インパクトボンド

インパクトボンド(Impact Bond)は、社会的インパクトボンド(Social Impact Bond)とも呼ばれるが、日本のJICAや学生支援機構が主張しているソーシャルボンドとは異なる。

インパクトボンドは、社会への影響(インパクト)を目的に発行され、クーポンや償還が資金使途である公的なプログラムの成果に連動している債券を指しており、債券種目というよりはPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアチブ)に近いPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)と考えた方が良い。

福祉など公的なプログラムは、市場原理が働かないため、効果がなくても漫然と運営されていることが多い。日本でも公共政策の業績評価(Public program evaluation)はほとんど行われていないだろう。全く効果のない公共政策も、「やることに意義がある」状態になって止められない。公共サービスはいわゆる市場が失敗するため、公共サービスの効率性とか最適政策とかは経済学的にも担保されない。ひとえに公務員のやる気と人徳にかかっているが、精神論は持続的(サステナブル)なシステムではない。

そこで、公共政策に市場原理というかインセンティブを少し導入すると良いのではないか、というのがインパクトボンドのアイディアだ。

最初のインパクトボンドはプリズンボンドだった。プリズンボンドは、刑務所の更生プログラムの資金調達で、刑務所から出た人の更生比率の改善度(再犯比率の低下)にクーポンが連動するというものだ。英国で最初の実験的プリズンボンドが発行され、その後、米国でも発行された。米国版プリズンボンドは。NYにあるライカー島の少年刑務所の再犯率の低下にクーポンが連動するというスキームで、マイケルブルンバーグがNY市長だったときに、発行しゴールドマンサックスが引き受けた。この米国のプリズンボンドのスキームははっきりとは知らないのだが、このプログラムのオーナーはブルンバーグ財団で、残念ながら1年目の再犯比率の低下が目標に僅かに届かずプログラムは終了し、プリズンボンドは元本の75%で早期償還となってしまった。目標には届かなかったが、再犯比率の低下で成果は出ていたようなので、プリズンボンドとしての成果、つまり公共プログラムの刺激を加えるというのはあったのかもしれない。英国のプリズンボンドも3年で終了した。

思うに、ボンドホルダーがヤキモキしても、公的プログラム、特に更生など専門性の高いプログラムを債権者として外部モニタリングできるのか?というあたりがすっきりしないので、まだスキームが緩い感じがする。

プリズン以外のケーススタディとしては
豪のニューサウスウェールズ州政府が出しているインパクトボンドがある。NSW州政府は虐待で保護された子どもの家庭再建率(親元に戻れた)にクーポンが連動するという7年債のインパクトボンドを出している。毎年の家庭再建率を加味してクーポンが決定されるが、最終償還時に最終出来上がりの平均値で均してクーポンを調整するのだそう。州政府は、この公的サービスの資金提供者に、プログラムの成果に応じて高いクーポンを支払う。
発行金額は大きくはないし、ほとんどの投資家はHNW(お金持ちの個人)のようだったが、キリスト教系のスーパーファンドが機関投資家として参加していた。このスーパーアニュエーションスキーム(豪のDC年金)は、100%ESG投資だが、なかでもインパクト投資にも取り組んでおり、その社会インパクトもレポートしている。信心深い人も安心のDC年金なのだが、このNSW州のインパクトボンドを最初にきいたときは、なかなか投資できるような代物ではなかったという。いろいろ提案して今の形にするまで結構おせっかいを焼いたと言っていた。パブリックセクターやNPOセクターとインパクト投資の機会を生み出すにはESG投資家もスキーム構築から参画する必要があるようだ。

いずれにせよ、Fiduciaryにとっては、リスクリターンのプロファイリングの難しい債券であるし、社会インパクトの評価は投資パフォーマンスには勘案できないが、顧客は間違いなくそちらに興味があるのでレポーティングも必要だろう。欧州の年金や米国の公的年金基金などには、極々小さなインパクト投資のプログラムがあり、そこの枠から出すことは可能かもしれないが、これがアセットクラスを構成するようになると、それはそれでポートフォリオ管理上悩ましい。アンダーパフォームした場合、公的サービスプログラムも失敗したわけで、なんかルーズルーズになってしまうというのも問題で、そもそも投資の意思決定がやりにくい。どこかで専門のマネージャーが現れるかもしれないが、そこまでコストをかけられるだけの投資機会になりうるのか怪しい。なので、今のところリザーブファンドのような余裕のある公的年金基金の余技か社会貢献の域を出ないと考えている。

こういったインパクトボンドも含めたインパクト投資の世界もフォローしていきたいと思っている。(が、あまりできていない)

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