LIXILガバナンス物語(前篇)(改定)

(あらすじ)
LIXILグループは、1.6兆円規模のトップライン(売上高)を持つ世界最大の住宅内装建材、住設機器メーカーである。トステムとINAXの合併を基に、サンウェーブや新日軽なども加え、さらにクロスボーダーM&Aでアメリカンスタンダード(米国)のアジア部門やグローエ(独)なども傘下にした。

ガバナンスでは、グローバル企業として日本では数少ない指名等委員会設置会社であり、監査、報酬、指名委員会を備える。株式の所有構造をみても、親会社、支配株主はおらず、有報では外国人持ち株比率は約40%、国内金融機関が約30%以上を占める。筆頭株主はLIXIL自身で7.4%、次が日本トラスティの4.58%で機関投資家の何社が大量保有報告をしているが、株主は分散しており、外国人からも支持が高い。

国内の経営統合をすすめLIXILを住設総合メーカーとして巨大化させたのは、旧トステム創業家のシカゴMBA仕込みの2代目、潮田氏だ。国内の経営統合の次は雇われプロ社長の藤森氏が海外M&Aによるグローバル化を推し進めた。潮田氏は内部NED(非執行取締役)として取締役会議長を務める一方、執行役でもある。今回、辞任した瀬戸氏は二代目雇われプロ社長だ。初代藤森氏も割と唐突に辞めたが、二代目も指名委員会からの三行半で辞任することになり、後任は潮田氏自らが会長CEOとして陣頭指揮を執ると発表された。

瀬戸CEOを”Let him go”と考えた潮田取締役会議長は、指名委員会を電話会議で開催、「瀬戸CEOが辞めたがっている」と伝え委員の同意を得た。その後、瀬戸CEOには「指名委員会の総意だ」と言って辞任を迫ったとされる。瀬戸CEOも指名委員会の総意といわれれば仕方なく、辞任に同意してしまう。

この経緯が外国人株主から、物言いがつく。瀬戸CEOの解任の手続き不全を理由に、外国人株主(マラソンやTaiyoの名前が見える)とINAX創業家の伊奈一族ら3/100以上の議決権を持って取締役2名(潮田会長CEOと山梨COO)の解任を求めて臨時株主総会を請求した。

(ガバナンス的問題:取締役会の経営監督は適切か)
LIXILの外LIXILグループは、ウォーターテクノロジー事業やハウジングテクノロジー事業など5つの事業部門で構成されているが、国内は経営統合したLIXIL株式会社内にあり、それプラス海外の各社が事業部門にぶら下がっている形だ。LIXILグループの執行役(内部取締役)の多くは国内LIXIL株式会社の取締役を兼ねており、生え抜き役員の多くはトステム出身だ。潮田会長はグループの取締役会議長兼執行役であり、代表権がなくとも実質的にグループ経営のトップだ。なので、潮田会長が、グループのプロ社長に課したアサイメントは海外グループ経営ではないかと思われる。グローエの中国子会社のトラブルにはじまる海外M&Aの問題から二人のプロ社長のマネジメントが気に入らなかったようだ。今回の瀬戸CEOの事実上の解任が経営判断として妥当なのかどうか。納得のいく理由があるのか、潮田会長は語らないので、また、後任が「代打、オレ」というのが、グッドディシジョンなのか、つまり海外グループ経営も最初から潮田会長がやっとけばよかったってことなのか、それともただの潮田氏の独善か。株主が見なければいけない点はここだろう。

(ガバナンスの不全とは:各機関の権限分掌)
ガバナンスの仕組みでは、CEOの選解任は取締役会の仕事である。
株主は総会で取締役を選任し、選任された取締役は、会社の最高意思決定機関である取締役会を構成する。
取締役会は、CEOを選んで日々の経営を任せる。CEOの経営が不適切とみればCEOを解任するのも取締役会の仕事だ。

また、取締役会は議論を多く要する決議事項については委員会をつくって権限委譲をする
法定委員会は、監査、報酬、指名委員会で、指名委員会は取締役候補を指名するのが仕事だ(選任するのは株主総会)

今回のLIXILグループでは、瀬戸CEOの辞任を指名委員会が迫ったことになっている。
指名委員会は、潮田氏と社外取締役4人で構成されている。潮田氏は指名委員会に「瀬戸CEOが取締役を辞任したがっている」と説明し、辞任を承諾させた。というか、各機関の権限分掌を考えれば、指名委員会は辞任に対して何も決めないだろう。期中の取締役は自ら辞任するか臨時株主総会で解任されるかだ。ただし、指名委員会は任期がきたとき、次の取締役候補から外すことによって取締役を入れ替えることができる。指名委員会の社外取締役は誰もそこを指摘しなかったのか?「CEOの選解任は取締役会決議事項で、指名委員会のプライマリーな仕事じゃありませんよ。」とか「取締役は株主に選任されているので辞任するもっともな理由が示せないと株主への説明責任を果たせませんよ」とか。バーバラ・ジャッジも何も言わなかったのか?

*バーバラ・ジャッジは、米国の弁護士で、ハイランキングまで上った”女性活躍”のロールモデルであり、英国貴族と結婚してソーシャリーにも登った、いわゆるゴールデンスカート(社外取締役を歴任する)だ。

「指名委員会が辞任を望んでいる」といわれた瀬戸CEOは、辞任を受け入れるしかないと思ったとされる。ここの瀬戸CEOの行動、つまり指名委員会の総意を受け入れて辞任するというのもイマイチな判断だったと思う。CEOの解任を決めるのは取締役会だ。そこで納得いかないなら、というかクビにされる理由がないと思うなら、取締役会に諮るのがスジだ。取締役会は12名で、瀬戸CEO自身は入らないので11名、このうち5人が社外取締役だ。ということは内部1名と社外取締役で過半数になる、あるいは内部取締役は全員一致のときのみ過半数を握れる。取締役会に懸けていれば、瀬戸CEOの解任はそれほど簡単ではなかっただろうと思う。なので、瀬戸CEO自ら去るように仕向けたのだろうが、瀬戸CEOはまんまとそれにハマってしまったのだ。

取締役会できっちりCEOを解任を決議しておけば、よかったのだが、このだまし討のようなやり方によって、今回のCEO解任が全うな意思決定かどうかに疑問符がついた。さらに、後任が自分というのも潮田氏の独善という印象を強くする。株主が、潮田氏の横暴と捉えて彼の取締役解任を求めて臨時株主総会の開催を要求したのは当然の動きといえよう。

ただ、やっぱり瀬戸CEOの行動も引っかかる。潮田氏の計略をかわすくらいでないと、巨大LIXILグループを率いるのはむつかしいんじゃないか、などと余計なお世話なことを考えてしまう。まあ、だからといって、何もないのにいきなり辞任しろ、というのは横暴には違いない。株式市場もあまり潮田氏には同意していないようだ。

(追記)
西村あさひ法律事務所が2019年2月に出した調査報告書には、かなり詳細な瀬戸CEO辞任の経緯が説明されており、メディアが書くのは「法的な瑕疵はない」との結論ばかりだが、実際には報告書はガバナンス上の問題点を指摘しており、改善点も提案している。この報告書を読まないまま、本記事を書いたが、それほどスジは外していなかったという印象だ。

調査報告書は、瀬戸CEOも社外取締役も瀬戸CEOは潮田会長が任命したと考えており、瀬戸CEO自身も社外取締役も潮田氏がそういうなら仕方がない、と潮田独裁政権を認めていたこを指摘している。瀬戸CEOは、潮田会長がCEOに戻るなら直ちに辞める、とも言っていたとされる。これを潮田会長はうまく使って、自分がCEO返り咲きが瀬戸辞任の理由にできると考えた。潮田会長と社外取締役で構成される指名委員会は独立性もなく、潮田会長の追認機関となっていた。社外取締役が多くてもダメだ。山梨氏は社外取締役で指名委員会の委員長でありながら、自らのCOO就任している。指名委員会で決議後の取締役会で潮田CEO、山梨COO任命決議のときに、幸田氏もジャッジ氏はすでに退出してvoteしていない。

そもそもCEOやCOOの選任は指名委員会の本来の役割ではない。指名委員会は取締役候補の指名をする委員会だ。日本企業の機関はbylawsや権限分掌をはっきり定義しているのだろうか疑問に思う。CEOやCOOの選任について取締役会から権限委譲されていることの大きさを指名委員会の社外取締役は自覚していたのだろうか?

ということで、ガバナンス上の問題は社外取締役4人と潮田会長で構成された指名委員会にあった。
そして、瀬戸CEO辞任の正当性というか、潮田氏が瀬戸CEOのどこか気に食わなかったのか、という点についてもあながち間違っていないと思う。グループ経営は事業会社経営とは違うと考える潮田会長の思う通りには瀬戸CEOが動いていなかったからだ。

後編は瀬戸CEOのre-instate(復帰)を目指す動きを追ってみます。

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