菅首相は初の所信表明演説にて、「ここに2050ネットゼロを宣言する」と2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロとする目標を打ち立てたことを表明された。既に、数日前から日経新聞の速報が流れていたし、サポートとも批判ともつかない記事を連発していたので、すでに新鮮味は薄れていたが、一応感想を述べておくと、割と唐突な感じ、それはデジャブでもある。
そう、安倍政権はガバナンス改革を三本目の矢にしたが、日本復興戦略に「年末までにスチュワードシップ・コード策定の目処をつける」とあったのだ。前後になんの経緯も背景も説明はなく、割と唐突にスチュワードシップ・コードだけがでてきた。スチュワードシップ・コードはコーポレートガバナンス・コードのスピンオフだ。どうして、スチュワードシップ・コードなんかなと不思議な感はあった。(翌年にはコーポレートガバナンス・コードを作った)
今回も、経緯や背景の説明はなく、なぜこの目標を今、所信表明演説にて宣言する必要があるのか、なぜ2050年なのか、とかネットゼロとか実質ゼロってどういう意味なのか?とか、一番肝心のどうやって達成するのか?方法論とか、経済や国民生活への影響は?この目標を達成した暁には何がやってくるのか?とかいう部分は端折ってあった。
そこで、余計なお世話かもしれないが、ここでちょっとだけ補足説明しておこう。現在、全世界の国々は、気候変動枠組条約を批准しており、気候変動を緩和しつつ経済成長を目指すことで合意している。気候変動の緩和と経済成長を両立させることを、Sustainable Developmentと呼んでいる。(ほらどこかで聞いたことがあるでしょう)2018年、世界は気候変動の緩和について具体的に1900年以来の気温上昇を2℃以下に抑える(2100年あたりで安定化)という目標についてパリで合意した。(パリ合意、Paris Accord)
これに基づいて、各国は削減目標をたてているが、京都議定書のときと違って自主目標(NDC, Nationally Determined Contrbution)だ。日本は2018年のエネルギー基本計画とたぶん整合性があると思われる2030年▲26%削減(2013年比)を公表している。
2100年時点で2℃の上昇で安定化するためのスケジュールとしては、ざっくり現在は経済成長とともに増加している温室効果ガス排出を、2050年までにピークアウトし、そこから削減へとすすめて、2100年ごろには排出ゼロというイメージだ。
ところが、パリ合意をよくみると、2℃以下じゃなくて、2℃よりずっと下でできれば1.5℃にせよとある。今では、2℃じゃ生態系などは守れない、1.5℃に目標引き上げというのがグローバルのトレンドとなっている。この1.5℃目標達成のスケジュールは、2℃よりもっとタイトになり、2030年までにとっくにピークアウト、2050年までにゼロ排出、その後ネガティブ排出(つまり温室効果ガスの大気中からの回収)くらいやらないと達成できない。
ここから、2050年ゼロ排出目標が出てきた。いつ「実質」がつくようになったのかはわからないが。ということで、菅首相の2050ネットゼロ宣言は、日本も1.5℃目標派にジョインしたということなのだ。とはいえ、国レベルで2050ネットゼロを決めているのはEUだが、日本が追従してくるとは結構サプライズなのではないだろうか。
通常、気候変動のシーズンは秋で、国連の気候サミットが開かれたり、11月末から12月にかけて本チャンのCOPが開催されるのだが、今年はコロナで延期となっている。それでも、国連総会で中国が2060年ごろネットゼロを宣言したり、カリフォルニア州が2030年以降のガソリン車の販売を止めるといったり、いろいろ気候変動関連のニュースが賑わっている。なので、この時期の所信表明演説は、気候変動シーズン中なのだ。
(つづく)