デサントの少数株主はアスレジャーの夢を見るか?

当ブログはグローバルの投資業界にあるESGな話題を紹介するサイトであるが、実はというか「日本企業のコーポレート・ガバナンス」もグローバルで共有されているESGテーマの一つである。欧米の機関投資家にとっては、日本企業のコーポレート・ガバナンスについては謎が多い。「文化」の問題として理解しようとする向きもある(欧州大陸系)が、アングロサクソンにとっては、Kiss Assにしか見えない。

コーポレート・ガバナンスは、日本では「企業を正しくする」か「不正防止」みたいなニュアンスで理解されているが、グローバルでは「経営者に株主の利益最大化のために働かせる」ための仕組みである。

最初に株式会社においては経営と所有が分離されているという状況があって、ほっとくと経営者は株主利益ではなく自分の利益最大化する、という性悪説あるいは経済合理的な前提があって、まあ自分のために働くのは当たり前のことなので、それをなんとか株主利益のために向かせようというのがコーポレート・ガバナンスなのである。

いやいや会社は株主のものではない。ステークホルダーのものだ、という意見は間違ってないし、日本特有のものでもないが、ティロール先生も指摘しているようにステークホルダーの利益を最大化するのは経済学的にはうまく扱えないので、株主利益最大化で株主がステークホルダーに目配りをするのが良いということになっている。なので最近は株主のスチュワードシップ責任が強調されているわけだ。そして、機関投資家は少数株主の立ち位置にいる。

このようにコーポレート・ガバナンスをエージェンシー問題の緩和にあるとすれば、上場しているが51%の株式を持つオーナー社長のいる企業では、所有と経営が分離していないので、そもそもエージェンシー問題がない。上場子会社も同様だ。独立取締役会は、少数株主をrepresent(代表)するとしても、過半数を押さえる株主=経営者を前に無力だ。社外取締役はオーナーCEOへのアドバイス機能はあるだろうが、暴走を止める力はない。独立取締役会や報酬設計といったコーポレート・ガバナンスの仕組みはほとんど意味をなさないし、少数株主の権利(株主の平等)を護ることも難しい。49%の少数株主がオーナーと同等に省みられることはないだろう。オーナー社長にとって時価総額増大は相続上悩ましいだけかもしれない。上場子会社においても親会社はからきた社長は親会社の利益を最大化する。子会社で利益を多く還元すると少数株主に漏れ出してしまうので、子会社に利益で残すよりは親会社との取引で吸収してしまった方が合理的だ。少数株主に勝ち目はない。

とはいえ、少数株主はこういったControlled Companiesとわかっていて投資しているわけで、こういった日本の銘柄で外国人持株比率も結構高かったりする。海外機関投資家の中には、日本のオーナー企業は経営スピードが早いしエージェンシー問題もないからとむしろ好むFMもいる。上場子会社の株価は割安に見えるらしい。(上記の理由から割安なのは納得がいくと思うのだが)

前置きが長くなってしまったが、
伊藤忠のデサントに対する寸止めTOBは、まさにガバナンス的にどう評価すればいいのか難解なケースで、海外投資家がアタマを悩ませる日本企業のコーポレートガバナンスの風景だ。

もっとも、伊藤忠対デサント創業家の経営権争いとして見れば、創業家社長が大株主である伊藤忠外しを試み、それを許さない伊藤忠が経営権を握るためにTOBを仕掛ける。

しかし、なぜか40%までの買い足し。支配はしないと表明。TOBの理由も、いかにもデサントのことを思ってみたいなことが書かれているが、資本主義において営利企業の行動は自己の利益追求で問題ない。そうでないとしたら、伊藤忠の株主が許さないだろう。実際に40%で事足りたようで、創業家社長以下取締役は韓国ビジネス担当の役員を除いて全員退任、社長は伊藤忠、取締役会構成は伊藤忠2社内2社外2という伊藤忠案で決着。過半数がなくても、事実上コントロールに成功している。この部分も結構謎だと思うが、取締役会構成だけをみると少数株主にも配慮しているように(社外2)なっている。
これで、少数株主の権利は護られたのだろうか。日本では過半数まで買わなくても安く経営権を握れるということなのか。40%までTOBというのは伊藤忠の節約(ケチ)ということを示しているに過ぎないのか。よくわからない。

デサントの創業家社長の独立経営 vs. 伊藤忠の経営どっちがいいの、という点について
日本の商社は衣料メーカーの仕入れから販売までの面倒をみて口銭を稼ぐ。中国での製造工程や、海外販路開拓、海外ブランドの商権、日本のメーカーの海外進出の裏方は商社だ。商社にとってデサントとの取引は、材料の仕入れやノックダウン生産、製品販売などで各部門のトップラインに貢献する。

したがって、商社株主の思惑は純粋な投資ではない。創業家社長の時代、業績は韓国ルコックがアスレジャーに乗ってバズって悪くないが、この韓国ビジネスは伊藤忠にとってはおいしくなかったのかもしれない。今後は伊藤忠はデサントの企業価値(株価)だけでなく、より伊藤忠にとってもおいしいビジネスに舵を切るだろう。独立経営派の少数株主は、TOBに応じて退出したいところだが、希望する全員に機会はない。少数株主の権利が護られないケースになる。

一方、伊藤忠の中国での実力に乗った方がさらなる飛躍ができるのかもしれない。独立路線でいくより、伊藤忠と協働してウィンウィンの方がデサントの発展のためにはいいのかもしれない。伊藤忠と対等とはいかないが、少数株主もその恩恵にあずかることができるだろう。そもそも伊藤忠が30%程度のステークで社長や役員を送り込んで支配しているという状況を承知の上でデサント株を保有している少数株主は、伊藤忠の経営はウェルカムなのかもしれない。この場合は少数株主から特に文句はないのかもしれない。しかし、伊藤忠が関係取引を通じて利益を回収するとわかっていてるなら、デサントの少数株主になるよりは、伊藤忠の株主になった方がいいのではないか、とも考えられる。

結論からいうと、デサントの少数株主に使用前にも使用後にも魅力はないと思うのだが、デサントの外国人持株比率は20%くらいある。海外投資家やアクティビストはどう捉えているのか聞いてみたいと思う。

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