コロナパンデミックと役員報酬

最近、日経新聞がやたら引用するので、日本でもおなじみになってきたICGN(International Corporate Governance Network)は、コーポレートガバナンス向上のための機関投資家のグローバルネットワーク(会員制NPOだよ、本当は企業側のメンバーもOKだよ)なのだが、他のESG投資の投資家イニシアチブ同様、コロナパンデミック下のガバナンスについて頻繁に発信している。

4月23日付けで、”Governance Priorities During the Covid-19 Pandemic”を緊急発表した。主題はもちろん従業員というステークホルダーに配慮しなさい、ということだが、企業向けPriorityの2番目にあったのはExectuvive remunerationつまり役員報酬だ。

欧米の役員報酬は、Executive Payパッケージでクリスタルクリアに決められているパフォーマンス報酬だ。春から総会シーズンを迎えるが、役員報酬は12月末決算を基準に計算されるので、3月以降従業員の解雇や一時帰休をすすめながら、昨年の好調なTSRに対して高額な役員報酬が経営者には支払われるということになる。従業員と痛みを分け合う役員報酬を望む、というメッセージだが、具体的にどうしろとは言っていない。

そもそも、米国ではCEOや上級マネジメント職の報酬がめちゃめちゃ高く、格差議論の根拠となっている。数年前から、Pay Gapの指標として、CEO報酬と従業員給与の中央値の比率を公表することになっているが、Snapchatなど500倍なんていうのもめずらしくない。しかし、機関投資家株主がここを問題にしてきたかというと、実はそうでもない。機関投資家は、株価(TSR)と経営者報酬の連動性を求めてきた。要は株でもらえ、というものだ。この途方もない中長期のパフォーマンス報酬が、CEOに薪をくべて株価上昇にまい進するという仕掛けだといい、その結果としての高額報酬は当然という風潮だった。

しかし、ピケティ以降、格差が米国社会の分断の原因であることが認識され、Pay Gap Ratio公表となったわけだが、コロナパンデミックはあきらかに持たざる従業員側にハードヒットした。今後。経済のV字回復は、当然雇用で測られることになる。まさにステークホルダー経営が試されるときだ。この件については後日取り上げるとして、役員報酬に話を戻すと、株主の考え方として、「従業員と痛みを分け合う役員報酬」をステークホルダー経営時代の経営者の正しいあり方としてウェルカムとするか、そもそもコロナパンデミック自体、経営者に非があるわけはないし、2019年度の結果に対する報酬なんだとすれば、当初の報酬計算ルール通りに払うのが、正しいインセンティブとなるという考え方もあるだろう。

追加的な情報としては、英国の話だけれども、プロキシアドバイザーは、そもそも経営者報酬に対する不満は高く、なんといっても貰いすぎだといっていた。英国の機関投資家の経営者報酬に対する絶望感は強い。LIBORスキャンダル下のバークレイズ会長の高額報酬に対する批判は機関投資家の間でメラメラと燃え上がったこともあるが、それを阻止することはできなかった(会長は後に辞任。)英国では経営者報酬の絶対額に対して投資家の不満は大きい。

どういうものが「従業員と痛みを分け合う役員報酬」なのかもわからないが、これをステークホルダーへの配慮なんだとすれば、ステークホルダー経営に舵を切った?アングロサクソンワールドでどれくらい実現するのだろうか?
ただし、報酬に関して株主がもの申す機会は、唯一、”Say on Pay”投票なので、この投票がなければ、あとはエンゲージメントに頼ることになる。

さて、今までの話は、日本ではまったく当てはまらない。日本企業の経営者報酬は6割が固定報酬、つまり月給で残り3割が年次業績、1割が中長期業績連動だから、3月末の業績が悪化したとしても、株価が低下しても、そんなに浮き沈みはない。Say on Payもないから、株主の「株で貰え」の大合唱もない。報酬水準は米国の1/10以下だ。ウェブに落ちている経産省のCGS勉強会資料(タワーズワトソン製)によれば、2015年時点でCEO報酬レベルは米国で14億円、英国で7億円、独仏で5~6億円、日本1億円と、圧倒的に日本の経営者報酬は低い。日本の経営者は、経営者というより、従業員ピラミッドの頂点という意味合いが強いから、給与水準も出世梯子で繋がっている。

さらに、コロナパンデミックでは、どこの企業も「雇用を守る」を全面に出している。もちろん、守る雇用は正社員でありブレッドウィナーとされる世帯主である夫の雇用だ。そのために日本には、非正規雇用というバッファーがあるし、平成30年間の実績もある。

雇用を守ることを最優先課題とする日本において、なんと報酬に関して、すでに100社以上が、決算を発表する前に役員報酬カットを役員会で決めている。あるいは、自主返上だ。明らかにコロナパンデミックがハードヒットしたと思われるサービス業を中心とし、固定報酬を10~20%、3か月から6か月くらいが平均で、社長、内部取締役、執行役員なかには社外取締役も監査役も含まれていることもある。報酬委員会が関与した形跡はない。。まるで、懲戒処分の減給のようだ。売上消滅による業績悪化に対する自己処分と想像される。これが、「従業員と痛みを分け合う役員報酬」のパターンとして、ステークホルダーの他利のため自らの経営者報酬を諦めるというステークホルダー経営美談になってしまいそうなのだ。

しかし、これが、ステークホルダー経営のあるべき姿なのか?コーポレートガバナンス上株主はウェルカムすべきことなのか?
経営者が自ら減給する目的は何なのか。減配無配にむけての地ならしなのか、IRコンサルにすすめられたからか、運転資金借入に向けて対銀行アピールなのか、賃金引下げやリストラ人員整理が次に来るのか、そういった後ろ向きの経営判断を、ちょこっと役員報酬カットで正当化しようということかもしれない。
資本主義としてあるいは株式会社の経営論として、シェアホルダー最優先の立ち位置から役員報酬カットがどういう経済効果があるのか、という観点で評価すべきだろう。この「従業員と痛みを分け合う役員報酬」の日本パターンは、経営者インセンティブのsloppy(ゆるい)感はやっぱり否めないと思うのだが、機関投資家株主はどう評価するのだろう。

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