ESG投資といっても様々で、そのやり方についてはPRI(責任投資原則)も定めていない。ESG投資は草の根的に広がったので、それぞれのESG投資のやり方というものが存在する。言ったもん勝ちという側面もあって、本人がESG投資だといえばESG投資になる。PRIは、自己申告ESG投資の拡大の後に来たので、どれかを認定したり否定したりしない。PRIは最近では運用機関に点数をつけているが、年金基金などアセットオーナーのESG投資の方針にとやかくは言わない。
倫理投資、社会的責任投資、責任投資、サステナブル投資、インパクト投資、環境投資、最近ではグリーンボンドやグリーンファイナンスという言い方もよく耳にする。様々な呼び名は、投資手法に関連しているものもあれば理念を表している場合もあって粒が揃わない。とはいえ、社会にあるESG投資のカタチは、以下4つの形態に分類できる。
ESG Compliant(ESG準拠型)
毎日寝覚めの良い朝を迎えたい投資家向けのESG投資。武器製造会社とか従業員が過労死したブラック企業とか、いくら株価が上がるたって自分のお金が人殺し装置開発に使われるなんてやだ(あくまでも観念的な話)。
ESG Compliantは、何らかのESG基準に見合ったアセットクラスや個別投資先に限定して投資する。株式投資でいえば、ESG基準で一定水準を超えた企業のみを投資対象とする。上場株式のスクリーニング投資であれば、ESG基準を満たす銘柄のみで投資ユニバースが構成される。だから、ESG落第企業はそもそも投資ユニバースに入っていないから、ポートフォリオ自体はESG基準にパスした企業のみで構成されるから、ESG的に安心だ。投資家は自分のお金が、正しい企業にのみ投資されていると胸を張れる。
スクリーニングにはネガティブスクリーニングやベストインクラス(ポジティブスクリーニング)などがある。
ESG Integration(ESG組入型)
投資パフォーマンス追求の投資家向けのESG投資。
Fiduciaryの投資家、つまり機関投資家は、投資パフォーマンス追求ミッションがあるのでこちら。ESG Integrationは、「ESGで勝つ」投資なので、典型的には業種選択や銘柄選択で超過収益を狙うアクティブ運用が取り組む。銘柄選択で市場に打ち勝つアクティブマネージャーは、財務だけでなくESG要素も考慮して銘柄を探す。企業がESG的に良い子かどうかではなく、(経産省的に言えば)価値創造につながる非財務要素を投資アイディアとする。アルファとなるESG要素は、おそらく企業ごとに違うだろう。同じESGテーマでも(パームオイルとか)セクターや企業によって影響度は異なる。また、多くのESGはリスクと思われるが、ビジネス機会にもなりうる。
Stewardship (議決権行使とエンゲージメント)
既存の株式投資のポジションのある機関投資家が行うESG投資。
金融危機を経て、一層機関投資家株主の外部モニタリングの必要性が認識され、いまでは機関投資家の責務(スチュワードシップ)とまで言われている。そもそも企業は誰のものか?所有者は株主といわれてもアングロサクソン企業は株主は広く分散していて、経営者とオーナーとして渡り合えるような状況にはなかった。2000年代に入って、機関投資家が育ち、ブロックホルダーとして登場、少数株主ながら束になれば過半数も夢ではない状態になったことと機関投資家は企業分析を行い経営者のタイマンを張れるくらいのエキスパートも登場したことから、この機関投資家の外部モニタリングに期待が集まることになった。
この機関投資家による株主活動のモチベーションはFiduciaryであり、投資パフォーマンス追求において不可欠な活動ということになっている。逆に言えば、個人投資家はフリーライドできる。このStewardship活動の成果は、なかなか投資パフォーマンスへの寄与分析は困難なため、どれくらいのものか、機関投資家によって巧拙もあると思われるのだが、機関投資家が多い銘柄に投資すると、この機関投資家のStewardship活動の恩恵を受けることができる。また、エンゲージメントファンドはエンゲージメントの効果を株価で刈り取るという投資アイディアだ。
Stewardshipのテーマはプライマリーにはコーポレートガバナンスとなる。株主が経営陣に要求するのは、なんといっても株主価値向上だから、経営陣がよそ見しないで株主の方をみるようにするのがコーポレートガバナンスなので、機関投資家株主が口を開けばそりゃガバナンスのことになる。サステナビリティを意識するESG投資家は、様々な旬のE&Sの項目について聞くだろうけど、どちらかというとインフォマティブ(情報提供)であることが多い。
インパクト投資
SRIの発展形で、社会政策と投資リターンを両立させ、どちらかという社会政策(社会問題解決)に主眼がある投資。この点が、上の3つと根本的に異なっていることに注意。したがって、別建てで考えた方がよいが、AUM的には大きくないので、一緒にしてもあまり影響はない。
典型的にはマイクロファイナンスやコミュニティ開発がある。マイクロファイナンスはグレミンバンクのユナス博士の発明、コミュニティ開発は長らく米国の貧困対策政策として行われてきた政策金融。最近はプリズンボンドのようなインパクト債券というPPPに似たスキームのものもある。
開発援助や公共政策のオルタナティブ(代替)という側面とBOPビジネス投資開発という側面がある。と書くと、思いつくのはSDGsやグリーンファイナンスだ。これらは、古くはWorld BankやIMFがになってきた復興や開発ファイナンスのエリアに民間資金が流れ込んでいくイメージだ。ゴールは壮大だが、民間資金という水は低いところにしか流れないので、今のところ大激流は起きていない。グリーンボンドは、発行体にもよるがインパクト投資の範疇になっている。
ファイナンシャル以外のインパクトを投資の果実とするのは、Fiduciaryにはきついため、SWFやHNW(富裕個人)が中心。また、B-Corpなども含めてサステナビリティやプロソーシャル(向社会)は、ミレニアル世代の指向と指摘されることが多い。