日経新聞の2018年5月6日(日)朝刊記事
「株主優待にESGの波、上場企業、「寄付」導入が2割増」
日本的慣行が「進化」
(阿部真也、渡辺夏奈)
はっきり言っておくが、
「ESG投資」の波が株主優待にも及んでいる。寄付の選択肢を加える例が目立つ。日本的慣行とされる株主優待を利用して、世界的な関心事であるESG投資に対応する動きと言えそうだ。
ということは全くない。
社会貢献型の導入は、機関投資家の選択肢とする意味合いもある。
いや、そのような意味合いはまったくない。
なぜならば、
ESG投資とは、投資判断の意思決定プロセスにおいてESG要因を考慮する投資だからだ。ESG投資と株主優待は無関係だし、株主である貴方の社会貢献とも無関係だ。
ガバナンスの観点から、機関投資家にとって株主優待は無用だ。そもそも企業の所有者は株主なので、企業のお金は株主のお金だ。自分のお金で、自分を優待するって変だろう。経営者が企業は自分のモノだと勘違いしているか、株主優待を株のオマケだと勘違いする個人投資家に株主のコストを使って訴求しているわけだ。
それに機関投資家は顧客の資金を預かって投資しているので、株式投資から得られるものはすべて顧客あるいは受益者の資産なので、株主優待もその一部で、ファンドマネージャーが勝手に株主優待のお米を家に持って帰ったりしたら不正だ。翻っていえば、株主優待で社会貢献するのも、投資パフォーマンス最大化の努力の一部としての投資判断でなければならない。
ESG投資に熱心な機関投資家株主でなくても、およそ機関投資家株主は投資先企業に株主優待そのものをやめるように言ってるはずだ。
もっとも他にもっと言わないといけないことがあって、株主優待まで手が回ってないかもしれないが、聞かれたら「止めてくれ」というのが正しいお答えだ。
出羽神も出しておくと、欧米には、いくつか自社製品の株主価格販売があるだけで、クオカードやお米券や、非売品フィギュアなどを配っている企業はない。
日本企業がやたら株主優待するのは、株主のコストのもと個人投資家獲得という安定株主工作を行っている、というのが本当のところでは?個人投資家が安定株主かどうかはまた議論のあるところだけど、サイレントな投資家であることは間違いない。個人投資家にはスチュワードシップ責任もないし、外部モニタリングはやらない経営陣にとって都合のよい株主さんだと考えられているからだろう。
とすれば、株主優待は日本企業のガバナンスの欠如の現れであり、ESG課題のひとつだから、ESG投資の波が押し寄せれば、株主優待が減少するという風になるだろう
社会貢献について「有識者」(MPA for Nonprofit Management)としてコメントしておくと
社会貢献=寄付は、企業を通じて行うものでは本来ない、支援したいと思ったら直接手渡すべきだ。公益に資することを存在意義にするNPOが、企業から寄付金を受け取ることと広く個人から支援を受けるということは、まったく意味が異なる。
なぜなら、寄付という行為は、エンゲージメント同様、意思表明でもあるからだ。
企業の社会貢献が、真に他利的であれば、それは営利企業としての企業価値増大目標に反する。通常、企業の社会貢献のモチベーションは自らの営利的なものであるはずと考えられている(それで構わない。)
一方、個人の寄付は、パブリックからの支持のバロメーターであると考えられており、資金調達の一定の割合が寄付で賄われているかどうか(パブリックサポートテスト)はNPO認定の基準となる。
株主優待で社会貢献の訳のわからなさは、ふるさと納税と同じレベルだ。
日本人も自ら考え行動する市民として、寄付やボランティアによって公益に貢献するということをそろそろやってもいいのではないかと思う。つまり、当該株式投資によって現金配当あるいはキャピタルゲインで得られた投資収益の一部を、つまり自分のお金から、自らがサポートしたいと思う活動に寄付し、その活動をモニタリングするということだ。