか?
という問いかけには、What to say…
今のところ、「CSV」と小さく呟くぐらいしかなく、これが10分の理由だ。
なので、SDGsテーマの本稿はCSVについて簡単な説明でお茶を濁すことにしよう。
CSV(Creating Shared Value)とは、ハーバードビジネススクールの大御所マイケル・ポーター教授とハーバードケネディスクールのマーク・クレマー教授が提唱されている「競争優位とCSRをリンクさせる」あるいは「企業の社会における役割から資本主義を再定義する」コンセプトで、ポーター先生の「選択と集中」の次の経営戦略なのである。
といっても具体的なイメージがわかないかもしれない。CSVはより具体的なケースの方がわかりやすい。トイレタリー企業が途上国に進出して石鹸など衛生用品を売ろうとする。しかし、その国ではそもそも手を洗うという習慣がない、そのため感染症が多く乳児死亡率も高いなどの状況があるとする。ここで、企業が衛生教育をやって手を洗う習慣を広めれば、石鹸も売れて、同時にこの国の衛生レベルも改善し、感染症なども改善し、乳児死亡率なども減少が期待できるという社会価値を生む。
コカ・コーラ社がブラジルに進出したとき、販売代理店になる会社があまりなく、生産しても全国で販売できないという問題があった。コーラ社は起業支援をして、販売代理店ビジネスを育ててしまったという話。つまり、ブラジルのローカルビジネスも育ち、コーラも国中で販売できるようになったなど。
企業のトップラインにもなり、かつ社会やローカル経済の発展にもなる、つまり企業の営利追求と社会価値向上にアライメント(同じ方向)がないと、これだけ大きくなったグローバル企業はさらなる成長は難しいよということだ。ジンベイザメが金魚鉢にいるイメージをしてもらえればいい、ジンベイザメが大きくなるためには金魚鉢自体を大きくしたり、水質やジンベイザメのご飯が育つように金魚鉢の環境もよくする必要があるってことだ。
SDGsを意識したCSVを展開しているのはネスレが有名だ。日本語のレポートもある。
ネスレ 共通価値の創造
CSVの成功を測るには、企業のビジネスの成功と、社会の改善度合いあるいはローカル経済の付加価値の増加の両面から確認することができる。なんとなく三方良しを主張するより、説得的といえよう。
企業は現在のビジネスのCSVを考えてみるのもいいし、これからスタートするビジネス戦略に当てはめてみてもいいだろう。
ただし、CSVはケースごとでは全くメイクセンスだが、SDGsのようなマクロ課題最終解決のパラダイムを提供するわけではない。もちろん全部の社会問題がCSVで解決できるわけではない。オルタナティブ(公的な国際支援など)をクラウディング・アウトするかもしれないし、地球の反対側でなにやら副産物が生まれているかもしれない。なので、CSVで必要十分というわけではないが、今のところCSVくらいしか企業価値とSDGsをリンクを整合的に説明できない。
ということで、SDGsについては、あのバッジ以外には、企業価値との関係が語れるのはCSVというのが現在のSDGsアップデートでした。