筆者がESG投資の世界に入ったのが2007年ごろ、その頃からちょくちょくUniversal Ownershipという単語を目にしたものだ。当時のコンテクストでいうと
Univeral Ownershipとは
欧米の公的年金基金のようなAUMの大きな機関投資家は、巨額の資金を株式市場に広く分散投資をしており、事実上市場全体のスライスを保有しているような状態になっている。市場全体の相似形を所有している=Universal Ownership。
あるいは、その巨大な機関投資家をいくつか合わせると、ほぼ市場全体の所有者とみなせる=Universal Ownership。
というような意味合いで使われており、
その心は「公共の利益を求める行為が合理化される。」
つまり自らの投資リターン追求でなくても、市場が利すればそれはすなわち市場全体の効率性向上などを通じてUniversal Ownershipならそのメリットを回収できる。
例えば、「世のため人のため」のエンゲージメント、例えばわざわざ訪問団を作って来日し、東証を訪問して議決権行使の結果を賛否のみならず票数パーセントで開示するように求めたり、連名で安倍首相宛て、日本の上場企業の社外取締役を3人あるいは1/3以上にするよう求めるレターを出したり、といった共同エンゲージメントも広く日本の株式市場の透明性向上や日本企業のコーポレート・ガバナンスの改善により、市場底上げという公共の経済利益になるので、Universal Ownerであれば受託者責任上問題ない、となる。
最近ではGPIFがMSCIやFTSEがESGスコアで作ったESGインデックスをトラックする日本株式ファンドを採用しているが、このESGインデックスファンドには、パフォーマンスの優位性に対するコンビクション(確信度)がない。ま、勝ちそうにないってことで、それを敢えて採用する理由としてこのUniversal Ownershipを持ち出している。
ちょっと注意してほしいのは、Universal Ownershipは経済理論ではなく、もうちょっと社会学的な緩い概念にすぎない。「広く市場底上げ」が共同エンゲージメントで実現するのか、さらに「広く市場底上げ」とは何か?で、株価上昇、よく言われる市場ベータの向上になるのか、その辺りの理論的バックアップはない。市場の底上げっていう親切でベータがイジれるという発想の根拠を先にしっかり説明してもらいたいな。市場の効率性向上っていったって、そもそもベータは効率的市場が前提になっている概念だし。
Universal Ownershipがもっともらしいとすれば、「市場のスライスを所有している」という表現が、市場ポートフォリオを連想させるからかもしれない。市場ポートフォリオとは、CAPMにおいて、すべてのリスクアセットを時価総額ウェイトで保有したポートフォリオのことで、まさに市場のスライスである。実務の世界では、インデックス(パッシブ)運用がこの市場ポートフォリオのプロキシであり、スチュワードシップ・コードでも求められているパッシブのエンゲージメントを正当化する「理論」としてUniversal Ownershipが緩く漂っているのである。
しかし、インデックス運用は、最もパッシブ化が進んでいるとされる米国ミューチュアルファンドで20%程度であり、年金基金の世界ではタワーズによれば1割程度らしい。もっともインデックス運用やパッシブ運用の定義が曖昧なので、どこまで含めるかという問題もあるのだが、GPIFのパッシブ比率(80%)が世の中のスタンダードではない。
ということで、Universal Ownershipは年金基金など機関投資家のSRIの受託者責任上の正当化理由として挙げられていた概念(機関投資家の状況)だが、理論的にも実証的にも突き詰められたことはなく、最近ではGPIF以外お目にかかることは少ない。