ESG投資は草の根的に拡がったため、きれいに定義するのは難しい。後発の責任投資原則(PRI)は、PRI策定時にすでにあるESG投資的なものをできるだけ抱合し、かつ受託者責任(Fiduciary Duty)との整合性が保たれるように工夫した結果、
「投資の意思決定においてESG要因を考慮する投資」
となった。
用語の整理をしておくと、PRIの定義「投資の意思決定においてESG要因を考慮する投資」に対応するのは Responsible Investment (RI、責任投資)である。ESG Investing(ESG投資)はあまり一般的ではないが、RIと同義語であり、日本語では「責任投資」よりは「ESG投資」の方がわかり易いという予測で、日本においては「ESG投資」としている。したがって、筆者が英語で発信するときは、「ESG投資」はResponsible Investmentと訳している。
Socially Responsible Investment (SRI, 社会的責任投資)
だいたい同じと表現している。PRI以前にはSRIが存在していた。PRIは策定時にESGという造語をつくったので、Sだけじゃないよねと、SRIのSを取ってRIとした経緯がある。しかし、S(Socially)を取るということは、もうちょっと重大である。Responsibleの形容詞としてS(Socially)は誰に対しての責任かということを示している。だからSRIは社会に対して責任を持つ投資であり、RIの場合の責任は受託者に対するものであるという責任の矛先の変更がなされている。つまり、RIにおいては、あくまでも受託者責任を全うするために、ESG要因を加味するのであって、社会に対する責任を負う投資というわけではない。一方、SRIは投資リターンの他に、社会に対する責任を果たそうとする投資であり、ミッションベースとかバリュー(価値観)ベースと呼ばれ、リターンを犠牲にしてでもとまでいかなくても、儲かりそうだからといって何でも食べるということはしない。企業の向社会性は最低でも求める立ち位置だ。
では、なぜ「だいたい同じ」なのか?それは、PRIの前文の最後のパートのところで、ちらっと「受託者責任を果たすために財務要因に加えてESG要因を考慮しなければならないが、投資家がESG要因を考慮することで、社会の課題解決に資することがあるということも認識している」みたいなことが書いてある。まあ、PRIはSRIを否定してるわけではないというメッセージだ。直接的には投資リターンのためにESG要因を考慮するのであって、社会問題解決を直接の目的にはしないが、まあ副産物的にSRIになるってことはあるんじゃないの、というかなり緩い話だが、既存のSRIの方々にも残ってもらいたいし、投資リターン追求のいわゆるメインストリームに受け入れてもらうための工夫(トリック)といっておこう。しかし、このモヤモヤが、受託者責任問題やESG投資のパフォーマンスの議論がスッキリしない原因でもある。
Impact Investing (インパクト投資)
これは、異なる。ESG投資の範疇に入れるのはかなり無理がある。代表はマイクロファイナンスとプリズンボンドだから、マイクロファイナンスはさておき、プリズンボンドはPPP(Private Public Program)みたいなものなのだ。公的なプログラムに民間のインセンティブを導入しようというものだから、ESG投資というよりは公共政策のエリアに民間投資を導入するスキームである。インパクト債券の購入者は、社会貢献やフィランソロピストとかぶる。対象となるプリズンでの更生や貧困層の福祉という目的に重きがあって、投資パフォーマンスへの着目ではない。本質はSRIの強烈バージョンといっておこう。グリーンボンドでもやたらインパクトという言葉をきくかもしれない。大方のグリーンボンドはインパクト投資にはならない理由は、インパクト投資においては、スキームにレバレッジがある。つまり公共投資として税金や国債で調達して公共セクターがやるより、あるいは寄付などで調達してNPOセクターがやるより、より効率的あるいは効果的になる(市場原理などを利用することによって)ことが必要だ。でなければ、いつもの通り政府やNPOセクターがやればいいことだからだ。
このように、インパクト投資はかなり鬼っ子だが、AUM的には些細なレベルなのであまり目くじらを立てる必要もない。なので、ESG投資の一部ということにしてあってもさほど問題はないが、将来もそうだとは限らない。
Sustainable Investment
だいたい同じ。Sustainable Investmentは、RIともSRIともつかない感がある。パフォーマンス追求なのか社会がサステナブルになりますようにという投資なのか、投資リターンがサステナブルなのか、地球環境がサステナブルなのか、ときに都合よく解釈される。あまり定義だの投資理論だの細かいことをいいたくないときに使われている気がする。ちなみに、Sustainableというと「E環境」と「S社会」を指していると考えてよい。(ガバナンスは別立て)
Green Investment or Green Finance
グリーンボンド用。World BankグループやOECDなど国際エージェンシーでは、グリーンファイナンスが主流。温暖化防止のためにエネルギーインフラの大幅変更や、一気に温暖化を解決するようなイノベーションにむけてお金の流れを変えていく必要がある。そこで金融安定理事会はTCFDを設置した…気候変動対応のアクションは、ちょっと前まではせいぜいStranded Assets(座礁資産)の再評価をオイルメジャーに問いかけるくらいだったが、今ではお金の流れをグリーンにということでまるでバンキングセクターのバーゼル規制に気候変動項目を加える勢いである。ということで、気候変動モノは、オイルメジャーや資源に対するStranded Assets攻撃から、金融とりわけ銀行セクターにグリーンファイナンス要求へとターゲットが変わってきている。グリーンファイナンスといえば、ESG全般というよりは気候変動と考えてよい。だが、ESG要因のうち8割方は気候変動なので、まま、同じでもそれほど問題は起きないが、グリーンファイナンスというと資産運用というよりは金融セクターとりわけバンキングセクターが対象だ。
以上のように、様々なESG投資の呼び方があるが、それぞれの定義も揺れるので、あまり細かいことを言ってもどうかと思っている。表向きにはPRIは、ESG要因を投資の意思決定に考慮するのは、受託者責任上の投資リターン追求を全うするため、としているが、一方で、気候変動においては、なんとか温暖化を2℃に押さえるために投資家ができることは?みたいな論調があちこちにある。不投資で石炭発電を滅ぼしてやる、という勢いの投資家もいて、どうみても本音はSRIやん(そういうことができるかどうかはまた別問題)。世の中的にもESG投資を「社会に対する責任」を意識した投資、つまりSRIと考えている人も多い。