密林炎上

通販大手のアマゾンではなく、地球最大の密林アマゾンで森火事が多発しているニュースがメディアを賑わしている。
えーっと、火災ってことは森林破壊か、その場合はESGのどの項目だったっけとか、SDGsだと何番だっけチェック、ウチには関係なさそうだな、などとアタマを巡らした人は、典型的には日本企業のESGかCSRの担当者だろう
機関投資家も、アマゾン関連のイニシアチブはどこかな、とググったり、早速PRIが用意した”Institutional Investor Statement on Amazon forest fires”に、とりあえず手をあげておくか、というのは、極めてサラリーマン的な対応で、スチュワードシップ的でない。

んじゃ、コアのESG投資家は、どーなのよ、といえば、
「やっとニュースになって、世間の知るところとなったのはよかった」などと、つぶやいているかもしれない。あるいは、「なにを今更」とシニカルになっているかもしれない。
気候変動や環境保護、つまりサステナビリティの専門家であれば、アマゾンのことを考えない者はいない。現在の気候変動の国際的な枠組は1992年のリオデジャネイロで開催された地球サミットを起点としており、20年後の2012年にもSustainable Developmentに関する会議、リオ+20が再び開催されSustainable Development、持続的開発なるものを確認している。ということでアマゾンを擁するブラジルこそ気候変動とSustainable Developmentの聖地なのだ。(SDGsを語るときにはこれくらい知ってないと。2015年に突然できたわけじゃないのよ、SDには長い歴史があるのだよ)

アマゾンの問題は、”Sustainable Development”が本質的に可能なのかを突きつけているという気がする。Sustainable Developmentとは、環境保護(あるいは温暖化防止)と経済成長を両立させるということだ。しかし、アマゾンの現状は環境と経済がトレードオフになっているように思える。トレードオフの関係しか成り立たないのであれば、温暖化防止は誰かの経済成長(生活水準の向上)を犠牲にしなければ成り立たないということになって、Sustainable Developmentは達成できない、これは大変不都合だ。

浅薄な議論は多くみかけるが、上記の不都合に対する議論は、英語でいうとcomplicatedで難しい。アカデミックでいうと学際的(Interdisciplinary)なアプローチだろうし、経済学でいえばトリプルボトムラインをDSGMで解くみたいな感じ。まあ、一般均衡でなくても、経営学的アプローチでCSV的なSustainable Developmentのビジネス・ケースを示すことでも、慰めにはなるかもしれない。残念ながら、この問題を議論するには、筆者の情報収集能力も理解する知力も高くないので、当ブログのキャッチ、クール(明快)に説明することはあきらめて、ここでは、密林炎上と企業や機関投資家の関わりについて筆者が知っていることとその議論に対する評価を書き留めておく。

マクロン大統領は、
アマゾンの熱帯雨林はパリ合意を脅かす国際問題だとして、G7の議題にすべきだとしている。アマゾンの密林は地球上酸素の2割を光合成で放出しているらしい。地球の肺を燃やしてはけない。なるほど。パリ合意のガーディアンだしこれくらいは。今月パリであったPRIの年次総会にもビデオで出演して、アマゾン火災にも対応すると力を込めていた。

これに対して、ブラジルのトランプともいわれる、ボルソナロ大統領は、マクロン大統領の支援申出も政治的なものだと断った。ブラジルの国土のことをブラジルが入っていない先進国リーグのG7で話し合うって、植民地時代の発想だろ。なるほど。考えてもみろアマゾンは欧州全域より大きいんだぞ。火災の対応といっても、裏山とはわけが違う。物理的に可能かどうか。街中の教会の火事の消火もできないくせに。
なんか上手いなあ、雄弁。とはいえ、国際的な批判に配慮してか、一応ブラジル軍も出動させた。しかし、大統領も言っているように、対処するにはアマゾンは大きすぎる。自然鎮火を待つしかないのが現状のようだ。まあ、これ以上周辺農家に火付けをやらせないようにするのは効果がありそうだけど。

PRIの緊急ステートメントは、
機関投資家は投資先企業に対してサプライチェーンに森林伐採が紛れ込んでないかしっかりチェックするよう求める、というものだ。ま、簡単だな。森林伐採反対。森林伐採はいけません、やめましょう。

という風にいかないのは、アマゾンで火をつけているのは地場の農民で、その多くは生産性もあまり高くなく貧しいからだ。いけませんって言ったって、向こうは食うために必死なんだし、やり得とあらば火を付ける。アマゾンの価値の多くは経済外部性があるので、フリーライダーを生む。まあ、不買運動のごとく、森林伐採している企業からソーシングするな〜とかそんな農家から仕入れているブラジルの食品会社はけしからん、ということで、北風政策で向かっても、あまり効果はなさそうだし、各社サプライチェーンを清く正しく美しくしても、アマゾン周辺の農家の状況は酷いままだし、彼らはそもそもサプライチェーンに乗っていない。

気候変動に対応するための土地利用(議論?)
をを考えていかなければならない。森林を伐採して、(メタンガスのゲップをしまくる)牛の放牧や(バイオマスとして薄すぎる)ダイス畑にするなんて、サステナビリティに逆行すること甚だしい。パリのPRI年次総会でも、「牛やダイズにさようなら」メッセージを見かけた。英国に、牛畜産はサステナビリティに反するとして、食堂からビーフメニューをやめた大学がある。

しかし、英国の食卓からステーキを除いたら何が残るというのだろう。(フレンチなら問題なさそうだけど)ダイズでいえば、ブラジルのダイズ生産は2000年代に増え、今では米国を抜いているのだ(OMG)。不毛の地だったセラード(アマゾンにある酸性土の灌木草原地帯)でダイズを生産が拡大したことからだ。このブラジルの奇跡に一役買ったのは、なんといっても圧倒的なダイズ食文化を持つ日本だ(JICAでググってみるべし)。そして、ブラジルのダイズに頼っているのは食糧輸入大国となった中国だ。牛も飼うなダイズも作るなと簡単に言ってはいけない。

上でも書いたが、SDGs
SD、Sustainable Developmentには、開発と森林保護をトレードオフにしないという意味がこめられている。
耕作地や放牧地拡大のために実際に火を付けて回っていると考えられているアマゾン周辺の農家は、あまり生産性が高いとは言い難いレベルで、だから地面を広げてなんとかしようという風になってアマゾンの密林に侵食していくわけで、この人達の農業の生産性を上げることが、森林伐採をカーブ(緩やかにする)することにつながる。あるいは、森林保護に何らかの経済的なリワードがあるといったやり方で、住民の生活と森林保護を両立を考えていくのがSustainable Developmentなのである。(CSVの出番だよ)

開発論の分野では、住民の暮らし向きと自然保護の両立がテーマとなっている。日本の「里山」なんかも共生モデルとして注目されたこともある。ハードコアでいえば、我が母校が生んだ女性初のノーベル経済学賞を受賞したエレノア・オストロム先生は、共有資源(公共財)は、コミュニティが自主管理するとき最も効率的になることを、ゲーム理論で示した・・・らしい。しかし、アマゾンは里山モデルやオストロム先生のモデルを適用するには、やや巨大すぎるかもしれない。なんといってもブラジルの国土の半分を占め、欧州全域より大きいのだ。ただ、オストロム先生の業績は、Sustainable Developmentの可能性を示してくれたことだ。希望はある。ナロウかもしれないが道はあるということだ。プライシングできれば、アマゾン保護の機会費用をパリ合意諸国で負担するという方法がありそうだが、(罰則なし自主目標の)パリ合意より難しそうな気がする。

アマゾンの密林破壊
既にかなり深刻な状況のようだ。これは昨年のサンフランシスコのPRI年次総会であったセッションにブラジルのアマゾン研究の大学の先生が、17%が失われており、25%に達すると、ティッピング・ポイントを越え、生態系サイクルや気象などが変化してしまう可能性があるといっていた。ここでは、やはり森林が、フラットな牧草地や耕作地になることで、乾燥しやすくなり、温暖化に拍車がかかる、みたいな議論で、放牧やダイズ畑への開発を懸念していた。もちろん生態系も変化するだろう。アマゾンには古来の生活を守っている自給自足の森の住民もいる。彼らの生活にも影響が出そうだ。

過去の密林破壊ケース
トヨタへのエンゲージメントに初めて成功したというボストンコモンAMの当時のエンゲージメントのテーマは、ブラジル産銑鉄由来の鋼材の使用についてだった。今もそうかもしれないが、ブラジルの銑鉄(Pig Iron)生産は、木炭を使っており、この木炭はアマゾンの違法伐採と児童労働を含む奴隷的労働で生産されていた。銑鉄は鋼板となり、自動車のボディになっている。そこから、大手自動車メーカーに、サプライチェーンの社会問題として、ブラジルの銑鉄の問題を指摘したのである。古いガーディアンの記事によればGMやFord、BMW、日産などの名前も、ブラジルのこの不快で酷い木炭生産に関係があるオートメーカーとして指摘されている。サプライチェーンの責任を企業に求めた、初期のエンゲージメントケースだ。このとき既にアマゾンの違法伐採が問題になっていた。

米国ブッシュ政権時代、2006年からガソリンへのバイオエタノール添加が義務付けられたことから、エタノールの原材料としてトウモロコシが急騰した。それまで、穀物相場など商品相場は一貫して低下してきていた。中西部にバイオエタノール工場がバンバン建ち疲弊した中西部の農家(フィールドオブドリームスに詳しい)がピカピカに大変身した事件があった。このときの原材料として中西部のトウモロコシに対して価格競争力(たぶん炭素負荷効率でも)があるとされたのがブラジル産のサトウキビだった。ブラジルでサトウキビは最も少ない日数で育ち、生産効率が良いため、ブラジルから輸入しても採算が取れるとされた。アマゾンの森林がどんどんサトウキビ畑に変身したと言われれている。

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