LAの先生達のストライキ

全米でも公立学校の先生のスト権を認めている州は12州しかないが、カリフォルニア州はその1つである。前回のストライキは1989年だという。

米国の公教育は、School District(学区)を行政単位としてして運営されている。行政区割りのCountyの中に幾つかの学区がある。市町村にあたるTownshipとも必ずしも一致しないが、だいたい町ごとにあるイメージだ。

ちなみに米国にはたくさんのガバメントが存在する。学区もガバメントで、住民頭割りで徴税し学校を運営する。学校は学区内の固定資産税で運営されているという認識だ(実際にはそれだけではなく州政府のお金も入る)。だから米国では、子ども一人あたりの学校教育の支出額はその地域の所得レベルによるといわれており、住民のおらが村の学校はオレ達のカネで運営されている意識が強烈だ。ただし、教育は州政府の責任なので、最近では州政府からの支出で各地域の平準化をすすめており、貧困地域の学校はオンボロということはなくなって公教育における地域格差は薄まりつつある。

こういう米国の公教育の現状において、LAは市全体で1学区という珍しいシステムで、30,000人以上の教師が1学区に属しており、640,000人の子どもが学校に通う。全米で最大の学区である。この3万人の教師がストライキに入っており、その要求は賃上げのみならず少人数クラスやカウンセラーや看護師の配置など学校の教育環境の改善、もっと学校現場にカネをかけろというものである。

LA統一学区が金欠になっている主要な理由は、生徒数の減少で州政府からの補助金が減っていることだが、もう一つは教職員年金基金への拠出額の増加だというのだ。退職教員の年金への拠出が現役世代や教育現場への支出を圧迫しているという。退職教員が長生きになっていることの他に教職員年金基金の資産運用が目標を下回っていることが、拠出額増加の原因だという。そして今後も負担額は増えていく見通しだという。LA統一学区が拠出している年金基金は、あの加州教職員退職年金基金(CalSTRS)だ。CalSTRSは米国で2番めにAUMが大きい公務員年金で、ESG業界で知らぬものはないESG投資リーダーである。このCalSTRSの年金財政の悪化がLA統一学区の財政を苦しめているというのだ。

退職者の年金と現役世代のwelfareがトレードオフになっている状況だが、退職者年金は給与の後払いであり、米国では年金給付の引き下げは難しい。それに、先生は稼働日数が少ないため標準賃金の9ヶ月分の給料となるため、受け取る給与の実額は低い。そのため、現役の教職員にとって手厚い退職年金への期待は大きい。それだけに、CalSTRSの運用に注目が集まりそうだ。ニュースでは、CalSTRSの運用が目標利回りを下回っていることが年金財政の悪化の要因の一つとしている。CalSTRSの運用がレビューされたら、ESG投資のパフォーマンス議論が再燃するかもしれない。

昨年はお隣りのCalPERSではネガティブ・スクリーニングのコストの問題が議論された。過去10年間のタバコのネガティブスクリーニングでUS$3billion(約3000億円)失ったというのだ。グローバルタバコセクターは過去10年間はベンチマークをコンスタントにアウトパフォームしており、このセクターに投資しなかったことからパフォーマンスが低下してしまったというのだ。ネガティブ・スクリーニングのコストとして、ネガティブスクリーニングを要求した州政府に補償を求めるというハナシにまで発展している。この背景にもCalPERSの年金財政の悪化があると思われる。

ネガティブスクリーニングなどESG Compliant型の投資はコストをかけてESGに準拠する投資なので、年金基金のようなフィディシアリーが実践できるか、という議論が繰り返されるかもしれない。カリフォルニア州政府は、両年金基金にタバコの他に石炭ダイベストも要求している。学区への負担を減らすため、州によるCalSTRSへの一時金の支出というハナシも出ているようだが、財政がきついフィディシアリーのダイベストはそのコストの保障がない限りやらないという方向になると想像している。

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