LIXILガバナンス物語(シーズン完結編)

6月25日のLIXILの株主総会で、クライマックスを迎えたLIXILガバナンス物語はNetflixのStranger Thingsの向こうをはれるくらいのドラマチックな展開となり、早くもシーズン2突入となった。

総会の結果は
第1号議案(会社議案)
独立社外取締役候補の内堀氏(税理士)、河原氏(ケンウッド)、キャンベル氏(コンサル)、松崎氏(コニカミノルタ)、三浦氏(リコー)の5人は賛成率50%台で選任された。
内部取締役候補の大坪氏(トステム)も賛成率50%台で選任が可決された。
一方、独立社外取締役候補の竹内氏(元財務官僚)、福原氏(ベネッセ)は、賛成率44%で否決された。

第2号議案(株主提案)
独立社外取締役候補の鬼丸氏(女性元最高裁判事)と鈴木氏(監査法人)は94%の賛成率で可決。

第3号議案(株主提案)
独立社外取締役候補の西浦氏(企業再生)は51%、濱口氏(元PFA CIO)は64%の賛成率で選任が可決、
内部取締役候補の伊奈氏、川本氏、吉田氏、瀬戸氏の4名も賛成率50%で選任が可決された。

結果、会社提案から6名が、株主提案は全勝で8名が選任され、取締役会は14名となった。
内、独立社外取締役が9名、内部取締役が5名、過半数が独立社外取締役なので取締役会は独立している。
取締役会の独立議長は松崎氏
指名委員会の独立委員長は西浦氏で、独立4,内部1
監査委員会の独立委員長は三浦氏で、独立4,内部1
報酬委員会の独立委員長は濱口氏で、独立4
の構成である

CEOは瀬戸氏
COOは大坪氏

取締役会の感想
あえて言えば、14人は多い。日本企業でも平均は10人、これくらいがガチ議論できるギリギリの人数で、これ以上だと事務局の筋書きにしたがって議論した感じにするか、カオス会議になる可能性が高い。グラスルイスは社外が多ければ多いほどいいと言っているようだが、いきなり社外取締役9人はガチ議論するミーティングが苦手な日本企業、日本人にとっては多い。独立議長を除くエグゼクティブセッションを率いる筆頭独立取締役(Lead Independent Director)の任命が必要だ。

報酬委員会を全員独立取締役にしているが、全員独立な方がいいのは監査委員会だ。鬼丸氏が入るとしたら監査委員会だろう。指名委員会は取締役会の評価や次の取締役候補の指名を行うし、CEO後継問題も扱うかもしれない。適任とは思えない。それにしても会社提案の社外取締役で経営経験スキルの業界が、ケンウッド、コニカミノルタ、リコーってなんか業種が似通ってるなあ、建材屋さんとあまり関係ない気が。そういう意味でも西浦氏以外の社外取締役は指名委員会にフィット感がイマイチ。報酬委員会や指名委員会の役割を考えたら自ずから取締役候補のクライテリアがわかってくる。これを考えるのがまさに指名委員会の仕事なんだが。

ドラマな要素1:株主が本当に取締役を選んだ
コーポレート・ガバナンスの教科書通り、まさに少数株主が選挙で取締役を選んだ世界的にみても極めてレアなケースとなった。
株主提案で取締役会全員分の取締役候補を出すということ自体が、日本以外では不可能なことであるし、その株主提案の取締役候補全員が拘束力のある議決で過半数で選任されるということが前代未聞な上、その株主提案由来取締役で取締役会の過半数を占めたというのは、ウルトラ前代未聞といっていいだろう。瀬戸氏チームはガバナンス史上ワールドレコード並の偉業達成といっていい。グローバルでみても間違いなくガバナンスの歴史に残るAGMだった。

そのため、これより「株主提案で取締役会を創る」時代に突入したかもしれない。日本においては、会社法上「株主提案で取締役会を創る」ことができることが世に知られることとなった。そう日本とは強力な株主の権利が存在する国だったのだ。米国のアクティビストもアジアのヘッジファンドのみならずロングオンリーも日本株を見直すきっかけになるかもしれない。

日本株の平成30年間の投資収益率をみれば、リスクアセットとしての期待収益率を実現していないし、日本株式の平均ROEはせいぜい10%程度しかなく、半分の企業はPBRが1以下だ。日本企業は労働者の質、技術力申し分ないが、とにかく経営者が株主価値に興味がないのが問題だ。だとすれば、株主提案で取締役会フルメンバーを送り込んで経営監督させれば日本株は輝き出すかもしれない….などとアクティビストになって妄想してしまう。

最も、日本においては昔から「株主提案で取締役会を創る」ことはできた。しかし、そんなことは滅多に起きない。日本の上場企業の半分には支配株主がいるし、創業家関連が大株主になっていることも多い。株式持ち合いや生損保など安定株主工作をしっかりやって過半数を押さえている。定款変更などに必要な2/3(Super Majority)まで押さえている企業も多い。これは鶏か卵かよくわからないが、実質的には「株主提案で取締役会を創る」ことは不可能になっている。日産ではルノーという親会社のおかげで、西川CEOはISSやグラスルイスから至極全うな理由で否定されても身分は安泰だ。

但し、LIXILのように株主が広く分散したケースでは少数株主しか存在せず、その中で合計すれば内外機関投資家で過半数を超える場合、機関投資家の集合体がキャスティングボードを握ることになる。日本のガバナンス・コードでは持合いの解消を求めているが、安定株主を失うと、LIXILケースが起きるようになる。

ドラマな要素2(ちょっとマニアックだが):我が国でレアな直接民主主義の体現
昨今、民主主義を実感することが日本社会では少なくなっているが、まさに日本でめずらしく発生した大統領選(プレジデントを選ぶ)だった。日本の国政選挙では、国民は1票を投じ、投票の多かった候補から順番に当選する。これをPlurality Votingという。一方、企業の株主総会の取締役選任は、各取締役候補について投票し、過半数をもって選任するMajority Votingが採用されている。
実は米国の株主総会ではPlurality Votingで取締役を選んでいる会社もある。定員と取締役候補数が同じならば、1票入れば当選となるため、各取締役に過半数の信任を求めるMajority Votingの方が、株主の権利が強いと考えられている。米国の機関投資家は、Majority Votingに変更するよう地道なエンゲージメントを行っている。

そして、その取締役(選挙人)が、取締役会においてCEOを選任する。各取締役は会社側の暫定CEO政権か瀬戸チームの瀬戸CEO政権か支持する先が判明しているので、その取締役に賛成票を入れるということは、CEOを選んでいることになる。つまり株主がCEOを選ぶ直接選挙が実現したのだ。こんなことはそうそうあるもんでもないだろう。

ドラマな要素3 グローバル・プロキシアドバイザー(ISSとグラスルイス)の限界とそれでも影響力の大きさが明らかに
ISSとグラスルイスの推奨は妙なものだった、そしてそ推奨通りにはならなかった。
ISSは会社議案について4人賛成、2人反対、株主提案について2人賛成、4人反対、鬼丸鈴木は賛成
グラスルイスは会社議案は6人全員賛成、株主提案について全員反対、鬼丸鈴木は賛成
どちらも瀬戸氏の選任に反対した。そして結果は瀬戸氏は取締役に選任され、CEOに就任した。

どこが妙かというと、
ISSの取締役会は独立社外8人、内部2人(大坪氏、伊奈氏)にすべきだとして、それ以外は反対。但し、瀬戸CEOつまり瀬戸氏が率いることはやぶさかではないが、取締役はダメ。しかし、内部取締役2名はなんでこの取り合わせなん?日本だけでなく米国でもCEOは取締役(Director)を兼務するのは普通のプラクティスだ。したがって、潮田氏に経営をまかせた方がいいと事実上言っているように聞こえる。
グラスルイスは独立取締役会(独立取締役が過半数)というスタンダードを超えて、独立取締役が多ければ多いほどいいという独自の基準を打ち出し、会社提案に全面賛成となった。この新たな基準は、グローバルの投資業界でもあまり聞いたことがないが。
瀬戸氏を否定する理由がグローバルでなかった。会社側がいうところの喧嘩両成敗みたいなのは日本的で、ロジックはない。瀬戸氏がやるか潮田氏(かその代理人)がやるかの択一問題だろう。

なぜ妙になったかというと、
プロキシアドバイザーは、ガバナンスの基準に沿って、議案の賛成反対の推奨を行うだけで、経営コンサルでも投資の意思決定をする投資家でもないので、取締役候補の良否の判断において、瀬戸氏の経営者としての能力や他の内部取締役候補のリーダーシップなどを評価した形にしたくない。社外取締役候補の良否は、「独立しているか」だけが判断基準で、ダイバーシティの要素もジェンダーなどのデモグラフィーは判断できるが、スキルセットや経験などの優劣を判断するのは避けたいところだろう。ISSは瀬戸氏に反対推奨をしながらも、瀬戸氏のCEOの可能性もあるという、実際にはほとんどないことを言って、潮田氏に乗っているわけではない、つまり経営者選択には中立だとヘッジをかけている。グラスルイスは、外形標準でのみで判断する。取締役候補の評価要素は「独立」のみとしている。これはある程度やむを得ないところで、プロキシアドバイザーが言えるのはここまで。これから先は、投資家が株主とし判断すべきことである。つまり、経営者の選択。今回のLIXILケースは、上で述べたように、CEO選択選挙であった。CEO選択についてはプロキシアドバイザーとしてはCEO選択については推奨を出さない形にしたい。しかし、結果的には両社とも潮田氏経営に乗った形になっていた。この辺りでプロキシアドバイザーの推奨が変な感じになったしまった。

実際に、機関投資家は
①プロキシアドバイザーを使っていて、この推奨通りに投票した
②プロキシアドバイザーを使っていて、この推奨をオーバーライドして(推奨に従わず)投票した
③そもそもプロキシアドバイザーを利用しておらず、独自の調査分析で、投票した
のケースがあると思われるが、実際にはISSとグラスルイスが冷たかった株主提案の取締役候補は全員選任されたことをみれば、海外投資家の中でも②も多く発生したのではないかと想像できる。

一方、会社提案でISSが反対推奨した2名の社外取締役候補が44%台で否決される事態となった。この2名の独立性についたはそれほど「明らか」なわけではないので、会社提案に賛成の立ち位置で①が多くいたことを示している。奇しくもISSの影響力の大きさを示した形になった。この2名の否決により、株主提案側が過半数となり、推奨していない瀬戸氏が取締役に選任され、CEOに就任するというUnintended Conseuquenceを引き起こしてしまった。

今回のLIXILの細かい事情についてグローバルのプロキシアドバイザーが追いきれていないことや、プロキシアドバイザーとして判断できることは、ガバナンスの外形標準にすぎないということが明らかになった。一方、プロキシアドバイザーの助けがないと、巨大な機関投資家が対応しきれないことも事実とすれば、日本においてもローカルのプロキシアドバイザーがあってもいいかもしれない。欧州のグローバル株式のマネージャー(運用機関)にヒアリングしたときに、グローバルで議決権行使をしていく上で、ローカルのプロキシアドバイザーを使いたいという声もあったことを付け加えておく。

そしてLIXILガバナンス物語のシーズン2は当然、株主に選ばれた取締役会と瀬戸CEOの活躍がテーマだ。

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