LIXILガバナンス物語(後篇)

(あらすじ)
自ら招いた瀬戸CEOを辞任させ、潮田会長は自らCEOに再登板、社外取締役で指名委員会の委員長だった山梨氏のCOO就任させたところ、外国人株主などから、ガバナンスの不全が指摘された。外国人株主や伊奈一族からの臨時株主総会招集要請があり、5月にも潮田会長CEOと山梨COOの解任を議案とする臨時株主総会が開かれることになった。問題は瀬戸CEOの解任手続きに問題があるとの認識だ。加えて、翌月にある定時株主総会で、瀬戸氏の取締役再任の株主提案を行うという。(もちろんCEOにreinstate(復帰)するためだ)

西村あさひ法律事務所が出した調査報告書は、法的な瑕疵はないとしたが、指名委員会の不全などガバナンス上の問題点は厳しく指摘している。これが本当だとすれば、今までは物分りのよかった国内機関投資家も、さすがに会社側につくのは難しい。スチュワードシップ・コードもあり、それぞれ議決権行使基準を持っている。明らかなガバナンス不全を看過できない。40%の外国人株主に国内機関投資家が乗ると過半数は超える。臨時株主総会での解任決議は可決される可能性もあるのではと思っていたが、4月にはいると、突然潮田会長CEOが取締役を辞任してしまった。(ただし、CEOは続けている)伊子会社ペルマスティリーザの損失計上で業績悪化の責任は瀬戸CEOにあるが、すでに辞めているので、潮田氏本人が任命責任をとって取締役を辞めるというのが辞任理由だったが、いわば別件辞任で臨時株主総会回避を狙ったものだろう。
結局、臨時株主総会は取り下げとなり、第一ラウンドは会社側の勝利となった。

第二ラウンドは、定時株主総会で瀬戸CEOチームが取締役会のフルメンバーをパケージで株主提案するという。このため、会社側の取締役候補と、株主提案による取締役候補がそれぞれの選任が過半数で議決されるが、このように株主提案で取締役候補を議案にできるのはおそらく先進国では日本だけだろう。米国では株主提案は拘束力のない参考議決だし、最近プロキシアクセスが定款に書かれている企業も増えたが、まだ株主から取締役候補が出されたケースはない。したがって、米国ではプロキシコンテストが必要となり、その費用は数億円〜といわれている。

取締役候補は会社側が10人、株主提案側が8人で、議案自体は①会社提案候補8人の選任、②会社株主提案共通候補2人、③株主提案候補6人の3つの議案として挙げられている。定款上の取締役会の定員は16人なので、会社提案①②可決(取締役10人)、株主提案②③可決(取締役8人)、①②③可決(取締役16人)でもOKだ。②の2人は争点にならないとして、だいたい株主はこの3つの選択肢から選ぶことになる。

招集通知には冒頭に「株主提案には反対する」とあり、①②に賛成、③に反対するよう求めている。さらに、会社提案①の社外取締役7人による「株式会社LIXILグループの経営正常化へ向けた重要メッセージ」を公表し、③に反対するように求めている。まだ足りないのか、補足説明資料と題したパワポスライド、音声付きバージョンをアップして、株主提案③の取締役候補を不適正としている。株主提案サイドもホームページ(savelixil.com)を立ち上げ、瀬戸氏からのメッセージや経緯、会社側社外取締役候補への質問状をつきつけ、逆に会社側①候補の適正に疑問点を指摘している。

(両サイド取締役候補やその主張を点検)
ことの本質は何か?誰がLIXILを率いるのか、という問題である。潮田氏なのか瀬戸氏なのか。
今回の事件で、潮田氏のリーダーシップにノーなのであれば、当然、瀬戸CEOのreinstate(復帰)が基本だろう。これは株主提案側の主張だ。
会社側は瀬戸CEOの辞任を良しとするのであれば、潮田体制でいくのがスジだ。現取締役会の選択でもある。

会社提案①8人の候補
ところが、会社側は潮田氏の影響力を排除するとして、取締役会メンバーの一新を主張し、内部1名社外取締役7名全員を新任とする議案を出している。会社側は、この独立ボードと独立議長を擁することによって透明性と適切なガバナンスが維持でき、潮田氏の影響力も排除できるとしている。しかも、唯一の内部取締役候補の大坪氏はCEO予定でないのか、これから選任される新任独立社外取締役で選考をすすめるとしている。株主提案側が最初から瀬戸CEOのreinstateを予定していることを批判している。見た目のガバナンスの外形標準を備えて、外人株主や機関投資家の支持を得たいのだろうが、これはかなり妙な話だ。

そもそも、情報が全くない新任の社外取締役が時期CEOを探すなんて、土台ムリな話だ。会社側が用意した候補者のどれが適任かなんて、わかりっこない。しかもボードは合議体だ。まだ一度も合議体として活動したことがないボードに、そんな最重要意思決定をいきなりやるのか?さらに、独立議長を予定しているというコニカミノルタ取締役会議長の松崎氏、雑誌のインタビューで議長の他に社外取締役3社兼務しており、あまり時間は割けない、兼務に支障がでないのを条件に引き受けたとしている。ICGNのガバナンス原則では社外取締役の兼務は4社までだし、議長の兼務は聞いたことがない。この程度のコミットメントで総会後の第一回取締役会でCEOを任命するのか。欧米のプロ社外取締役と違って日本の社外取締役はほとんど独立ボードの経験はないし、LIXILの経営をモニタリングしてきたわけでもない。この俄仕立てのボードがリーダーシップを選ぶのはムリな話だ。

すでに7人連名で重要メッセージを発しているが、これは、エグゼクティブセッションを開かないと出せないはずだ。社取だけでコンサルを雇うとか、そこまでしないと7人で意思決定できないだろう。会社がとりまとめてしまうと、独立社外が何人いても意味がない。実際、過去の指名委員会では潮田氏以外は全員社外取締役という陣容でも潮田氏のやりたいようにやったではないか。この「重要メッセージ作成」もその延長線上にある気がする。

なので、このNo潮田、No瀬戸、フレッシュスタートという主張はあまり現実的でない。潮田体制を隠したら株主の支持が得られるだろう、という期待なのではと疑いたくなる。今の日本企業においてほとんど独立社外取締役という取締役会をいきなりやって、文字通りの機能するとは思えない。この会社提案はアグレッシブすぎるのと表面的だ。

会社・株主提案②2人の候補
そもそも株主提案にあったリストから2人を、会社候補に入れてしまったようだが、入れることを本人達に知らせていなかったという。鬼丸氏は女性弁護士、伊藤氏は公認会計士で、日本企業が好む社外取締役の典型的なプロファイルだ。しかも、鬼丸氏は希少な女性とあって、取締役会のダイバーシティに貢献できる。ジェンダーダイバーシティは外国人株主が重視する項目だから、株主提案のこの部分だけ頂いてしまった、ということなんではないかと思う。これまた、表面的だ。

株主提案③の6人の候補
瀬戸CEOの突然辞任からLIXILの株価は低迷しており、株式市場からのメッセージは瀬戸CEOのreinstate(復帰)にあると見える。株主提案はこれに沿ったものだが、社外取締役候補となった西浦氏と元PFAの濱口氏は、日本の社外取締役としてはニュープロファイルだ。とりわけ濱口氏はごく最近まで、公的年金基金のCIOとして、機関投資家少数株主の立場から日本企業にガバナンスを求めていた。社外取締役は少数株主利益を護るために経営陣をモニタリングするのが役割なので、まさに、社外取締役の役割を痛いほどわかっている人物だ。ガバナンスの教科書からいえば。社外取締役として適任だ。

今の段階で、日本企業のボードに内部取締役がいることに問題はない。懸念は、瀬戸氏がCEOに再任されたとき、実質的なリーダーシップが握れるのか、というものだろう。業績不振が瀬戸氏のせいだとすれば、事業会社LIXILサイドの執行部隊がついてくるのか?詳しくはわからないが、LHT(Lixil Hosing Techonology)事業ラインはディープに国内トステム事業と思われる。LHTトップが取締役候補に入っている。経営会議のメンバーからの支持レターもウェブサイトに掲載されているが。

瀬戸株主提案チームでは、プロキシコンテストのようなソリシテーションは行わないといっているが、そもそも株主提案による取締役候補一括選任というのはかなりオッドなものであるという認識は必要だ。基本、欧米では経営に関するものは株主提案できない。海外投資家についていえば、パッシブ系は原則、米国の拘束力のない株主提案であってもほとんど賛成票は入れない。銘柄選択を行うアクティブでも日本企業については英語だったとしてもニュアンスや日本の常識まではわからないのでなかなか本質を見抜くことは難しいと考えている。したがってISSやGlass Lewisのレコメンに追従するところが大方と予想する。本邦機関投資家については、すべての議案についての賛成反対を公表することをスチュワードシップ・コードで求められている。反対した場合は理由の開示が推奨されている。そのため、最近では会社提案に反対票を入れたり、株主提案に賛成票を投じることのハードルは下がってきている。株主がどういった意思表明をするのか、注目だ。

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