責任投資原則(PRI)のはじまり

この8月にアナン元国連事務総長が亡くなった。ノーベル平和賞を受賞された初のアフリカ出身の事務総長であり、輝かしい功績が沢山ある方だが、ESG投資業界でもPRI誕生に関わっていた。ここ10年くらい「ESG投資セミナー」でESG投資を紹介してきたが、その中でPRI誕生の経緯にアナン氏のリーダーシップがあったことを話してきたので、ここで紹介しよう。

アナン国連事務総長は、世界経済フォーラム(ダボス会議)において

投資家の皆さん、世界は皆さんの掌の上にあるのです

と呼びかけたのです。これにグローバルの機関投資家が応じたのが責任投資原則(Principles for Responsible Investment,PRI)です。アナン総長の呼びかけから実に3年ほどかかりました。ESG投資は草の根的に広がっていますから、全て内包できるような原則が求められていました。当時は、社会的責任投資(SRI)という呼び方が一般的でしたが、このSRIの枠にはまらないものも多くあったのです。結局、「ESG」という造語をつくり、バラバラ感を乗り越え、2006年NY証券取引所で公表しました。スターティングメンバーとして60ほどの機関投資家が署名しました。

セミナーだとここまでだが、もうすこし詳しく書いておくと
実際、PRIを実務的に生み出したのは、国連環境計画金融イニシアティブ(UNEP FI)である。UNEP FIは割に表に出てこないが、この業界では要所となる仕事をするイニシアティブだ。

PRIを策定するにあたって最初の課題は

社会的責任投資(SRI)は受託者責任違反かも(ESGのためにリターンを犠牲)

そこでUNEP FIはフレッシュフィールズ・ブルックハウス・デリンガー法律事務所に
A legal framework for the integration of environmental, social and governance issues into institutional investment
を書いてもらい、

ESGインテグレーションこそ受託者責任が要請するもの(ESGは投資パフォーマンスを強化する)

としてこの問題をクリアした。

次の課題は、すでに草の根でESG投資を実践する投資家が全員参加できるようにすることだった。それぞれESG投資家たちは、自ら開発してきたという自負もある。「ESG」 という造語もその工夫。原則1には、

投資においてESGの課題を考慮する(投資の意思決定に組み入れる)

とだけ書かれている。原則はアスピレーショナル(大志)なものだとして、どういうものがESG投資か、すなわち投資手法については示していない。おかげで、それぞれがESG投資と思うところを実践すれば良いということになり、実際初期の頃は、これからESG投資に取り組もうという段階で、まずはPRIに署名していろいろ情報を集めようという風にPRIは活用されていた。このインクルーシブなところが、現在のPRIの成功に結びついているのだろう。

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